8歳⑤
新しいお父さんは優しい人だ。
イケメンではないかもしれないけれど、家族を大事にしてくれて穏やかでそこそこの稼ぎがあって食べ物に困らない。
もうこれだけ揃えば理想のお父さんと言っても過言ではないだろう。
姉のミルと連れ子の私への差別もない。
それって凄いことだよね。
お母さんも『今の』お父さんと居る時は幸せそうに笑ってるからこの結婚は良かったんだと思う。
こっちに引っ越してからというもの私はミルと一緒に行動する事が多い。
なんせ7つも年上だけど…それでも一番歳の近い人だもの。
朝起きて一緒に水汲みに行って、朝ごはんを食べた後は軽く勉強タイム。
っと言っても大体は雑談して終わりになっちゃってるけどね。
その後はお母さん達に見つからないようにこっそりと2人で森へ出かける。
お父さんも森は危ないって言ってたからばれたらいい顔はしないんだろうなぁ。
そして森でレナスと落ち合う。
レナスもミルと同じ15歳なんだって。
ファナが13だからやっぱりファナより年上だっていう私の感覚は間違っていなかったようでちょっと安心。
レナスはビックリするくらい色んな知識を持っている。
ミルと二人並んでその話を聞くのが今の私の楽しみの一つだ。
「この木の枝を折って水に漬けると…」
レナスがそう言いながら実際に目の前に生えていた木の枝をポキりと折る。
そのままコップの水へと浸した。
「あ、なんかいい香り…」
隣にいたミルが呟く。
私もそれに同意して頷いた。
花の香というより甘味に近いような甘い匂い。
差し出されたコップを飲むと砂糖水のように甘かった。
これカエデとかなのかな?
前世でもメープルシロップみたいに木から取る甘さがあった。
この木もそうなんだろうか?
レナスが折った木を見上げる。
葉っぱをみても丸い普通の葉。
うーん…
「こんなに甘いならすぐ取り付くされそうだね」
ね、とミルと頷きあう。
けれどレナスは首を横に振った。
「残念ながら…この甘みは持続しないんだ」
えー!?
クッキーとかケーキとかに使えると思ったのになぁ。
残念がる私達にさっきのコップがもう一度手渡されたので口へ運ぶ。
…うん。
レナスのいう通りホントにただの水だ。
さっきはあんなに甘かったのになぁ。
なんだろ?揮発性が強いのかなぁ…?
何とかこの甘みを何かに利用したいんだけど何にも思いつかない。
漫画の主人公とかなら凄い発想で何かに役立てるんだろうけど…私には発想力が足りないや。
まぁ急ぐ事じゃないしおいおい何か浮かべばいいなぁ。




