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妹のいる生活  作者: むい
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第百四十六話 知らない視線


「おう。そうだ。もっとしっかりと打つんだ!」


 今日も今日とて、ガドの指導の下、剣を打つ。

 日進月歩とまではいかないが、ずっとやっている分、のったりゆっくり、上達はしているようだ。


「……相も変わらず、酷ェ、なまくらだなァ……」


 俺の剣を見たガドが裁定を下す。

 売り物どころか、武器としてまともに使えない出来のままらしい。


「……やっぱ駄目か」

「まあなぁ。だが、そうだな。超超超超超ダメダメな剣が、超超超超ダメダメくらいには、成長しているぜ?」


 それって、意味があるんだろうか? 

 まあ、全くの無駄ではないようだから、このまま続けるしかないのだが。


 俺は工房の待機スペースに視線を移す。

 そこでは、フィーと母さんがオモチャで遊んでいた。


 妹様が今、夢中になっているのは、ブロックだ。

 決められた形のブロックをたくさんくっつけて、任意の形を作っていくアレ。

 地球世界でも子供から大人までファンがいるブロックのオモチャ。


 六級試験の後に商会で買ってあげた、新商品である。

 これも売り込みはドワーフであるらしい。


 フィーは元気いっぱいな子なので、身体を動かすのが大好きだ。

 だが、砂遊びや積み木、粘土細工など、『何かを作る』遊びも、とても気に入っている。

 そんなマイシスターにとって、ブロックは大喜びのアイテムとなったようだ。


(今度、ビーズでも買ってあげようかしら? あれも色々出来るよね)


 フィーの何が偉いって、遊んだら、きちんと自分でお片付けをすることだろう。

 子供特有の、『遊んでいるうちに部品のいくつかをなくしてしまった』と云うことがない。

 積み木もブロックも、粘土の細工道具も、ちゃんとしまっている凄い子なのだ。


「にーたが買ってくれた、ふぃーの宝物!」


 うん。積み木は俺が買ったんじゃないぞー。

 でも、物を大事に出来る子なんです。兄ちゃんの自慢です。


 鍛冶の修練が終わると、フィー待望の、俺との時間になる。

 マイエンジェルは嬉しそうに駆け寄って来て、俺に飛びついた。


「ブランコ! ふぃー、今日はブランコが良い!」


 たった今までブロックで創作活動をしていたからか、今度は動くものが良いらしい。


「よし、ブランコに乗るか!」

「ふぃー、にーたと一緒に乗る! にーたのお膝好き!」


 おうおう。嬉しいこと、云ってくれるじゃないの。

 だから俺はフィーを抱えたまま、ブランコへと向かった。


 だっこされたまま運搬されるのがお気に入りの妹様は、鼻の穴をすぴすぴと膨らましてご満悦。

 そのまま横板に腰掛ける。


「にーた、ふぃーと一緒に漕ぐ!」

「おう、行くぞ!」


 振り子のようにロープが揺れる。

 その度にマイシスターがきゃっきゃ、きゃっきゃと大はしゃぎ。

 ブランコ作って良かったなぁと、心から思う。


 実はこの新設遊具、たまにミアの奴がこっそり使っているんだよね。

 まあ、別に良いんだけれども。


「ふへ……! ふへへへ……ッ! ふぃー、ブランコ好き! にーたが好きッ!」

「俺もフィーが好き!」

「でへへへへへ……ッ! ふぃー、にーたに好きって云って貰えた! 嬉しい! 嬉しいッ! ふへへ……! うへへへ……!」


 こうまで喜ばれると、他の遊具も作ってあげたくなるなァ……。

 なるべく危険の少ないものでね。


 ああ、うん。

 遊具のひとつひとつに目くじらを立てる世のお母様方の気持ちが、ほんのちょっと分かったわ。

 でも、公園から撤廃させるのは、やりすぎだと思うがな。


「んん……?」


 デレデレ状態のフィーとラブラブランコを楽しんでいると、不意に視線を感じた。

 誰かが、俺たちを見ているらしい。


(誰だろう……? ベトベトとまとわりつくような感じじゃないから、ミアじゃないよな……)


