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9歳

私がこの村に来てから1年と少し過ぎた。

今は月に1度一緒についていくかいかないかのペースまで落としレナスの顔は暫く見ていない。

けれど私は何もかもが順調に言っていると思っていた。


森から帰ってきたミルはいつもご機嫌だしこの前は指輪を貰ったのだと嬉しそうに報告してくれた。

この国にはそんな習慣は無いのだけれど別の国では結婚を申し込む時に指輪を渡すらしい。

そっして左手の薬指に…


ってこの辺の話は前世だと当たり前だったのだけどこっちに生まれ変ってからは一度も聞かなかったから国によって色んな文化があるんだなぁと思う。

まぁ同じ国の中でもテトラの花の話があったり無かったりするんだから当たり前か。


帰ってきてから肌身離さずニコニコと指輪を眺めていたミルが私の方へ視線を向けてこう言い出した。


「ミリアっち、明日は最後だから一緒に森へ来て」


ついさっきまでの笑顔が消えて無表情になったミルに私は固まる。


「最後って…?」


不穏な言葉に私の声が震えるのが解る。

まだ両親の帰ってきてない家の中に居るのは私達2人だけ。


「レナスは明後日発つことになってるからアタシらと会えるのは明日で最後やから…」


俯いたミルの表情が見えない。

私はテーブルの向かいに座ったミルの方へ行こうと立ち上がる。

慌てた所為か椅子が大きな音を立てて倒れた。


「明後日に発つってどこへ?」


そんな話何も聞いてない。

私から出る声も動揺が隠し切れなくて掠れてる。


「王都」


呟くその声は聞き取り難かったけど私が産まれたあの場所だと解る。

個人的には王都にあまり良い思い出は無い。


「ミルは王都に行かないの?」


お父さんやお母さんは反対するかもしれないけれど、私も一緒に説得するよ。

私の拙い言葉にミルは首を横にふる。


「アタシは…いけない」


俯いたまま首を振って嘆くミルに私は掴みかかった。

そんなのミルらしくないじゃない?


「なんで!レナスの事愛してるんでしょ!」


好きなんて軽い気持ちでない事はもうよく解っている、だから私はあえて「愛している」と言ったのに……

ガバっと勢い良く顔を上げたミルの瞳には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。


「身分が違いすぎるのよぉ」


私は初耳だったレナスの身の上話をこの時初めて聞かされた。

レナスはこの国の王子だったけど勢力争いに敗れて3歳の時にこの森に捨てられたこと。

彼を今まで育てたのはこの森の主で人間ではないこと。


そして流行り病でレナスより上の王子が全て亡くなったので王位継承権がレナスにめぐってきたこと。


「レナスの夢はね…人も魔族も妖精や精霊も…みんな仲良く暮らせる世の中を作る事なの」


とてつもない大きな目標に私の言葉は詰まる。

その目標の為には『王』という人の上に立つ立場に就く方が有利だと私でも解ってしまう。


それから貴族でもないミルが王族と結ばれる訳がない事も……


「アタシはレナスを応援したい、明日は笑ろうて送りたいけど…一人で出来る気が…もう…」


泣きじゃくるミルの背中を撫でて私も一緒に行くからと伝える以外、この時の私に何が出来ただろう。

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