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若葉マークの姫君  作者: May Packman
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若葉マークの姫君

 今度はクラスプレートを何度も確認しました。《一年κ組》。間違いありません。

 漢字とギリシャ文字の並びが踊り出し、ゲシュタルト崩壊が起こりそうになったところで教室に足を踏み入れました。喧騒と緊張が綯い交ぜになった雰囲気に気圧されそうなったものの、伸びた背筋はそのままに歩いてゆきます。机にはそれぞれ着席すべき方の名前が貼ってありました。見慣れぬ名前の群れに眩暈を覚えましたが、新たな友のものだとも思えばすべてが気高く感じられました。

 私は自分の席に着きました。一年間この机で勉強をするのです。初めましてこんにちは。どうぞよろしくね。

「ねえ、どこの中学校」

 机を優しく撫でていたら、後ろから肩を叩かれました。振り返ると、大きくてくりくりした目を輝かせた女の子がいます。こちらが返す前に、元気よく喋り始めます。まるで綺麗に響くトランペットのような声音です。

「私はオリビア。『オリビア・ニュートン・ジョン』。よろしくね」

 握手の形で手をこちらに伸ばしてきました。

なんと吃驚。外国の方です。高等学校とは国際交流がかくも自然になされる場所だと思い知らされました。

 しかし、私は喜色を浮かべて手を伸ばしながら、はたと疑問に思いました。オリビアさんの顔は、私がイメージしていた欧米の方のそれとはかけ離れているのです。それどころか色濃く日本の血を受け継いでいるような、奥ゆかしき雰囲気を持った和風美人さんなのです。

 それにオリビアさんのお名前には聞き覚えがあるようでなりません。既視感ならぬ、既聴感とでも言うのでしょうか。

「あれ、ジョーク通じているかしら」

 オリビアさんは首を傾げました。私もつられて首を傾けます。鏡が目の前にあるようでした。

 私は恐る恐る口を開きます。

「以前に、オリビアさんにお会いしたような。いいえ、会うのは初めてなんです。でもお名前は遥か昔から知っていたように思うんです。不思議です。こんなことがあるんですね」

「そうね。色々と不思議だわ」

 オリビアさんは弾けるように笑いました。

 高校生とはなんと刺激的なのでしょう。

 私は高等教育の場において、一知半解の権化であり、やることなすこと全て初心者なのだと痛感致しました。

 よく車に若葉のマークのシールが貼られているのを見ます。あれは運転初心者の方が貼るものだそうです。

 私こそ、あれを全身にくまなく貼りたくるべきでしょう。そうすれば多少の世間知らずも、皆さん許してくれるに違いありません。

 偶然にも隣の席の殿方が持っていました。彼は「四枚あるからいいよ」と言って気前良く扇状にシールを広げました。私は有り難く頂戴致することにしました。さながらババ抜きをするようにその中から一枚を選び取ります。

 制服の上から、背中の、肩と肩の間くらいにぺたりと貼ります。いつしかこの高校生活という大海原で、自信を持って思うが儘に揺蕩うことが出来たとき、そのときがこの若葉を取り外す瞬間なのです。新緑が冴え、実をつけ花をつけ、となっているに違いありません。

 これは後から知ったことなのですが、その日から、私は『若葉マークの姫君』と呼ばれることになるのでした。なんとも恐れ多い二つ名。お姫様だなんて、照れてしまいます。


宜しければ短編、あるいは他の長編も御座いますのでご清覧下さいませ。お気軽に感想、評価をお願い致します。

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