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妹のいる生活  作者: むい
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第百五十話 初めての登城?


 お城なんかとは、無縁の人生だと思っていた。

 そして、無縁でいたいとも思っている。


 しかし今日、前世も含めて、初めてお城へ行くことになった。

 王侯貴族や役人に呼ばれた訳ではなく、招かれざる客として。


「……アル、準備は良い?」

「え? ああ、うん……」


 目の前には、覆面姿のエイベル。

 いつもの青いローブは着ておらず、覆面に合わせた黒装束だ。


(……シュールだ)


 なんか、小さい子が無理して仮装しているかのような微笑ましさがある。

 どうやっているのか知らないが、自慢の耳も完全に隠れている。

 なので、パッと見で種族を特定するのは不可能だろう。悪ふざけしている人間の子供に見えるかもしれない。


「…………? どうしたの、アル。ジロジロと見て?」

「いや、何でも」


 俺も同じ服装だしね。

 きっと同様にシュールなんだろう。


 なお、愛する妹様は夢の世界に置いてきた。

 今頃は母さんに抱かれて、幸せ一杯に寝息を立てていることだろう。


 ぶっちゃけ、あの子に隠密行動が取れるとは思えない。

 気の毒だが、連れて行くわけにはいかない。


「……では、行く」

「おうさ」

「……アル、私の手を、離しては駄目」


 云うが早いか、返事を待たずに俺の手をギュッと握るマイティーチャー。


 そうして、離れを出る。

 門番はしっかりと、夜もベイレフェルト邸を守っていた。

 当たり前の話なのに、なんだか新鮮に見えた。


 夜に道を歩くと、いつも見ている風景も、随分と変わって見える。


 王都の商業地区は不夜城に近く、夜通し明るい。

 そこ以外も王都には街灯が配置されているから、重要拠点は軒並み明るい。

 貴族街も、また。


 なので、夜間でも本来なら黒装束は目立つと思う。

 けれど、全てが全て明るいわけでもない。

 まるで影踏みでもするように、闇から闇を渡り歩いて、辿り着いたのは公爵邸。


 貴族街を出るのかと思ったが、取り敢えずの目標はここであるらしい。


(バウスコール公爵家……! 代々がバリバリの王党派の、有力貴族だ)


 俺は恩師に振り返る。エイベルはちいさく頷いた。


「……公爵邸の庭には、王城へと続く地下通路がある。ううん、逆か。王城から外へと続く、と表現すべきだった」


 地下通路! 

 そういうのもあるのか! 


 王族の緊急脱出用だろうか? 

 確かに伝統ある都なら、そういう類の通路があってもおかしくはない。いや、あるはずだ。


 でなければ六代前のゴタゴタの時に、行方不明になった『真の王族』なんて、出るはずがないからな。


 ムーンレイン王家の正嫡には簒奪劇から逃げおおせたと噂される者がいる。

 その後一切、歴史の表舞台に出て来ていないのだから或いは単なる噂話かもしれないが、いくつかの死体が発見されなかったのも事実だ。

 もしも本当に逃亡に成功したのならば、こういう通路を活用した可能性は大いにある。


「でも、何でエイベルはこの通路を知っているの?」

「……私ではなく、正確には商会の知識。ショルシーナはエルフ族が人間に迫害され、襲われた時のカウンターとして、多くの情報を調べ、握っている。これも、そのひとつ」


 やるな商会長。

 だてに何百年も人の世で暮らしているわけではないと云うことか。


「……まずはここに進入する」

「ぬあっ!? え、エイベルさんっ!?」


 ちんまいアーチエルフ様は、俺を抱きかかえた。

 まさか男の俺が、お姫様だっこされる日が来ようとは……!


 そして、そのまま跳躍。高い壁を飛び越える。


(流石は公爵家の庭だ! ベイレフェルト家の庭よりも豪華じゃないか!)


 フィーに見せたら喜びそうだが、こんなところで喜ばれても困るな。

 でも、ちょっとしたアスレチックとか作ってあげられそうだぞ、ここは。


「……動物除けの魔術を使う」


 エイベルは人除け以外の魔術も心得ている。人除けよりも動物除けの方が、難易度が高いらしい。臭いや物音に敏感だから、当然っちゃ、当然なのだが。


 エイベルが用意してくれた黒装束には臭いを消す魔術も掛かっているらしいけど、念には念を入れているのだろう。


(おおっ! ドーベルマン!)


