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妹のいる生活  作者: むい
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第百二十五話 ハイエルフ・ミィスの日常


 私の名はミィス。

 ショルシーナ商会に務める、誇り高きハイエルフ。


 エルフ族は本来、人とは係わらないのだけれど、我が偉大なる祖であるラミエル様は「外の世界を見て回りなさい」と云う言葉を残し、他種族との交流を切り開いた偉大なエルフです。


 ラミエル様の血を継いでいることは、私の誇りなのです。えへん。


 人の世に出て来て、偉大なる高祖様のお言葉が正しいことを知りました。

 だって、人の世はご飯が美味しい! お菓子が美味しい! そして何より、お酒が美味しい!


 まず単なる噂にすぎないのでしょうが、偉大なる高祖・ラミエル様も、外に出た直接の動機は、『世界美味いもの巡り』であったと云う話もあります。


 いえ、誇り高きアーチエルフが、そんな低俗な理由で旅に出るとはとても思えないので、これを信じているエルフはあまりいないのだけれども。


 しかし、人の世はお酒が美味しいのは事実。

 私の日々の楽しみは労働を終えた後の一杯にあると云っても過言ではありません。


 あ。

 私はワインよりも焼酎派です。麦酒も好きです。いくらでも飲めます。


 もちろん、翌日に影響を残すようなことはしない。

 商会長に大目玉を食らいますので。


 さて、私の務める商会ですが、現在は少し忙しい。


 新商品のピーラーや爪切りが好調と云うのもあるのですが、商売とは別件の用事もあったりする。

 なんでもエルフ族の有力者の娘が家を飛び出してしまったとかで、商会に捜索を頼んできたのです。


「この忙しい時に!」


 商会長はそう云いながらも、すぐに各支部へと連絡をしていました。

 なんだかんだ云いつつ、同族大好きなんですよね、うちの商会長。

 ラミエル派でもないのに、人間社会で暮らしているのも同族のためだったりしますし。


 つい先日は、恐れ多くも高祖様を招聘して協力を要請していました。

 もちろん商会長は平謝り。本来、エルフの少女が家出したくらいでお手を煩わせるなんて、無礼の極みですからね。


 人間を基準にたとえると、部下の家族が失踪したので王様も捜索を手伝って下さいと云うようなものなので、私としては、よく頼めたなと。


 幸い、あの高祖様は無礼だ身分だと云うことに頓着はしない性質の持ち主。

 特に気分を害した様子もなく、


「……ん。私も出来る範囲で探しておく」


 そう答えて下さいました。


 あの方は同族にとても優しい。

 けれどそれは、無原則でもない。


 ハーフエルフ。

 エルフ族には、そういう存在もいる。


 いや、エルフの中には、『ハーフ』はエルフと認めないものもいた。


 ハーフとは、人間とエルフの合いの子だ。


 そもそも交雑出来るのは人間族だけで、たとえばエルフとドワーフがカップルになっても、子供は生まれない。

 ハーフエルフやハーフドワーフを作り出せるのは、人間族だけ。


 そしてハーフと云う存在は、どちらの種族からも同族として扱われないことが多いのです。

 特にエルフ族は人間を嫌っていますし、血筋を大切にするので、ハーフは目の敵にされがちです。


 エルフ同士の結婚であっても、ハイエルフとノーマルのエルフでは、身分違いとして反対されることが多い。

 これは単純な立場の差が原因になるだけではなく、能力の低下を招くからでもあります。


 ハイエルフとノーマルエルフが混ざると、生まれてくるのは、ノーマルのエルフになることが殆どです。

 ハイエルフはアーチエルフ直系の血筋ですので、その血はとても大切にされます。


 ハイとノーマルが混ざってダウングレードすると云うことは、それだけ八人の始祖から遠ざかると云うことなので、敬遠されるのです。


 ショルシーナ商会長もその血筋を大切にしていますし、私も結婚するなら、ハイエルフ以外はお断りです。


 しかし一方で人間族と積極的に仲良くなるエルフもいます。

 それは私も所属するラミエル派に特に多いです。


 人と交流するのですから、これは当然の帰結で、現にうちの職員にも、人間と付き合っているハイエルフもいますし、副会長は、「好きあっているなら、別に構わないと思います」と云う立場ですし。


