プロローグ 3 転生
結局、号泣してしまった。
それでも閻魔様は嫌な顔一つせず、背中をさすってくれた。
「閻魔様は……お優しいのですね」
「…………」
?
「いや……そんなんじゃねぇよ、俺は。お前が思ってる以上に……ひでぇ奴だよ」
何故か閻魔様が、悲しそうに見えた。
▽▽▽
僕は結局異世界に行くことになり、閻魔様に詳しい話を聞いた。
僕が転生する世界はゲームのような世界でレベルやステータスがあるらしい。
転生と言っても赤ん坊になる訳じゃなくて、生前の体を再現してそこに魂を入れるというものだそうだ。
そういえば。
「閻魔様、その、お仕事のほうは? 僕なんかにこんな時間かけてしまっていいのですか?」
「ん? 仕事? 仕事か、俺には……直属の部下が数人いるんだ。あとは……わかるな?」
「…………」
閻魔様の仕事はとても大変だと聞いたことがある。
部下さん、過労死しないといいけど……。
「まぁそんなことは置いといてだ」
置いといていいのか?
「お前、名前は?」
「え、あ、いえ、お恥ずかしながら最下級神ですので、名前はないのです」
「あ、そうか……」
神は上級神以上になったら、命名神様から名前を授かることになっている。
最下級神の僕がもっているはずがない。
「よし、じゃあ俺が授けよう。」
「え? そ、そんな! 恐れ多いです!」
「人間は普通もってるぞ? 向こうで名乗る名がないと困るだろう?」
「それはそうですが……」
「それともなんだ? 俺じゃ不満か?」
……その言い方は卑怯だ。
「……では、お願いします」
「オーケーオーケー。こんな時のために色々考えておいたんだ。紅鎌、魔愚磨、那羅喰、それから──」
どうしよう、純粋に不満になってきた。
……なんだか死んでから感情を感じることが多くなった気がする。いや、絶対増えた。
「ククク、冗談だ。……本気で嫌そうな顔しないでくれ。お前にぴったりなのがあるぞ」
期待していいのだろうか?
「『フライハイト』、どうだ。かっこいいだろ?」
「……フライハイト、ですか。」
「あぁ、どっかの言葉で自由って意味だ。気に入ってくれたか?」
……閻魔様はそんなに僕が自由でいてほしいのか?
でもまぁ、いい名前だと思うし、閻魔様が授けてくれたんだ。
死神として、一個人としても嬉しくないはずがない。
「はい、とても」
「そうかそうか、……よかった」
閻魔様はとても安心したように笑った。
▽▽▽
「ありがとうございました。……色々と」
「いいっていいって、俺の趣味にも付き合ってくれるんだからな」
「あぁ、やはり趣味なんですか、転生」
「いや、ちゃんと理由はあるんだが……。まぁ半分以上は趣味だな」
「理由とは?」
「え、あ、まぁ……色々だ、色々」
なんだろう?
「じゃあ、初めるぞ」
「あ、はい。お願いします」
……聞かない方がいいのかな?
閻魔様みずから造ったという、
魂非初期化転生装置『ウロボロス』を起動する。
「自由に生きろよ」
「その言葉、何回も聞きましたよ」
「ククク、言い足りないぐらいだ。
……では、達者でな」
「はい」
閻魔様には、短い間だったがとてもお世話になった。
僕は深く、深くお辞儀をした。
視界を、白が満たしていく────
◎◎◎
「行ったか……。今まで悪かったな……。いや、これからも、か?」
「それは本人の前で言うべきだったのでは?」
「そう、だな。俺も言おうと思ってた……。だが、本人を目の前にすると……怖くて、結局逃げちまった」
「大きな体して顔までゴツいのに、変なところで臆病なんですね。まったく、面倒くさい奴です」
「あぁ、面倒くさい奴だよ、俺は──ってお前いつからいた!?」
「さぁ? いつからでしょう。そんなことより、閻魔様こそ仕事サボって何やっているんですか?」
「あ、その……だ、大事な用事があって……」
「ではもう終わりましたね? 今すぐ仕事に戻ってください。このままでは部下たちがさっきの方のように過労死してしまいますよ?」
「わ、わかった……。だがもう少し待ってくれ。『ウロボロス』は使用後すぐに手入れしないと壊れちまうん───」
「今すぐ、です」
「え、ちょ、まっ」
「今すぐ、です」
「ちょっと!? 引っ張るなー! 離してくれー! あんなに時間かけて造ったのにー! 造り直しとか辛いよ!? ねぇ聞いて!? 少しだけだから! 少しだけ時間をk─────」
扉は無慈悲に閉まった。