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ワンモアタイム  作者: アンソニー 計画
催花、16歳
7/18

「うん、そうだねえ。 大体何言ってるのかわからないよ。」

先輩の悲鳴をBGMに保健室に向かう。

あの2人は大人しくしていただろうか?


「失礼します……旭さん?青くん?」


保健室を覗くと、そっくり同じ顔がこちらを向いた。

顔中絆創膏だらけだ。


「催花ちゃん!」


青くんはパッと笑顔になってこちらに駆け寄って来た。


「よかったよ、翠と同じ空間に入れられて気が狂う所だった!」


「はあ?それはこっちの台詞なんだけど。」


「まあまあ……。」


まだ仲直りしてないのか……。


私は2人をなだめつつ、間に立つ。


「2人とも……そんな怪我するほど喧嘩しちゃダメだよ。青くん!旭さんがいくら姉だからって女の人に手あげたらダメ!」


そう諭すと、青くんは首をかしげた。


「でも翠は女の子蹴るよ?」


ふーむ。これは反論出来ない。


「邪魔者は全部蹴散らせ。」


「何その標語!?旭さんも暴力で解決しようとしないで!

……ほら、手貸して。」


2人の手を無理矢理掴んで悪趣味させる。

こんな幼稚園児にするみたいなこと……なんでしてるんだろう。


「はい、これで仲直り。

もう争わないでね。」


「こんなんで仲直りとか。馬鹿にしてんの?

雌雄決めるまで全身全霊で殺し合う。これが我が一族の流儀。」


「幼稚園児じゃないんだからこんなんで仲直り出来ないから。舐めてんの?

白黒付けるまでは屍山血河でやり合う。これが我が一族の掟。」


「世紀末にでも住んでるの?」


旭一族がロクでもないということはわかった。


「じゃあもういいや……。旭さん、戻ろ。」


「えっ」


「えって……まだ保健室いるつもり?もう授業始まるよ?」


もう、というかあと1分で始まる。

主に阿賀野先輩と関谷先輩と旭さんたちの喧嘩のせいである。


「このままサボればいいじゃん。

英語とかだるくない?」


私、前彼女が自分を優等生と自称しているところを聞いたことがある。

優等生を自称するなら授業をサボるなよ。


「テスト前だから……そろそろマズイ。」


「テスト……そんなものもあったな……。」


青くんが遠い目をし始めた。

それと同時にチャイムが鳴る。

心の中で先生に謝った。ごめん、こんな双子と関わったばかりに先生の授業が受けられなくなってしまったよ……。


私も今回のテストばかりは遠い目になってしまう。

何と言ってもイジメを受けて勉強どころではないのだ。


家で眠ればイジメられる悪夢を見、授業中自分が悪く言われる幻聴が聞こえ、ノートを開くと死ねと赤い文字で書かれていて……今回赤点を取らなかったらすごいことだと思う。


「……大丈夫か?」


「大丈夫。

いや!大丈夫じゃない!赤点取るわけにはいかない!授業戻らなくちゃ!」


私は旭さんと青くんの腕を無理矢理組んで保健室から出ようと扉に手をかける。

が、私が開けることなく扉が勝手に開いた。

自動ドア?


