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妹のいる生活  作者: むい
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第百四十七話 妹様の天職?


 神聖歴1205年の二月。


 ガドの工房に、ちいさな変化が訪れた。

 ある設備が追加されたのだ。


「ふぉっ! ふぉおおおおぉぉぉ~~~~っ!」


 出来上がり品を見て、フィーの目がキラキラしている。

 それは、最愛の妹様にかかわることでもあった。


「にーた!」

「はいはい」

「これ、格好良いッ! ふぃー、これ、気に入った! ふぃーも! ふぃーも、やってみたい!」


 と、云うか、フィーのために作った設備だ。


 工房に追加されたのは、土を焼くための竈だった。

 それを使って作り出した物。


 それは――ハニワだ。


 この間、粘土を買ってきて、妹様の意外な才能を知った訳だが、それに母さんが大興奮。

 エイベルに頼み込んで、竈を用意して貰ったのだった。


 なお、熱源は『炎の魔石』である。

 ガドが目をむいていたから、きっと魔石の中でも、逸品なのだろう。


「こんだけ見事な魔石なら、そりゃァな。俺らドワーフだけでなく、赤蜥人あたりも涎を垂らすと思うぜ?」


 そんなものを用意して貰って良いのかとマイティーチャーに訊くと。


「……ん。この魔石を使う方が、安全で管理も楽。普通の竈よりも、良いものが出来るはず」


 と云う利便性アピールが返ってきた。

 そう云うことじゃないんだが、良いのかなァ……?


 その後、新設された竈で試しに何かを焼いてみようと云う話になり、俺が作ったのが、ハニワだったのだ。


 鎧兜を身につけるとかの凝った物ではなく、大きな目と口の空いた、ちょっと間の抜けたシンプルなデザイン。

 妹様は、このハニワが大層、お気に召したらしい。


「ハニワ! これ、ハニワ云う!? ふぃー、ハニワ好きッ! ふぃーも! ふぃーも、粘土こねる! ハニワ作りたい! にーた、ふぃーに作り方、教えて欲しい!」


 余程気に入ったのか、大興奮のマイシスターに、抱きつかれてしまった。


「コミカルなデザインねぇ……。確かに、フィーちゃんが喜びそう」


 と、母さん。

 別に作るのは、皿でも壷でも何でも良かったんだが、何となくハニワにしただけなんだが。


 うちの天使は、他所の子と比べて、ちょっと変わったところがある。

 ほんのちょっとだけね?


 ハニワのような変わったデザインを好むのだ。


 そういえば、雪精のシェレグの外見にも、少し興味を示していたか。


(メジェド様とか見せたら、気に入りそうな気がするなァ……)


 捨てるシーツとか、手に入らないかな? 

 今度ミアに訊いてみよう。


※※※


「んしょ……! ん~しょ……っ!」


 と云う訳で、一心不乱に土をこねる妹様。


 もの凄く真剣な表情だ。いつもは満面の笑顔か泣き顔か、はたまた、ゆるんだ寝顔ばかりだからな。

 ちょっと新鮮。


(しかし、上手だな。感覚なんだろうが、既に自己流のアレンジも加えているぞ?)


 フィーの作るハニワたちには、皆、表情が付いているし、それぞれポーズも違う。

 文様を刻み込み、武器や小物も装備させている。

 ……何故か武器は棍棒ばかりだが。


 マイエンジェル、手先が器用なんだな。

 絵は相変わらず上手くないのだが、立体物のセンスとは、別なんだろうか?


「出来た! ふぃーのハニワ!」


 こうして焼き上がった、棍棒ハニワたち。


「あの……。何か、色がスゲー綺麗なんですけど……?」


 俺の作ったハニワは、普通のハニワだ。


 しかしフィーのそれは、表面がつるつるピカピカしていて、発色も良い。

 まるで銅像のように。


 ただ焼いただけで、こんな風になるものなのだろうか?


「…………ん」


 エイベルが手にとって、しげしげと見つめている。この先生を引きつけるような『何か』があったのだろうか?


「……高純度の魔力が籠もっている。この像は、魔性具の域に達している」

「えぇっ!?」


 思わず声をあげてしまった。

 うちの妹様、魔力を込めて作ったのか?


「ふぃー、一生懸命、土をこねた! ハニワのデザイン好き! 頑張った!」


 ああ、うん。

 これ、無意識にやらかしてるパターンだ。


「土に魔力を込めるのって、難しいんだぜ? 普通は魔力の負荷に耐えきれずに、焼いてる最中に割れちまうんだが……」


 ガドが吐息している。

 ドワーフから見ても、マイシスターのやってことは凄いことらしい。


「土に魔力を込めてものを作ったりするの?」

「ごくたまにな。ただ、強い魔力は無理だから、微量の魔力を込めて強度や発色を良くするんだ。後は焼き上がった後に、ちょっとずつ染みこませる感じだな。こんな像を造ろうとしたら、年単位の時間が掛かるはずだぜ?」


「そこまでして、何を作るの? お皿じゃ採算取れないよね?」

「祭器や魔除けの像なんかだな。逆に呪うために、そこまで手の込んだことをする奴もいなくはないがな」


 この世界の像は、日本で云う厄除けの鬼瓦や、火除けの鴟尾のような効能を期待されるのだという。

 大抵は『験担ぎ』の域を出ないが、強力な魔術師が強い魔力を込めると、本当に効果がある場合もあるのだとか。


 中には時を経ると、ゴーレムやガーゴイルのようなものに変じてしまう物もあるらしい。

 流石、魔術のある世界。じゃあ、呪いの甲冑とかもあるのかな?


