5歳⑮
放課後はヤルベお兄ちゃんやゾラードとミリアと遊ぶ。
朝はラグリム君と一緒に読書するのが今の私の日課だ。
「人体構造について」はラグリム君が読むので私はその一つ隣の本「テトラの花の育て方」を今読んでいる。
テトラの花はどの家の庭先にも生えているここでは凄くポピュラーな花だ。
前世では見たこと無かったけど花への興味が凄く高かった訳じゃないのでちょっと自信がない。
白いスズランのような花でスズランみたいに小さい花が一つの茎についているタイプではなく一つの茎に一つの花。
あ、スズランよりホタルブクロの方が近いかもね。
私が本をぼんやり眺めてるとグラリム君に声をかけられた。
「ミリアは誰にテトラをあげるの?」
質問の意味が解らなくて首をかしげた。
テトラをあげる?
「あ、知らないのか」
そうかそうかと一人で納得してるラグリム君にため息を吐き出す。
どうにも彼は自分一人で納得して結論を出してしまうクセがあるみたい。
むむー。
「じゃあ、ラグリム君にあげるよ」
お世話になってるしね。
って言った所でお兄ちゃんとゾラードやヴィオラが入って来た。
3人とも何の話?っと挨拶もそこそこに寄ってくる。
「えっとねぇ、テトラをラグリム君にあげるって話だよ」
すごい勢いでラグリム君を睨みつけるゾラードと吃驚を隠せないまま口をあけて固まったヴィオラ。
ヤルベお兄ちゃんは私の手元の本と私の顔へ2回くらい視線を往復させてからため息を吐き出した。
「ミリア、テトラをあげるのはこの町では求婚の意味があるんだよ」
へーなんか意味はあるんだろうなとは思ってたけどそんな意味があるのかぁ。
私はてっきりお友達のシルシ位の軽いものだと思ってた。
だってどこの家にも沢山咲いてるんだもの。
あれ?じゃあ私ラグリム君に結婚の申し込みしちゃったことになるの?
「知らなかったんだから無効だよ」
ヤルベお兄ちゃんの言葉にホッと胸をなでおろす。
結婚とか5歳で決めることじゃないよね!
もうちょっと大人になっていれば違うかもだけどこの歳だと5年の差は大きい。
きっとラグリム君から見れば恋愛対象には入らないだろうなぁ…
手元の本に視線を移す。
テトラの花かぁ…
「城下町ではそういう風習なかったの?」
お兄ちゃんの言葉に私は首を傾げる。
うーん…私そんなに家から出なかったからなぁ。
けど、特に見かけた記憶はあんまり気がするけど…
絶対そうだったと断言はできない。
「ミリアは来たばっかりだしこの町の風習なんて知らなくて当然なんだから気にする事無いよ」
「うん、ありがとう!」
お兄ちゃんに大きく頷いて私は立ち上がった。
皆が来たということはもう今日のタイムリミットだ。
結局今日もあんまり進まなかったなぁ。




