前線後退。
誤字脱字が多いかも知れません。ご了承下さい
-正世30年6月11日-
柴田は、次の日の休暇を楽しみに、その日の予定を書いた書類をまとめていた。
自衛軍人は、休暇を取るとき、その日何処へ行くか、何をするか、などを書いた書類を、必ず部署の担当者に渡さなければいけない。
要するに、監視である。
8:00からアニメイベントへ参加し13:00まで過ごす。それから自宅で、アニメ鑑賞。ちなみに、それが三回続く。
「何ですか?その、ヒキニートが珍しく外出する日のような予定は、」
後ろから温度の無い、辛辣な女性の声がきこえる。そんなカチンと来るようなことをスラスラ言える奴・・・少なくとも此処には真鍋しか居ない。
「うるせぇ、俺はヒキニートじゃない、働いてるだろ。」
「ヒキニートじゃなくても、オタクです。」
「オタクじゃない。あくまでファンだ。」
「オタクだと認めたくないオタクは、皆そう言います。」
「・・・もういい・・・放っていてくれ。」
何か…反撃する気力がない。
「ハァ・・・」
と、深い溜め息を吐く。そこに、更に厄介な奴がくる。倉田である。
「どうしたんすか?そんな溜め息吐いて、そんなんだとカノジョできませんよ?」
「余計なお世話だ。」
こちらもまた、イラっとする事をいちいち言ってくる。
「で、何の話してたんですか?」
「真鍋が、俺の予定にケチ付けるんだ。」
「伍長、ダメですよ、人の予定を馬鹿にしちゃ、伍長の口撃、ジミに痛いんですか・・・って何すか、この腐った予定は?」
「予想はしてたが、お前もか。」
一瞬、「倉田が、珍しく助けてくれた。」とか、思った俺が、馬鹿だった。
その後やはり、河口相手に愚痴を垂れ流す。その時の河口の、「私もアニメ、好きですよ。」という、同情のこもった言葉が、痛かった。
-正世30年6月12日-22:45
アニメイベントを満喫した柴田は、自宅のテレビでアニメを見ていた。
始まって15分、ちょうど山場の所である。主人公が敵に追い詰められ、建物に立てこもり、さぁどうする?という所で、ニュース速報が入ってきた。「何だよ」と思い、飲みかけのビールを、空にしようと、缶を持ち上げるが、その手が途中でピタリと止まり、ニュースに釘付けになる。
「午後9時50分ごろ、ナーヴェスナ帝国側から攻撃があり、自衛軍と、戦闘状態になっている模様です!!」
「何かの間違いだろ?」そう言って無意識にリモコンを掴もうとした時に、画面が切り替わり、曳痕弾が赤や緑に発光し、夜空を照らす映像が映し出される。テレビの中では、キャスターが響く砲声や銃声に、負けじと声を張る。
柴田は、テレビも電気も消さずに、鍵だけ掛けて、自宅の前に駐輪してある50ccのスクーターに乗り、駐屯地へ急ぐ。
駐屯地に着くと皆、食堂に集まり、テレビを見ていた。その中に、真鍋と倉田がいた。二人に話しかける。
「何があった?」
「分かりません、ナーヴェスナから、攻撃があったっぽいと言うことしか・・・」
倉田が答える。
「それより隊長、その格好なんですか?しかも、お酒の臭いがします、飲酒運転ですか?」
真鍋が、養豚場のそれを見るかのような目で見てくる。急いで出て来たので忘れていたが、その時の格好はヨレヨレの寝間着にクロックス、おまけに少し酒臭いという、何とも言い難い格好である。
更衣室で、寝間着から迷彩服に急いで着替え、水を一杯のみ、再び食堂へ戻る。
その後、壁にホワイトボードが設置された部屋に集められ、状況の説明をうけ、この駐屯地からも増援として前線付近まで行くことが伝えられた。
-6月13日-1:30-
「クソ、休暇明けるまでアニメ三昧のハズだったのに・・・」
73式大型トラックの荷台で、今の状況に悪態をつく。
「今は、そんな子供みたいなこと言ってる場合じやないっすよ。」
普段、一番子供みたいな倉田に言われる。
「いっそ、此処で頭に穴あけて、子供からやり直す手もありますよ?」
真鍋が、こちらを睨みながら言ってくる。言っている言葉はいつもと変わらないが、いつもと雰囲気が違う。少し怒っているのだろうか?
「悪かった。」
取り敢えず謝ることにした。気付けば揺れ動いている車内で喋っているのは、自分だけだった。
それから2時間30分、トラックは走りつづけ、宮城県のある駐屯地に着いた。移動中、車内では、ほとんど誰も喋らなかった。
戦車は別のトラックで運ばれ、先に着いている。
戦車に乗り込み待機との指示があり、宮城駐屯地の入り口付近で次の指示があるまで待つ。待機しているのは柴田達、第6戦車小隊だけでなく、第8機甲師団の第7小隊と第8小隊も一緒たった。
「隊長、ここから前線までどのくらいの距離ですか?」
真鍋がそんなことを、聞いてくる。
「前線は、宮城と旧岩手との県境辺りだから、30キロくらいじゃないか?」
「そうですか・・・」
「なぜそんなことを聞く?」
「いや、さっきから、音が大きくなっている気がしたので・・・」
「そんなフラグになるようなこと言うなよ・・・」
とはいえ、さっきからやたら砲声が聞こえてくる。気になるが、今は待つしかない。
それから数十分が過ぎ、ようやく指示がでる。
全車輌出撃。
柴田達第6戦車小隊は、山道を進んでいた。上り坂や下り坂、急カーブなどが多く街灯もすくなく、不気味である。
「隊長、熱探知に何か映ってます。あれ、何でしょうか?」
倉田が、熱探知カメラに映った映像を見ながら聞いてくる。
車両を止め柴田も車長用サイトのカメラ映像をみる。
映ったものには脚があり、最初は動物かとおもったが、それはすぐに否定される。高さ2メートル長さ3~4メートル蜘蛛のような形をしている、更に2つ同じ物が奥からくる。ナーヴェスナの戦車である。
相手は、こちらに気付いていない様だった。偵察なのか?
「各車、標的確認、砲弾装填、撃て!!」
4両の44口径120ミリ滑腔砲から、多目的対戦車榴弾が一斉に放たれ、3つの標的は大破する、一発は、外したのではなく、同じ車両に撃ち込んだのだ、撃ち漏らしを防ぐためである。
「全車前進」そう言おうとした直後、目の前道路の一部が弾け飛び、それを皮切りに次々と弾が飛んでくる。
「後退っ!!」
気付くと、そう叫んでいた。4輌の戦車は、ガリガリとアスファルトを、削りながら後退する。
待ち伏せ攻撃だった。あの3両を囮に使い、発砲で戦車の位置が正確に分かったところで攻撃を仕掛けたのだ。
「危ねぇ・・・」
何とか逃げ切り、倉田が今にも泣きそうな声で言う。
駐屯地からまだ20キロメートル程度しか離れていない。前線は、10キロメートル以上先の筈・・・
『隊長、どうしますか?』
河口が無線で聞いてくる。
「取り敢えず駐屯地に戻ろう。」
そうして駐屯地へ、戻ると出撃前の何十倍も混乱し、状況が何一つ掴めなかった。
-駐屯地に戻った柴田達がやっとのことで掴んだ正確な情報は,宮城と、旧岩手の県境付近で戦っていた自衛軍部隊は壊滅し、前線が15キロメートル以上後退したと言うことだった-
戦闘シーンが少なくなっていまいました。次は、書こうと思います。