 先へ進むと、何頭かの犬が見えた。

 ちゃんと番犬が放たれているんだな、公爵家。


 ベイレフェルト家には、それはいない。巡回は人間がやっている。これは意識の差だろうか? それとも、立場の差と云うべきか。 

 ここには秘密の通路があるのだし、他所よりも厳重に警戒するはずだからな。


 そうしてすいすいと庭を進み、木々に囲まれた大岩へと辿り着く。

 エイベルが奇妙な宝石をかざすと、岩が動いて、地下への道が現れた。


「エイベル、それは?」

「……こういった仕掛けを起動させるための、『王家の証』。その、レプリカ」


「それも商会が用意したの?」

「……ん。百年くらい時間を掛けて、怪しまれないようにちょっとずつ解析して複製したと云っていた」


 す、凄いな、商会長。長寿のエルフならではか。


 俺とエイベルは地下通路へと進んだ。


(通路の地図まであるのか……)


 内部は数年に一度、商会の幹部がこっそりと見て回っているらしい。流石に末端商会員にまでは、こういった情報は漏らさないようだが。

 それでも、この国の王族よりも商会幹部の方が、地下道に詳しいのかもしれない。


 覗き込んだ地図には、出入り口の記載が複数あった。

 中にはもう完全に塞がっている場所もあるみたいだが。


(俺も少しは覚えておいた方が良いのかな? いや、使う機会なんてないだろう)


 そんな訳で、サクサクと進む。

 分岐は多いが、迷うこともない。エイベルが魔術で灯りをくれるので、暗くもないし。


「……ん。ここから上がる。王宮の庭園に出るはず」

「見張りとかは大丈夫?」


「……周囲に大型の魂はない。魔力も感知できない。たぶん、大丈夫」

「『たぶん』なんだ?」

「……私を上回る魔術師ならば、感知をかいくぐることが可能だと思う」


 どこにいるの、そんな人?


※※※


 初めて進入した庭園は、品が良く落ち着いていた。


 敷地内には複数の庭園がある。


 たとえば貴族の参集や催し物が開かれる場所は華美だし、騎士たちを集めてお披露目や激励を飛ばす前庭は広大だ。


 けれどここには、静けさがある。

 多分、限られた王族だけが立ち入れるとか、そんな場所なのだと思う。

 でなければ、逃走経路にも使えないはずだ。


 王宮内の地図も商会は用意してくれている。


 場所を把握していること、そして人払いの魔術があること。

 この二点のおかげで、すいすいと目的地の傍までやって来られた。


 ちょっと気になったのは、遠目に見えた守衛の質だ。

 しっかりしている連中と、どうにも緊張感のない連中がいた。


 指揮官が違うのかな? 

 でも我がベイレフェルト家の使用人にも、フスのようないい加減男もいるから、たまたまかもしれないが。


 エイベルに抱えられ、三階のバルコニーから内部へと入る。


 流石に夜間だけあって、王宮でも真っ昼間のように明るくはない。

 夜の病院や夜の学校みたいに、非常灯だけが灯っているのと同程度の明るさと表現すれば、少しは伝わるだろうか?


 王族が寝泊まりする建物は複数あるが、内部も内部で区分けがされているようだ。


 守備は一階を中心に固められているので、王妃の暮らす三階は、実はそれ程、守護者を配置していないようである。

 俺たちは簡単にここまで来たが、忍び込むのは、本来はとても大変に違いない。


「……ちいさい魔力が階段わきと扉の傍に、ふたつずつ。これは宿直(とのい)だと思う。他に、大きな魔力がひとつ。免許試験の時に感じるものと同一だから、あの子供のものと思われる」


 村娘ちゃんの魔力量、エイベルから見ても『大きい』のか。凄いな。


「大きな魔力の傍に、ちいさな魔力がひとつ。これはあの子供の護衛だと思う。そして、酷く澱んだ魔力が、離れてひとつ。病人だとすれば、多分、これが目的の人物。邪精ほどではないけれど、かなり(いびつ)。確かにこんなものを内包していたら、長くは保たない」


 村娘ちゃんと村娘ちゃんママは、別々の部屋で生活しているのかな? 

 まだ五歳になったばかりだろうに。


 俺なんて、きっと来年でも母さんやフィーと一緒に寝ている気がするぞ?


「さて、それじゃあ、お母さんとの対面といきますか」


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