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妹のいる生活  作者: むい
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第百六十六話 お友達


「あらあら。ふふふふふ……」

「むほほほほほ……!」


 馬が合う、と云う言葉がある。


 今、俺の目の前にいるふたりがまさにこれで、固い握手を交わしている。


 一方が、リュシカ・クレーンプット。

 もう一方が、タルビッキ・アホカイネン。


 母親同士の邂逅だった。


「ノエル、行っちゃった……? るるーるー……」

「めー! にーたから離れるの! にーたに触れて良い、ふぃーだけなの!」


 どこかションボリとした様子で俺の袖を掴むぽわ子ちゃんと、それを見て激怒しているマイシスター。


 どうしてこうなったのか? 

 話は、ほんの数分前に、遡る。


※※※


「うわわ、警備の人、来ちゃったね」


 けたたましい音を響かせる防犯ブザーをやっとの事で停止させると、イケメンちゃんが人ごみの方を見ながら肩を竦めた。

 当然と云えば当然の話だが、今の音と光で、警備の人間が現れたのだ。


 最初、彼らは真剣な顔で飛んで来たのだが、ここにいるのは幼い子供ばかり。

 ぽわ子ちゃんの手には、防犯用の魔道具。


 すぐにイタズラか誤作動だと当たりを付けたようだった。

 人騒がせなと呟かれてしまった。


 うっかり起動させてしまったのだと事情を説明し、頭を下げるイケメンちゃん。

 言葉は発しないが、俺も一緒に腰を折っておく。

 その光景を不思議そうに見つめている、ぽわ子ちゃん。


 マイマザーが駆け寄って来たのは、そんな時だ。

 エイベルの姿が見えないのは、人ごみも人間も苦手だからかな? 

 あの人の性格だと、たぶん、どこかで見守ってくれてはいるのだろうが。


「アルちゃん、フィーちゃん、どうしたの!? 大丈夫だった!?」


 状況も事情も確認することなく、真っ先に抱きしめられてしまった。口元のソースが俺のほっぺたにくっついたが、この際、それは云うまい。


 俺は母さんに、ここで知り合った子が誤って魔道具を起動させたのだとだけ説明した。


「あら、可愛い子たちね?」


 俺たちを抱きしめながら、ノエルとミルを見た感想が、これだった。

 口元の汚れた我が母を、ふたりはどう思ったのだろうか。


 一方、イケメンちゃんのほう。

 警備の中に知り合いがいたらしく、父親が呼んでいると云われていた。


 こう云った祭りの時は国の騎士やら兵士やらだけでなく、冒険者ギルドの人間も警備業に駆り出されるらしい。

 ノエルの場合、後者に知り合いがいたようだ。

 今回なんて、特に突発のお祭りだしね。臨時雇いの冒険者も多かろうな。


 イケメンちゃんはミルママを探してあげねばと思っていたようだが、もともと、ちょっとした息抜きで父親から離れていたに過ぎない。戻らないわけには行かない。


 するとマイマザー。大きな胸をぽよんと叩き、私が探してあげるわと大見得を切った。


 こうまで云われては、引き下がらないわけにもいかない。中性的な友人は、お願いしますと我が母上様に頭を下げた。


「アルのお母さんなら、きっと安心だね!」


 無邪気な視線が痛い……。

 うちの母さん、頼りになるのかなァ……? 

