6歳⑨
私は渋るヤルベお兄ちゃんに無理を言って強引についていくことにした。
勇者の墓なんて今まで聞いた事も無かったよ!
そもそもこの世界に勇者なんて居たんだね。
まずそこから知らなかったもん。
でもまぁ魔法がある世界だし魔物もいるみたいだし勇者が居たとしてもおかしくないよね。
しっかし王都じゃなくてこんな辺鄙な…は言い過ぎかもしれないけど勇者が祭られるにしては微妙な町にお墓があるなんてなんか可愛そうだ。
お兄ちゃんに付いていく。
町外れのほんとに何も無い所にポツンと私の身長の3倍はありそうな大きな石碑が建っている。
なんか寂しい所だ。
「げ、なんでお前まで来るんだよ」
ナソリは私を見つけると心底嫌そうな声をあげる。
何よ、隠されると余計に気になるんだからね!
「まぁまぁ、邪魔はさせないからさ」
しゃーねーな、とヤルベお兄ちゃんが言うとあっさりと納得する。
「んじゃまずはいつものヤツからな」
ナソリに頷いたお兄ちゃんは私に向かって石碑の周りの草むしりをしようと言って来る。
なるほど「いつもの」はきっとこの石碑の周りの掃除の事だったんだ。
私とお兄ちゃんが草を毟っている間にナソリが石碑を磨く。
お兄ちゃんは時々居なくなったと思ったらどこからか水を汲んでそっとナソリの横に置いてたりする。
ほんとにいつも2人でよくやってるんだろうなぁ。
なんか言わないでも解りあえてるのにちょっと妬ける。
掃除が終わって2人は無言で顔の目の前で手を組んだから私も真似をして手を組む。
3分位はそうしていただろうかしばらくしてナソリが石碑の下から3行目の辺りを指でなぞった。
「父さん…母さん…」
え。
と喉まで出かかった声を出さなかった私を褒めて欲しい。
石碑の刻まれた大量の文字は勇者を称える文章なんかじゃなく人の名前が羅列されている。
1人や2人じゃない。
百人は超えるんじゃないかと思うくらい沢山の人の名前。
5歳の私だったら気付かなかったかも知れない。
でも今の私は何となく解った。
ナソリもディファルも両親はもう居ないんだ。
だからナソリはディファルの為に学校にも行かず、ずっと働いてるんだ。
いつの間にか摘んで来ていたシロツメクサの花束をヤルベお兄ちゃんはナソリヘ渡した。
これはお墓参りなんだ。
そりゃ関係ないしよく知らない私に来て欲しくなんかなかっただろう。
「じゃ、挨拶は終わったしやるか」
ナソリはそう言ってヤルベお兄ちゃんに何かを投げた。
お兄ちゃんはそれを受け取って掲げる。
キラキラ光ってるそれはなんだろう?水晶?
もっと近くで見たくて手を伸ばした私の手をナソリが弾いた。
「それに触っていいのは俺とヤルベだけだ」
何よ!ちょっと見る位良いじゃない!
ね?お兄ちゃん、とヤルベお兄ちゃんの方に視線を向けると困った顔で首を横に振られた。
「まだかかりそうだね」
「そうだな」
なんて主語の無い私にだけ解らない会話を続けて結局その水晶みたいなのがなんなのかさっぱりわかんないまま教えてもくれなかった。
…いつか教えてくれるかな?