 云ってみれば、ラミエル派にも、交流のみに留めるべきだという派閥と、結婚も構わないという派閥があると云うことですね。


 私も仲良くするのはやぶさかではないのだけれど、結婚は無理。生理的に嫌。


 人間だって色々な種族と仲良くなるけど、リザードマンと結婚する人はまずいない。それと同じ。

 仲良くはなれるけど、結婚まで考えるつもりはない。


 ラミエル派ですらこの調子なので、ハーフに対する風当たりの強さは、ある程度、想像できると思う。


 ただ、『同族だと思えないこと』と『見下して差別してやろう』と云う考えの間には、当然ながら、相当な距離があるわけで。


 ノーマルエルフの名族に、後者の考えを持つ青年がいました。

 五代前にハイエルフの血が入っていることが自慢と云う、血統絶対主義の人物です。


 ハイエルフの私からすると、それだけでもう笑っちゃいますけどね。ぷぷぷ。

 いや、まあ、私も広義には彼と同じかもしれませんがね。


 彼はハーフエルフを同族とは認めませんでした。


 それで何をやったかと云うと、『ハーフエルフ狩り』です。

 ハーフエルフや、ハーフエルフの子を殺して回りました。


 快楽殺人ではなく、信条犯。

 陶芸家が不出来な作品を打ち壊すように、まがい物のエルフがいることが許せなかった、と云うのが、その犯行理由です。


 しかし、その論法だと、森の大聖霊様から直々に作られた八人以外は劣化品になりますからね。


 本来、私たちハイエルフは、レッサーエルフとでも云うべき存在なのですが、わざわざ『劣った』名称を好んで付けるものもいない。

 結果、上の存在をより良い名前で呼ぶようになったわけです。


 だから高祖様たちは自分を『アーチエルフ』とは呼びません。

 ただ一言、『エルフ』と云うのです。


 話を戻します。


 彼の所行は、高祖様に知れました。

 そして、死んだ方がマシだというような、苛烈な罰をくだされたのです。


 あの時程、高祖様を恐ろしいと思ったことはありません。


 普段は物静かで、アーチエルフと知らずにほっぺたをつねったり頭を撫でるような無礼を働いた人物にも鷹揚であるあの御方が、本気で激怒していたのですからね。


 その後、高祖様は自らの名で宣言しました。ハーフエルフは、同族である、と。

 一方で無理に融和しろと云うつもりもないとも云われたのです。


 我々エルフは人間を嫌いますからね。

 それが『混ざった存在』を押しつけることを避けたのでしょう。


 実際、揉めた勢力同士は、ある程度距離を取った方が上手く行く場合も多いのですからね。

 良き配慮をして頂いたと感謝すべきでしょう。


 こう云うことがあったので、子孫を持たぬほうの高祖様は、ハーフエルフたちに絶大な人気があります。


 それから、例の青年エルフの一族は、事の次第を知った『天秤』の高祖様に、その殆どが処断されました。

 実行犯だけに罰を加えた高祖様とは違い、まさに秋霜烈日です。


 さて、そんなわけで高祖様にも家出エルフの捜索を頼んでいるわけですから、所属職員である私も、頑張って探さなくてはなりません。


 とは云え、無策で探し出せと云われても、それは不可能。情報が必要になります。

 そして、情報が集まる場所と云えば、それは、今も昔も酒場です。

 これはどうしたって、酒場に行かなければなりません。


 私は情報収集のために飲み屋に赴くのであって、サボりではありません。

 しかも、おあつらえ向きに、呑み仲間の神官から、お誘いがありました。


 デボラという人間族の女性は聖職者であるにも係わらず、酒を飲み、タバコを好み、博打が大好きという罰当たり。

 日々真面目に商会勤めをしている私とは正反対の人物ですが、お酒の趣味だけは合いました。

 なので、たまに一緒に飲みに行きます。


 教会って過去をねつ造してエルフを目の敵にしている悪質集団なので個人的には大嫌いなのですが、彼女のような例外もいるのです。


 デボラはあれで顔が広いので、私の欲する情報が得られるかもしれません。

 向こうも向こうで、何か私に相談があるようです。


「そう。これは、ひとえに商会のために」


 私は意気揚々と定時退社と決め込みました。


 商会は今、忙しい? 知ってますよ? 

 だからこうして、家出娘捜索と云うお仕事をするのです。


 今日はとことん、呑むとしましょう!



 アーチエルフからハイエルフが作られ、ハイエルフから、ノーマルのエルフが作られました。

 その『製造過程』についてはいずれ記すつもりではありますが、まだまだ先になると思います。

 

 また、ミィスは「リザードマンと結婚する人間はいない」と発言していますが、結婚している人間も、少数ながら存在します。彼女が知らないだけです。


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