 そもそもあいつなら、普通に話しかけて来るか。

 フィーとのいちゃいちゃタイムでも全く気にせず、己が欲望を最優先し、マイエンジェルを激怒させるのだ。


 振り返っても、誰もいない。

 しかし、誰かが隠れる気配がした。


 生け垣の間から、ちいさな何者かが、確かに俺たちを見ていたのだ。


 使用人たちから蔑んだ目を向けられることは珍しくないが、あの人らは俺たちを見ている暇があったら、仕事をするだろう。

 見下すよりも、仕事の方が大事っぽいからな。当然っちゃ、当然だが。


(ちいさい……。ちいさいってのが、ポイントだ)


 この屋敷にいるのは、基本的に大人ばかりだ。


 ミアとイフォンネちゃんは比較的ちいさいが、前述の通り、駄メイドは除外。ゼーマン子爵家の三女様はコソコソする意味がない。


 他は、うちのお師匠様もちっこいが、エイベルもイフォンネちゃんと同様に、コソコソするようなマネはしないだろう。


 となると……。


「にーた! 誰かいた! 誰かが、ふぃーとにーたを見てた!」


 さっきまで、でへでへ笑っていたマイエンジェルが、ビシッと生け垣の方を指さした。


 うむむ。

 妹様も気付いたとなると、視線を感じたのは、俺の気のせいではないようだな。


 探知系魔術がさっぱりの俺だ。こういう時、対処する方法が無いのが困る。

 今回は『ただ見ているだけ』の人物だから尻尾を掴めなくても問題はないが、万が一にも氷原に出かけた時の様な状況になったら、フィーを守れなくなってしまう。


 エイベル曰く、今後ちゃんと教えてあげるから、焦らなくて良い、らしいのだが、それはそれとして、やっぱり歯がゆい。


 だから、その後に出た俺の言葉は、そんな感情から出た、適当なものにすぎなかった。


「フィーは、魔術で分かったりしないか」

「んゅ? ふぃーの魔術?」


 大きな瞳が、ぱちくりと俺を見上げる。

 そしてそれは、すぐにやる気あふれる勇ましい表情に変化した。


「ふぃー、やってみる! みゅみゅ~~~~んっ!」


 目を閉じて、むにゃむにゃ口を動かす妹様。

 これはアレだな。詠唱じゃなくて、ただのかけ声だな。


「見えたっ! あっちに、魂、ふたつある! 一個は大きくて普通の魂! もう一個は、ちっちゃくて魔力がある!」


 おいおい、マジかよ……。

 これ、いつもの『感覚での魔力感知』か? 


 いや、それなら、魂にまで言及するのは、おかしい。

 となると……。


 魂命術か! 


 そういや、この娘、魂の位置も把握出来るんだったな。


(妹よ、こんなことが出来るなら、俺を見失う度に、大泣きする必要はないのでは……?)


 それは今度指摘してあげるとして、今は、ふたつの魂だ。

 大きくて普通、と云うのは、おそらく成人した使用人のそれだろう。


 問題は、もうひとつのほうだ。


 ちいさい、とフィーは云った。

 そして、俺が見た人影も、『ちいさい』。


 つまり、子供がいるのだ。


 薄情と云われれば、それまで。

 しかし一方で、係わったことがないのも事実。


 イザベラ・エーディット・エル・ベイレフェルト。


 このベイレフェルト家で、今のところ『唯一』の子供であり、母親違いの、俺たちの――。


 現在、妊娠中のアウフスタ夫人が男の子を産まなければ、侯爵家を継ぐことになるかもしれない女の子。


 たしか魔力持ちで、英才教育を施される予定だとか。

 そんな子が、この場所に?


 たまたま通りかかったのか、俺たちを見に来たのか、それとも、このブランコが気になるのか。


「にーた! ここからなら、ふぃー、届く! 魂、砕ける!」


 砕いちゃいけません!


「でも、おかーさん、蜜月睦言をのぞき見る輩は排除すべしって云ってた!」


 マイマザー……。

 それ、まさか実体験じゃないよね? 


 と云うか、たまに教育に悪いんだよなぁ、あのお人は。

 その悪影響で、フィーがどんどん、怪しげな言葉を覚えていく。


「あ、にーた。魂ふたつ、行っちゃった……!」


 何故か無念そうに口を尖らせるマイシスター。


 結局、向こうがこちらにコンタクトを取るようなことはなかったな。


 しかし、この家には『そういう人物がいる』のだと、思い出すことの出来た一件だった。


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