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9歳⑧

「おかえりミリア」


優しく気遣うお母さんの声を無視して私は部屋へと駆け込んだ。

乱暴に関係ない服なんかを投げながらラグリム君からの手紙を荷物から引っ張り出す。


手紙は全部で3通。

考え過ぎかもしれない。

きっとそうだ。

そう言い聞かせて開いた一番最初に貰った手紙。


『け・ん・え・つ・さ・れ・て・い・る』


検閲されている。

そう書かれていた。

検閲!? 

じゃあ7歳の時に貰った手紙は!? 

私は慌てて次の手紙を取り出した。


『お・う・と・は・き・け・ん』


王都は危険。

そのままだ……7歳の時にはもう王都は危ない場所だと私に教えてくれていた。


嘘だ……


手紙を持つ手が震える。

一番最後に貰った手紙を恐る恐る開く。


『も・う・だ・め・だ・か・え・れ・な・い』


私の手は完全に握力が無くなって手紙がパサリと床へ落ちる。

レナスより上の王位継承者が流行り病で皆死んだと言っていた。

この国は王子だけで何人いたんだっけ? 

私は人数が多すぎて覚えられないって途中で投げた。

レナスの王位継承権って何番目だった? 


思い出せない。

もっと勉強しておけば良かった。


行方不明の王子を探し出してまでなんて……

本当に流行り病だった? 


ヒントは今までに沢山あったのに、私はミルにレナスを王都へ送り出させる事を薦めた。

なんて私は馬鹿なんだろう。

こっちに居れば今頃2人はもっと……


目を瞑れば愛しそうに抱き合う二人の姿が目に浮かんで私は叫びだしそうになるのを抑えるのに必死だった。


もう私に出来る事は何も無いの? 

そんな筈はきっとない。

王都は滅んであそこに居た私達の友達もみんな死んでしまった? 

本当に? 


まだだ、レナスは王子なんだから有事の際にはいの一番で脱出している筈だ。

城の原形は残っていたっていうしレナスが死んだとは限らない。

大丈夫、きっとレナスは死んでいない。


だからミルにも……


私はミルに希望を持って欲しかった。

きっと大丈夫だって、けれど私は振り向いた後ろに居たミルの表情を見て言葉を無くてしまった。


いつも笑ってるミルが無表情のまま瞬きすらしない。

まるで人形のように固まったまま虚空を見ている。

いっそ泣き喚き続けてくれた方が良かった。


視線は合っているのに絡まない。


「ミル」


呼びかけても瞳が揺らぐことすらない。

嘘だ、こんなの嘘に決まってる。

私は両手で頭を抱えて何度も首を左右へ振った。


少しでも嫌な気持ちを外へと追い出したかったから……

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