 口元とか、まだ汚れているけれども。

 いや、今、俺が拭いておくか……。


「アル。フィー。ミル。機会があったら、また会おう!」


 そう告げ、爽やかに去って行くイケメンちゃん。

 しかし、再会は難しいだろうな。


 俺やフィーは滅多に外出することが出来ないし、ぽわ子ちゃんは一躍、時の人。ノエル自身も護民官の子供として忙しいはずだ。

 加えて、住所も知らなければ、連絡手段もない。


 次は一体、いつ会えるのやら。

 パパッとアドレスを交換し、連絡しあえた現代日本の、なんと便利なことであっただろう。


 警備とイケメンちゃんが去り、ゴミ捨て場には、我が家とぽわ子ちゃんだけが残る。


 母さんは笑顔で、今知り合ったばかりの幼女に話しかけた。


「こんにちは。私はリュシカ。アルちゃんとフィーちゃんのママよ?」

「むん……? 『ル』が付かない……?」


 ぽわ子ちゃん、まだそれ引っ張っているのか……。


「『ル』が気に入っているの? じゃあ、ルシカでも、リュシカルでも、好きに呼んで良いわよ? ルールルルー!」

「るるーるー……?」


 ぱしんとハイタッチ。


 すげえ。

 母さん、あんたすげえよ……。


 意味不明だとか微塵も思わず、そのまま会話を続行できるのか。


「私、ミル……。『ル』が付く……? 付かない……?」


 いや、付いてるだろ。何で疑問系なんだ。


「ミルちゃんね! 可愛いから合格! 後は二の次、三の次! じゃあ、私と一緒に、お母さんを探しましょうか?」


 ノリと勢いだけで生きている御方だからか、ぽわ子ちゃんと会話が噛み合っていなくても平気なようだ。

 或いは、精神年齢が近いのか。


 手を握られたぽわ子ちゃん。

 もう片方の手で、自分のお腹を撫でている。


「あら? お腹空いてるのね? 実は、私もなのよー。ミルちゃんのお母さんを捜す前に、あっちの屋台で何か食べて行きましょうか?」


 いや、あんたさっきから食いまくってただろ。まだ食べる気なのか……。


「にーた、ふぃーも! ふぃーもお腹空いた! 撫でて!」


 俺の片手は母さんとつないでおり、もう片手は妹様とつないでいる。

 なので、今撫でるのは、ちょっと無理かなー?


「虫さんのお母さん、良い人……? 『ル』が付かないけど、良い人……?」


 まあ、変な人なのは確かだね。

 そうして食事のための移動を開始しようとした時、女性の声が響いた。


「ミル!」

「むん……? あ、お母さん」


 信号弾を目印に走ってきたのだろう。ぽわ子ママこと、タルビッキ・アホカイネンが、息を切らしてやって来た。


 そして、冒頭に戻る。


 母さんとミルママは波長が合ったのか、名乗り合うと、すぐさま意気投合してしまった。

 類は友を呼んだのだろうか?


「そうなのよー。うちの子たち、天才で」

「うちの子なんて、将来の救世主なのよ! むほほっ!」


 串焼きにがっつきながら、我が子自慢を始める親バカふたり。


 まるで互いの身分を明かしているかのような会話だが、そんなこともない。

 これは単なる一方通行。


 母さんは、ぽわ子ちゃんが奇跡の夜の立役者だとは知らず、ミルママは、俺が魔術免許を持っていることを知らない。

 一方的に我が子を褒めちぎっているだけである。


 太平楽だとは思うが、これで良いのだとも思う。

 単なる陽気なママ友でいるほうが、面倒もなくて良いのだろう。


「はむ……。はむ……?」


 言葉通りにお腹が空いていたのか、ぽわ子ちゃんは一心不乱に串焼きを食べている。


 ただ、その動作は酷く緩慢だ。

 食べこぼしも多い。口元も汚れている。


 なんだか、ハシビロコウの食事風景を思い出す。


(あーあーあーあー、拭いてあげたいなァ……)


 しかし、今の俺は妹様に食べさせてあげることに忙殺されている。

 我が家の天使様も元気いっぱいに食べるから、都度、拭いてあげねばならない。


「ふへへ……! ふぃー、お肉好きッ!」


 食べ物に『好き』と『大好き』しか存在しないマイシスターは、そんな風に笑う。

 お腹が満たされたことと、俺に付きっきりでお世話されていることで、機嫌が良くなったらしい。

 これなら、少しはぽわ子ちゃんと会話しても大丈夫かな?


「ミル、美味いか?」

「むん。楽しい……!」


 美味しいじゃなく、楽しいと来ましたか。

 その心は?


「私、初めて友達が出来た。四人、いっぺん」


 俺。フィー。イケメンちゃん。

 後の一人は、まさか母さんか?


「友達、心がぽかぽかする、の……? 踊りたい気分?」


 肉の刺さった串を天に掲げる救世主様。

 ちょっと変わった子だけれども、良い子なんだろうよ。

 俺のほうも、光栄に思うべきなんだろうな。


「私、今日のことを忘れない。あの夜よりも、ずっと大事」


 ぽわ子ちゃんは、そう云って笑った。


 それは俺が初めて見る、満面の笑顔だった。


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