「豊平くん?」


開けたのは日和先輩だった。


「先輩!こんにちは……どうしたんですか?」


「うん?ああ、ほら……像の牙とまつげの長さについて考えていたら靴擦れしてたみたいで。絆創膏貰いに来たんだ。」


像の牙とまつげの長さについて考えてなくても靴擦れは起こるだろう。

が、私はそこには触れないでおくことにした。

横で青くんが「何言ってるんだ……」と呟くのが聞こえた。


「今保健室の先生いませんよ。」


「だと思った。今日が出張の日だって朝礼の時言ってたし……言ってなかったかな……?まあいいか。

絆創膏どこにあるんだ?」


日和先輩がキョロキョロ辺りを見渡すと、旭さんが私の腕をするりと外して棚から絆創膏を渡した。


「どうぞ。」


はい、と旭さんが絆創膏を何枚も差し出すと、先輩はそれを受け取りながら眉根を寄せて彼女を見ていた。


「君は……すごく美人だね。」


「へっ!?」


おっと……まさか先輩が軽やかにナンパを始めるなんて思ってなかった。

本当に、何を考えているのやら。


「なんですか急に……。」


旭さんは怒ったような顔で先輩を睨むが、その頬は赤い。

さすがの彼女も面と向かって褒められて照れているのだろう。


「あ……ごめん。変なこと言ったみたいだ。

いつもそうなんだ、自分の舌が鳥の群れになって飛んでくみたいにどこかに行っちゃう。俺はそれに気がつかない。でも他の人は気がついて鳥は放たれて元に戻らない。辺りにはオーブが輝いているけど誰にも見えなくてそれでも俺は……。

……なんの話ししてたんだっけ?」


今日も先輩は絶好調なようだ。

全く何を言っているかわからない。

絶句している旭さんの代わりに私が答える。


「靴擦れに絆創膏貼るんですよね?」


「ああ、そうそう。そうだったかな。

絆創膏ありがとう。この棚にあるんだね。」


覚えておかなくちゃと先輩は靴を脱ぎながら呟く。


「そういえば君の名前は?

あそこに同じ顔があるけど、うずらの卵?」


「旭 翠です。あそこにいるのは双子の弟の青で、うずらの卵じゃありません……。」


「ああ、双子……。

双子ってどうやって兄弟姉妹って決めるんだ?ジャンケン?あみだくじ?」


「先に産まれた方が私だったので姉です。」


青くんは横でぼそりと「ジャンケンで決めても良かった」と呟いた。

赤ちゃんはジャンケン出来ないでしょ。


「双子ってことは、指紋も、血液型も、うなじの向きも同じ?」


「指紋とうなじはちょっと分からないですけど……血液型は同じ、O型です。」


旭さんは自分の指を見る。

指紋は人によって必ず違うので、同じということはないだろう。


「……あ、私もO型だよ。」


私が言うと、先輩は大きく頷いた。


「俺もだ。ここ全員で輸血しあえるな。

それにしても豊平くんは凄いね。美人の双子と友達だなんて。」


「エヘヘ……まあ……。」


褒められたのが嬉しくて頭を掻いたがこれ私の手柄じゃない。


「……翠が美人だなんて……先輩、少し眼科に言った方がいいかもしれませんよ。」


「眼科に?どうしてだ?」


「物が正しく見えてないかもしれないです。」


青くんは真面目くさった顔で言うが……それでいくと青くんも美人でないということになるが良いのかな?


「そうなの?

でも眼科には行かないな。例えそれが歪んでたとしても間違ってたとしてもこんなに綺麗な姿が見えてるんだからそのままがいい。」


ノンビリと、微笑みながら答える日和先輩。

彼に冗談や嫌味は通じないだろう。


彼の浮世離れしたような口説き文句に再び旭さんの頬が赤くなる。


「青の相手真面目にしなくていいですから。

変なこと言わないでください……!」


羞恥を押し隠すように彼女はつっけんどんに言う。


「また変なこと言ってた?ごめん……。

気をつけてるんだけどな……。絡まって押し潰された線路みたいにグチャグチャで……。

……旭さんも絆創膏いるか?」


「…………いえ……。」


「うん?そう?

豊平くんは?足痛そうだ。」


先輩に指さされ、自分の足の怪我を思い出す。

雪沢に突き落とされた時の怪我はずいぶん大きな痣になっていた。


「もう血は出てないので。」


「これから怪我するところに貼っておけば予防になる。」


これから怪我するとわかっていたら人類皆絆創膏など使わなくなる。

そう思いながらも先輩から絆創膏を受け取り、膝に貼った。


「そういえば君たち授業は?」


「あ、そうだった!

