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9歳⑫

「マルナはもう居ない、インヴァストもハーローもファイネストもひまわりも、それからレナスも……もう2度と帰ってこない」


低い低いまるで地を這うような声だった。

放たれた威圧感に体がぶるっと震えた。

言われなくても解るきっとこの声こそがウォズさまだ。

恐る恐る勇気を振り絞って振り返る。


そこに居たのはボサボサの短い金髪に緑の目の青年だった。

身長は2メートルは無いと思う。

パッとみた感じは人間にしか見えない。

けれど口元に光る鋭い牙が私達とは何か違うのだと主張しているようだった。

まるで物語に出てくるドラキュラのようだと思って否定する。

日の光もちっとも苦手そうに見えないもの。


「どういう事ですか……?」


聞き返したミルの声が震えている。

私は少しでも力になりたくて繋いだ手をぎゅっと握り返した。


「あの花畑は全部燃えてしまったからな、妖精はもう居ない」


ミルは何か言いかけて口を開いたのに言葉にならなかったのかそのままぎゅっと唇を噛み締める。

そうかさっきの焼け野原で叫んでいたのは妖精の名前だったんだ。


「マルナはお前をかばって死んだ」


ウォズさまはミルを睨みつけながら口を開く。

ミルを庇ったってどういうこと!? 


「お前が死んだらレナスが悲しむとマルナはお前の村の前で全ての力を使って炎を止めた」


真っ青になるミルの顔を見ているのに私は何も出来ない。

口を挟みたいけどとても何か言える雰囲気でもなかった。


「そして消えた、解るか!?消えたんだ!」


淡々と喋っていた筈のウォズさまが声を荒げる。

怒声は空気まで揺らして私の頬をビリビリとした何かが駆け抜けていった。


「あいつらは誰も、もう戻ってこない」


私もミルも口を開けないでいた。

何を言って良いのか解らない、それはきっとミルも同じ。


「俺はお前も殺してやりたいほど憎い!だがそれをすればマルナが消えた意味が無くなる、早々に立ち去れ」


ぐわっと口を開いての威嚇。

正直私の足の振るえは止まらない。

ウォズさまは言いたい事は全て言ったのかそのまま私達に背を向けて森の奥へと歩き出した。


「待ってください!」


ミルは数歩進んで叫ぶ。

その声に反応したのかウォズさまは背を向けたまま歩みを止めた。


「どうして……どうして、レナスは戻ってこないんですか?」


ミルの声は震えている。

そうだ、ウォズさまは最初からレナスも帰ってこないと言っていた。

ゆっくりと振り返ったウォズさまは無表情で何を考えているのか全く読めない。


「俺が殺したからだ」

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