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9歳⑤

村では皆がパニックを起こしていた。

当たり前だもう火が目視出来る距離まで迫っているんだもの。

泣き喚く人、沢山の人たち。


特に私とミルの姿が見えないと知った両親は森へ探しに行こうとして近所の人達に羽交い絞めにされて泣いている。

止めてくれて本当に良かった。


あの中に飛び込んでいたら絶対に助からない。

私達だって『あの実』を飲んでいなければ死んでいた。

森の中から飛び出して来たのを見て両親が駆け寄ってくる。


私達を抱きしめて泣く2人に私も涙がこみ上げてきた。

視線をずらせばミルも泣いている。


私達、助かったんだ……

ようやくそこで私はそう思えた。


その途端に足の力が抜けてガクンとお母さんへ倒れこんだ。

内臓が全部飛び出すんじゃないかってくらい力強くぎゅっと抱きしめるとそのまま村の一番奥へと連れて行かれた。

いつ炎がここまで来るか解らない。


森から一番離れた場所へ村の皆が集まる。

こんな大きな火事は初めてだと誰もが口をそろえて言った。


このまま村まで焼け落ちたらどうしよう? 

村の誰もが不安に怯えて震える中、透通るような高い歌声が聞こえ…それから低い大地を揺さぶるような唸りが響く。


何?この低い音は声?それとも違う何か!? 

まるで慟哭のようにも聞こえる低い低い音は途切れること泣く響き渡る。


その音は村の誰もが聞いたのに誰一人として正体が解らなかった。

ただ一つ言えるのは村の少し、ほんの少しだけ手前で突然炎が消えた事だけ。


これは神の奇跡だという人も居たし、全く逆の事を言う人も居た。

真相は誰にも解らないまま日が完全に落ちて私達はそれぞれ自宅へと戻る。



どんよりした気分が晴れないまま一夜を明かした。

もう朝なのに外はなんだか薄暗い。


「嫌な天気ね……」


母の呟いた声は皆の気持ちを代弁していたと言っても過言ではない。

ポツポツと降り始めた雨もまるで森が泣いてるみたいだとすら思う。


「静か」


ミルから零れた言葉に私も頷く。

聞こえるのは雨音だけ。


いつもなら葉っぱが擦れる音、鳥の声、それに虫の羽音なんかが聞こえる。

でも今日は森の音が何一つ聞こえない。


村よりまだ奥に続く森は焼けてないのにまるで森の全てが死んでしまったみたいだ。



ずっとぼんやりしているだけではダメだと思うのにまるで森に気力が吸われるかのように何もする気が起きない。

それはうちの家族だけではないみたいで隣の家の人もずっと玄関で空を見上げてぼーっとしていた。


それでもその翌日には皆なんとか気力を取り戻し日常へ戻りつつあったのだ。

私達はこの7日後ゾラードがやって来るまでこの悪夢はこれで終わったのだと信じきっていた。

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