「そんなものを作れるフィー、凄くないか……」

「土そのものをこねる段階で均一化された魔力を付加出来なけりゃ、こうはならねェから、そりゃ凄いに決まってる。でもな、鉄を打つ時点で魔力路の形を変形させて魔剣に変えてしまうお前も大概だぞ? 全く、おかしな兄妹だ」


 ムキムキサンタクロースは憮然とした表情で腕を組んだ。

 兄妹揃って、規格外だと認識されたらしい。


 でも俺の場合は根源に干渉した後は、きちんと魔力の通る順路を考えて造っている。

 だから仮に、他にも根源魔力に干渉できる人がいれば、きっと共有できる技術になると思う。


 けれど、マイエンジェルのそれは違う。

 完全に感覚でやっている。まさに天才の業だろう。

 一括りにされていても、歴然たる差が、そこにはあるはずだ。


「凄い! 凄いわー! 流石は私の子供たち!」


 うかれて小躍りするマイマザー。

 だから母さん、兄と妹じゃ、随分と差があるからね?


 フィーは自分のやったことがよく分かっていないのか、小首を傾げている。

 たぶん、ハニワの出来を褒めてやるほうが、単純に喜ぶと思うのだが。


「ねね、フィーちゃん。お皿とか、作れるかしら?」

「お皿? おかーさん、お皿欲しい?」


 不思議そうにしながら、土をこねこねしていくマイシスター。

 よく分かっていなくても、土いじり自体は楽しそうだ。

 まあ、この娘にとっては遊びの延長だろうからな。


 俺も、ちょっとやってみようかな……。


 土をいじると同時に、根源に干渉。

 発色が良くなるとのことだったので、魔力を付与。


 魔剣と同じように、魔力の通る順路をつくり、構造そのものを補強する。

 あとは魔石の魔力を焼いた時に取り込めるようにして、と。


 一心不乱に土をいじっているだけのマイエンジェルと比べると、小賢しいことしてるなーと云う気持ちになるが、感覚で行ける才能は、俺にはない。だから、出来る範囲で作らないとね。


 そうして焼き上がった兄妹の陶器。

 フィーが作り上げたお皿は、まるで貴金属かと思うかのような光沢を湛えている。


 何をどうしたのか、その色は淡いダークブルー。

 指で弾くと、キィーンと、とても綺麗な音が響いた。


「凄ェ……」


 と、ガドが呟いた。

 このおっさんにこう云わせるって、フィーの作ったこれ、本当に凄いんだろうな。


 対して、俺が作った食器は、ちいさめのマグカップ。

 色々やったわりには丈夫なこと以外に見るべき物はない。


 これは何だろうね? 魔力の差なのかな?


 しかし、上手く行った部分がひとつ。


「ふぉおおおおおおお! にーた、これ、綺麗! フィー、気に入った!」


 俺の作ったマグカップは、爽やかな桜色になっていた。

 予定では炎の魔力を取り込んで、深紅になるはずだったのだが。

 好きなんだよね、赤いマグカップ。


 だが実際に出来上がったのは、桃色(これ)だ。

 デザインもごく普通だし、色も色だし、俺が自分で使うことはないだろう。


「フィー、これ、いるか?」

「いーのッ!?」


 超反応する妹様。

 そっちの作った皿よりも、きっと数段劣る出来だと思うぞ?


「やったああああああああああああああああああああああああああああ! にーた、ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 好きッ! ふぃー、にーた好きッ! これ、大事にする! ふぃーの宝物、また増えた!」


 ピンク色のマグカップを持って跳ね回るマイエンジェル。


 転ぶなよー……? 


 まあ、魔力で補強済みのマグカップだから、落としたりぶつけても、ちょっとやそっとじゃ壊れないだろうけれども。


 一方で、母さんとガドは妹様のつくった皿に夢中。

 土で作ったとは思えないくらい異様に綺麗だしね。

 俺のカップが目に入らないのも、仕方のないことだ。


「ふぃー、にーたにお礼する! にーたの食器、ふぃーが作る!」


 気をよくしたのか、腕まくりをし、猛烈な勢いで土をこね始めるマイエンジェル。

 素人目線だが、既にこね方が堂に入っている気がするぞ。


 母さんが親バカ目線で云った物作りの才能、まさか本当にあるとは思わなかったわ。

 土をこねることは、マイシスターの天職なのかもしれない。


 そんな妹様を見守る俺の袖を、ちんまいエルフがくいと引く。


「……私も、アルの作ったカップが欲しい」

「え、俺ので良いの?」

「……ん。アルのが、欲しい」


 あ、はい。

 すぐに用意しますです、お師匠様。


 こうして俺も、追加の作業へと入ったのだった。


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