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妹のいる生活  作者: むい
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第百七話 激闘! 残念師弟コンビ!


 夕暮れ時の我が家。

 俺は庭を見渡せる一室で、エイベルに膝枕をされている。


 ここは、俺とエイベルが初めて出会った場所。

 丸裸にひんむかれた場所でもある。


 俺は傷つき倒れている。

 自業自得だが、敬愛する母君様に、キツい制裁を喰らったからだ。

 エイベルは、そんな俺の頭を、太ももに乗せているというわけだ。


 ちなみに、フィーは母上様が回収していった。

 親友に気を遣ったのだろう。


「……あれは、アルが悪い」


 そう云いながら、俺を撫でる手は優しい。

 まあ、エイベルはいつだって優しいが。


 夕焼け色に染まったエルフの少女は、俺に微笑を向けていた。

 普段、表情の変わることのないエイベル。

 感情の変化があった時も、基本は無表情のまま。


 けれど、俺とふたりだけの時は、こうして微笑んでくれる。

 たぶん、無意識なのだろう。

 それはきっと、とても貴重な、俺の特権。


「…………」

「…………」


 無言のまま見つめていると、エイベルは目を逸らしてしまった。

 きっと恥ずかしかったのだろうな。

 普段から帽子を目深に被っているのも、他所様に見られたくないという消極的な理由からなのだし。


(でも、俺を撫でる手は止まらないのね)


 目を閉じてみた。

 もっと彼女を見ていたいけど、それだと話が始まらない気がして。


 妹様の誕生日以来、エイベルはどうにも、俺に対して気まずそうだ。

 今回は、それを払拭するチャンス。

 うちの先生とは、いつだって良好な関係でいたい。


 なので、ジッと待つ。

 エイベルが喋ろうと思うまで。


 ――が。


(あかん。眠たくなってきた……)


 遊び疲れている所を、このなでなで。

 今の俺は、逆フィー状態。


 このままだと、眠ってしまう。

 せっかくエイベルが自分から寄ってきてくれたのに、「寝ていて聞いていませんでした」、では悔やんでも悔やみきれない。


 なまじ瞳を閉じたことも追い打ちとなっている。

 眠い時に寝られるというのは、本当に幸福で、無理をすれば命に係わると云うのは骨身に染みて分かっているが、今は眠るわけにはいかんのだ!


 眠気をこらえてひく付いている俺は、さぞかし間抜けな顔をしていることだろう。

 母さんもフィーも、夜はゆるみきった顔をして眠る。

 ならば自分の寝顔も、きっとそのカテゴリーに属するはずだ。

 今はそんな姿、見せたくない……。


「……アル」


 自分との戦いに没頭していると、天上より女神様の声が響く。

 どうやら、意識を手放す前に話してくれる気になったらしい。


「んゅ……?」


 思わずフィーのような声を出してしまった。

 自分で考えていた以上に、眠気に押されていたらしい。


「…………」


 目を開けると、エイベルの微笑は消えていた。

 代わりに、どこか沈痛そうな無表情が、そこにある。


「……ごめんなさい」

「えっ!?」


 突然そんなことを云われて、俺は驚く。

 だって、エイベルに何かされた覚えはない。

 なのに、どうして謝るのだろう?


「……私、アルを傷つけた」


 はい?

 ますます意味が分からんぞ。

 俺はエイベルに感謝こそすれ、酷いことはされていないのだが。


 戸惑っていると、エイベルは貝のペンダントを取り出した。

 マイエンジェルの誕生日に彼女に渡したアレだ。

 ちゃんと身につけてくれているようだ。


「……アルは私のために一生懸命これを作ってくれたのに、お礼も云わずに駆けだしてしまった」


 えっ!?

 そんなこと気にしてたの!? 

 律儀すぎでしょ、この娘。


「まさかエイベル、ずっと気まずそうにしてたのって、それが原因……?」

「……………………ん」


 消え入りそうな声で、エイベルは頷く。

 俺は思わず、身を起こしてしまう。


「あのさ、俺、そんなの全然気にしてないよ?」

「……アルは優しいから、そう云う」


 違うよ! 

 考えてもいなかったんだよ! 


 優しさを発揮する場所じゃないよ、ここ! 

 あと俺、別に微塵も優しくないよ!


「…………」


 うむー……。

 しかしエイベルは俯いてしまっている。


 これはアレだな。

 下手に「気にしないで」と云うよりも、何か代案を出してあげて、禊ぎの代わりとした方がいいのかもしれない。


「そうだ! じゃあ、エイベル」

「…………?」

「耳触らせて」

「……それはダメ……ッ!」


 何でだよ、ちくしょォオォォ!

 そこだけは即決で否定なのかよ!


「……いくらアルでも、それだけは……ダメ……」


 無表情のまま目を伏せ、頬は真っ赤になっている。

 やっぱエルフ相手だと耳の話はセクハラになるのかなァ……。

 母さんに知られたら、またおしおきされてしまいそうだ。


「…………」


 ぐっ……。

 別の意味で、エイベルを沈黙させてしまった。


 ダメじゃん、俺。

 謝らなきゃ。


「ご、ごめん、エイベル……」


 いつの間にやら、こちらが謝る側になった。なんという失態……!

 俺が肩を落としていると、その様子がおかしかったのか、エイベルが笑った。


「……もう。アルは仕方のない子」


 ぐしぐしと頭を撫でられる。

 しかし、その表情には、暗さはない。


 なので、追撃だ。

 俺の方が悪いままで突っ走ろう。


「じゃあエイベル、俺のこと、許してくれる……?」

「……ん……」


 顎に指を当て、考え込むお師匠様。

 そして、俺を真っ直ぐに見る。

 表情に変化はないけれど、またまた頬が赤くなっている。


「……春」

「うん?」

「……春になったら、私は一度、浮遊庭園の様子を見に行く」


 庭園とか持ってるのか、この人。

 てか、浮遊って何だ?


「……その……。アルも、その時についてきてくれるなら……許してあげる」


 おっと、期せずしてデートのお誘いを頂いてしまいましたな。

 断る理由は、俺にはない。


 魅惑の耳まで真っ赤にしている我が師を前にして、弟子として断れようか?

 いや、断れるはずがない!


「うん。ついて行くよ。エイベルの庭園を、俺も見てみたい」


 これは、本音でもある。

 どんな園を持っているのか、確かにそれは気になる。

 エイベルの庭園ならば、きっと見応えがあるのだろうな。


「……ん。じゃあ、やくそく」


 そして、指切り。

 ダンスの約束以来の指切りだ。


(どうして貝を見て走り去ってしまったのかとかは、結局分からないままだけれど、きっとそれは、まだ訊くべきではないんだろうな)


 いつかその辺も、話してくれるようになると良いのだけれど……。

 そんな風に考えていると、


「……ん」

「おわっ!」


 マイティーチャーに引き倒され、俺は再び、膝枕の格好になる。

 エイベルは照れているのか、顔をそむけていた。


「……アルの傷が癒えるまで、このまま」

「……うん」


(薄々気付いていたけれど、俺たちふたりは、残念なコンビなのかもしれないなァ……)


 けれど、きっと相性は悪くない。

 それで良い。それが良い。


 それを認識できた、不思議な夕暮れ時だった。


 アルが食らったおしおき=くすぐりの刑

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