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妹のいる生活  作者: むい
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第百四十五話 売り込みをしたが……


「にーたあああ! にいいいいいいいいいいいいたああああああああああああああああ!」

「フィーいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 泣きながら駆け寄って来た妹様を、がっちりキャッチ!

 ああ、マイエンジェルの感触の、なんと落ち着く事よ。


「にーたあああ! にーたあああああああ!」

「よしよし、よく我慢したな……!」

「ぐすっ! ふぃー、ふぃー、寂しかったよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 しっかりと抱きしめ、頭を撫でてやる。


 フィーが泣くのも寂しがるのもいつものことだが、今回は自発的に「頑張って」と云って送り出してくれたのだ。

 いつものようでいて、この娘も成長しているのだと思うと、兄として誇らしいぞ。


「フィーのおかげで、兄ちゃん頑張れたぞ。ありがとな?」

「ふぃーの、おかげ……? にーた、ふぃーで頑張れた?」


「うん。フィーの応援のおかげだ」

「ふ、ふへへへへ……! ふぃー、にーたのお役に立てた! ふぃー、それが嬉しい! ふぃー、これからも応援する! ふぃー、にーた好き! 大好きッ!」


 泣き笑いで、ほっぺたを押しつけられてしまった。

 ともあれ、機嫌が直ってくれたようで良かった、良かった。


「アルちゃん、お疲れ様。大丈夫だった?」

「うん。我慢してくれたフィーよりは。偉いぞ、フィー」


 マイシスターの頭を撫でておく。

 ふへふへと笑い声が聞こえた。


「さあ、ここからが本番よー! 商会で甘いものを買うの!」

「えぇっ!? ついこの間、商会長に貰ったじゃないか」

「あんなんじゃ、次の外出まで保たないわー。買えるうちに買っておかないと!」


 太るぞ、と云ってやりたいが、云うと俺が死ぬ。

 雉も鳴かずば、うたれまい……。


「ふぃーも! ふぃーも甘いの好きッ!」


 そして元気よく手を挙げる妹様。

 この娘も甘いの大好きだからなァ……。肥満児には、ならないでくれよ?


「アルちゃんは約束通り、フィーちゃんにオモチャを買ってあげるのよー?」


「にーた、ふぃーにオモチャ買ってくれる?」

「ああ、そういう約束だからな」


 頑張って寂しさに耐えてくれたマイエンジェルとの契約なのだ。

 何を置いても果たさねばならぬ。


「良かったわね、フィーちゃん。アルちゃんに、ちゃんとお礼を云うのよー?」

「う、うん……ッ! ふへへ……ッ! にぃさま、ありがとーございます! ふぃー、とっても嬉しいです!」


 俺には約束を守ることを念押しし、フィーにはお礼を云うことを促す。マイマザー、ちゃんとお母さんしているんだなぁ……。


 物を買うのはタダではないが、今日の売り込み品でペイ出来ると良いなァ……。


※※※


 と云う訳で、やって来ましたショルシーナ商会。

 相変わらず繁盛しているようで何よりだ。


 前回に引き続き、エイベルは倉庫エリアで待機している。

 なので、クレーンプット一家だけでの来訪となるが、それでも三階の応接室へと通された。


(ちっこいエルフがまた正座させられてる……。一体、何をやったんだろう……?)


 視線を合わせるのは、やめておこう。

 あっしには関わりのないことでござんす。


 気を取り直して、今回持ってきた商品はふたつだ!

 そのうちのひとつを、でんと置いてみた。


「これは……船、ですか? 船がビンの中に……?」


 そう。

 これはボトルシップだ。


 時間を掛けて頑張って完成させたのだ。

 ……まあ、ピンセットだけでなく、生のままの魔力で部品をつまんで作業するズルはしたんだが。


 良いよね、ボトルシップ。

 見るだけでワクワクが止まらないだろう? 土産物にぴったりだと思うのだが。


 しかし、ハイエルフズの反応は鈍い。

 商会長とヘンリエッテさんは、顔を見合わせている。


「……あの、アルくん?」

「はい?」

「アルくんは、空間魔術が使えるのですか?」

「えぇっ!?」


 そうか、そう考えられてしまうのか。

 まさか船の素材をバラバラのままにして、手間暇こさえて内部で組み立てるなんて考えもしないのだろう。

 確かにビンの入り口よりも大きいものが入っているのならば、魔術を使ったと思う方が自然だ。


「あ、いえ。ピンセットでつまんで、時間を掛けて作りました」

「え、わざわざ、何故にそんなことを……?」


 商会長に真顔で返されてしまった。

 ただの徒労だと思われたのだろうか?