行こう、2人とも!」


私はぼーっとしている旭さんの手を引いて「失礼します!」と言いながら保健室を後にした。


「……あの先輩なに?」


青くんは怪訝そうな顔で保健室の扉を見ていた。


「日和 驟先輩。」


「どういう関係なわけ?……というか、どうしたら出会えるの?ああいう人と。」


「1年生の後期の委員会が選挙管理委員で、たまたま席が近かったから話してたんだ。

それで私の父が大学教授って話したら何故か関谷先輩、阿賀野先輩、笹津先輩を連れてきて……」


そう思うと、事の発端は日和先輩なわけか。

まさかそれが私のイジメに繋がるだなんて想像もしてなかっただろう。私もわからなかった。


「……いっつもあんな感じなの?その……鳥がどうとかオーブがどうとか。」


「うん、そうだねえ。

大体何言ってるのかわからないよ。」


そう答えると青くんはもっと怪訝な顔になった。


「かなり変わってる。」


そうだね、と頷く。それには全面的に同意する。


ただ旭さんは青くんの言葉に、耳を赤くしながら小さく首を横に振っていた。


✳︎


英語の授業には遅れたが先生は特に何も言わなかった。

旭さんの顔に貼られた絆創膏を見て不思議そうにしていたが彼女が「ぶつけました」と言ったら納得していた。


とてもぶつけて出来たような傷の量ではないが詮索するのが面倒なのだろう。


授業はつつがなく終わり、私は確信していた。

今回のテストは赤点だ。


「旭さん。私、学年違っちゃうかもしれない。」


「諦めるの早くない?まだテストも受けてない。」


「学年変わったらイジメも無くなるかな……。」


「勉強しなよ。」


もし学年が変わっても仲良くしてね、旭さん……。


「……あの……。」


「松川さん?」


彼女は私の横にちょこんと立つ。

関谷先輩を罵っていた面影はない。やはりあれは夢だった?


「わ、私……塾に通ってて……。英語も予習してるからわかるんだ。

余計なお世話かもしれないんだけど……これ……。」


松川さんはソッとノートを差し出して来た。

受け取って中を見るとそれは綺麗に色分けされた英語の授業のまとめであった。


「こ、これは……Godノート……!?」


「これがかの有名な名前を書かれたものは赤点を免れるという……?」


「黒いノートにしなければよかったね……。」


「すごい……!すごくわかりやすい……!

もしかして貸してくれるの……?」


「うん。こんなものでよければ……。」


こんなもの?とんでもない!

パラパラと眺めるだけで勉強した気になる、素晴らしいノートだ!


「ありがとう……!!」


「ううん、こんなことしか出来なくてごめん……。」


「いやいや!お陰で赤点回避出来そうな気がしてきた……!ありがとう!」


お礼を言うと松川さんははにかんだ。

もしかして関谷先輩のことを黙っている口止め料だろうか?

そんなことしなくても誰にも言わない……というか誰にも言えないというのに……。


「すごい。私にも貸して。」


「無理だよ!これが無くなったら私息出来ない!」


「依存度が高い……。麻薬でも混ぜてある?このノート。」


「普通のノートだよ……。」


私からノートを取り上げようとする旭さんから逃れるように、ノートを自分のカバンに入れようとした……が、カバンが水浸しだ。


「あー。これじゃカバンに入れられないね。私によこしなさい。」


その前に一言カバンにお悔やみの言葉をくれてもいいんじゃない?


またもノートを取り上げようとする旭さんから身を離した。


「だ、ダメだよ!

……そうだ、一緒にうちでこのノート使って勉強しない?そしたらノート預けられるよ。」


「良いけど……。私そんなに英語得意じゃないよ?

あ、松川さんも一緒にどう?」


「あ、う……嬉しいんだけど……。ごめんなさい。今日から放課後全部塾入れちゃってて……。」


さすが神ノートの作り手ともなるとテストに対する意識も違うようだ。


「そっか。そりゃ残念。

一応青も連れてくか……。」


「あの……これタオル。カバン拭いて?」


「良かったね、豊平さん。

その不潔なカバンを拭いても良いってよ。」


「不潔じゃないから!

何から何までありがとう、松川さん。

旭さんもこの優しさ見習ってね。」


「ヤサシサ……?聞いたことのない単語……。」


旭さんがキョトンと首を傾げる。

イモータン・ジョーにでも育てられたのか?



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