8歳③
翌日、見送りに来てくれたのはゾラードだけだった。
皆学校に行く時間だもの仕方ない。
仕方ないと解っているのにそれでも寂しいと感じる私はなんて贅沢者なんだろう。
ゾラードは走り出した馬車に並走しながら何度も「また」と繰り返した。
私も大きく手を振りながら「また」と答える。
私がゾラードを好きかもしれないと感じたのは今日が初めてだった。
けれど横にいた母にはそうは映らなかったみたいで嬉しそうに「良かったわね」と私の頭を撫でた。
私達が向かう村は大森林東に位置する所らしい。
ちなみにこの大森林を囲うように3つの村がある。
北にある村はそのまままっすぐ街道を進むと王都へいけるらしい。
西にある村の事はよくわからない、とりあえず会話には上がらなかった。
そして大森林の南には切り立った崖があってそこには恐ろしいモノがいるんだとか。
お母さんが暗い顔で何度も一人で森へ行ってはダメと繰り返すので私も頷くしかなかった。
私にはヤルベお兄ちゃんのようなカンの良さは無いしね…
そう考えて頭の中に浮かんだヤルベお兄ちゃんの顔に胸が締め付けられるような気持ちになった。
首に下げたお守りをぎゅっと握り締めて目を閉じる。
「きっと向こうでもお友達ができるから大丈夫よ」
ミリアはいい子だものと私の頭を撫でるお母さんを心配させたくなくて私は何度も頷いた。
馬車に5時間位揺られて着いた村は正に「村」って感じの所だった。
前に居た町はお店も沢山あったし、家だって勿論いっぱいある。
この村の建物全部合せても50も無いんじゃないかな…
正直産まれた時からどんどん田舎へ田舎へ追いやられてるような気がしてちょっと落ち込む。
仕方ない事なんだけどね。
町から馬車で5時間お兄ちゃんや他の皆が「また」を約束出来ない理由も頷ける。
前世なら車で5時間の所に引っ越したらある程度の大人ならともかく子供にはおいそれと遊びに行ける距離じゃない。
しかも前世と違ってみんな裕福じゃないから公共の乗り物である乗り合い馬車にだって気軽に乗れるもんでもないもの。
馬車代だけで1週間分の食料が買えるレベルなんだよ。
「よく来てくれたね」
村の入り口でキョロキョロしている私達に声をかけてきた背の高い男の人。
あの男ほど整った顔ではないけど落ち着いていて優しそうな雰囲気がする。
母と親しそうに挨拶を交わすのを見てあ、この人が新しいお父さんなんだと感じた。
「初めまして、よろしくお願いします」
頭を下げれば私に視線を合わせるように屈んでくれて同じような挨拶を返してくれる。
見た目通り優しい人だ。
そう感じて私は少しだけ安心した。
「その子がミリアっち?」
そう言って男の人の後ろからひょこっと顔を出した女の子が私の姉になるミルだった。
くるくるの茶色い髪にまるで付けマツゲでもつけたかのように長いマツゲ。
第一印象はあ、ギャルっぽい。
化粧もしてないのにきちっとセットしたかのような髪型なのが凄い…髪質なのかなぁ、うらやましい。
勝手に1つか2つしか違わないと思ってたけど5つは上な感じがする。
ファナよりずっと大人っぽいもん。
仲良くなれると良いんだけど…




