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5歳⑰

朝の読書の時間。

ポツポツとラグリム君と話す。


お互い本を読みながらだから会話が中心ではないけれど、そこそこ親しくなれたかなぁとは思う。

ヤルベお兄ちゃんを除けば一番喋ってるんじゃないかな。


「あと2月でこの町ともお別れか…」


ポツリと呟いた言葉はあまり表情が変わらないラグリム君でも寂しそうだなと感じさせる。

ラグリム君が次に入る学校は全寮制でそこでまた5年学ぶ事になるそうだ。


15になればこの世界では十分大人で結婚だってできる。

まぁ前世でも女は16から出来るのだからそんなもんなのかもしれない。


「私もいけるかな…」


城下町には良い思い出は今ではあまり無い。

なんにしてもあの男の顔が思い浮かんでしまう。

でも見返してやるには丁度いいかもしれない。

ポツリと呟いた言葉にラグリム君は心底驚いた顔をして私の方を見た。


「ん?ミリア上級校に通えるのは男だけだよ」


え、と思わずカエルがつぶれた時のような酷い声が出た。

所謂高等学校に通えるのは男子のみで女子には逆に貴族だけが通って淑女教育を受ける学校はあるらしい。

つまりどんなに頑張っても勉強であの男を見返す事は出来ないって事だ。

魔力が無いなら頭の良さを見せ付けてやろうと密かに思っていたのに。


「ミリアは何で上級校に通いたいの?」


答えは勿論あの男を見返してやりたいからだ。

私はずっとこの町にきてからも「いつか」「きっと」を考えている。

でも、あの男の悪事はここに来てから誰にも口にした事はなかった。


この町はクソ野郎の出身地でもある。

おいそれと言う気はない。

優しいおじいちゃんとおばあちゃん、それにお母さんに守られて私は今の所「父の」事をあまり聞かれる事もなかった。


「私、アイツにギャフンと言わせたいの」


そう口にしてからはずっと塞き止めていた想いがあふれ出すように全部吐き出していた。

優しいと思っていた父が浮気していた事。

お母さんと2人追い出されたこと。


愛されてなかったこと。


「ふーん…そっか」


ラグリム君は私になにも言わなかった。

でも、それがかえって良かったんだと思う。

同情されたかった訳じゃない、ただ聞いて欲しかった。

だからただ聞き流すようなラグリム君の対応はありがたい。

私はきっと今まで誰かに聞いて欲しかったんだ。


そのくせ色々と聞かれても困っちゃうっていう我侭も兼ね備えている。


「さ、そろそろ皆来ちゃうよ」


ラグリム君に言われて私は口を噤んだ。

人に聞かせたい話じゃない。

その後はラグリム君はあの男の事に触れなかったし私も語ることは無かった。


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