 時間を掛けて船を完成させることも、ボトルシップの醍醐味だと思うのだが。


「……確かにお土産としては価値があるとは思いますが、量産に向かないものは、商品には出来ません。一部の好事家や貴族ならば喜ぶのでしょうが、当商会は基本的には、大衆向けの品をメインに考えておりますので。売れるとは思いますが、作業に時間の掛かるものに、職人は回せませんね」


 う……。そうか。

 作るのは商会所属の職人たちだ。


 彼らは他の商品の作成もせねばならない。

 地球世界なら、工場で大量生産出来るものも、ここでは手作業出だ。

 だから、こういうものは数が出せないのか。


「アイデア自体は良いですし、欲しがる方は多いと思いますが、現時点では、数を売り出すのは厳しいかと」


 むむむ。失敗した。

 駄目じゃん、俺。


「ただ――」


 商会長は続ける。


「これ自体は前述の通り、絶対に欲しがる方がいると思います。なので大量生産は無理ですが、今、手元にあるこのボトルシップですか? これそのものの買い取りはさせては頂きたいのです」

「あ、はい……。それでお願いします……」


 お金になるなら、何でも良いです……。


「それにしても大した発想ですね。最初、ヘンリエッテが悪ふざけしたのかと思いましたよ」


「ん? ヘンリエッテさん、空間魔術が使えるんですか?」

「ほんの少しだけですけどね。あまり大層な力を想像されても、困ってしまいますよ?」


 可愛らしく、ウインクされてしまった。


 本当かなァ……。

 この人なら、凄いことが出来そうな気がするんだけど。


「それで、もうひとつ、売り込み品があると仰っていましたが?」

「ああ、はい。これです」


 取り出したるは、十五パズル。

 スライドさせて数字を合わせていく、あれだ。


「ふむ。遊具ですね」


 ルールを説明すると、パチパチと数を合わせていく商会長。

 てか、早いな。すぐに整ったぞ?


「ふーむ……」


 難しそうな顔をしている。

 どこか駄目だったかな?


「えっとですね、アルくん」


 商会長に代わり、ヘンリエッテさんが説明をしてくれる。


「このオモチャは、数字が分かることが前提ですよね?」

「あ――!」


 識字率! 忘れてた!


 そうかー……。

 識字率かー……。


 大都市以外では、読み書き出来る人間が少ないのだ。

 数字は文字よりも浸透しているだろうけれども、それにしたって完全に読めることが前提なのは駄目だろう。


 たとえばこれが粘土なら、そのまま遊べる。

 読み書き出来ない親が読み書き出来ない子供に、なけなしのお金で買ってあげるとしたら、文字や数字を必要としないものになるに違いない。


 ……俺が今まで作ったピーラーやら爪切りやらは、何も考えなくても、そのまま使える商品だったんだな。

 そういう部分を気を付けねばならなかったか……。


 自分の粗忽さに呆れていると、元気よく声をあげる子がひとり。


「はい、はーい! ふぃー! ふぃーに良い考えがある! 数字じゃなくて、絵にする! パズル動かす、絵が出来る!」

「おお!」


 そうか、確かにそれなら、文字・数字が分からなくても楽しめるか。


「す、凄い、凄いぞ、フィー!」

「ふへへ……! ふぃー、にーたに褒められた! ふぃー、もっと、にーたの役に立つ! 撫でて!」


 中途半端に前世の知識があるせいで、『数字でなければならない』と云う固定観念があったか。

 素直にイラスト付きのスライドパズルにしておけば良かったんだ……。


 出来る妹の頭を要求通りに撫でて褒め称えていると、


「他にも問題点はありますね。このパズル、ある程度の法則性が分かれば、あとは作業になってしまいます。飽きが早いと思います」


 一瞬で整えてのけた商会長に、その点も指摘されてしまう。


 オモチャを次々に購入する人ももちろんいるけれども、一度買った物で何年間も長く遊び続ける家庭も、また多いのだと云う。

 地球世界よりも経済が発達していない分、そうならざる得ないのだとか。


 穴だらけだな、今回の商品。


「そう落ち込まないで下さい。こちらのパズル、数字から絵に変更するならば商品として成立するでしょう。買い取り自体はさせて頂きます。ただ、その――」


 高額は無理ってことね。


 でも、妹様に救って貰えて、助かったぞ。

 いくばくかの、お金にはなるらしいからな。


 こうして、今回の俺の売り込みは微妙に失敗した。

 次はリベンジだ。


 悔しくなんか、無いんだからね!


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