第1話 篠川 零
地下第三都市、エレクトラ
目を覚ましても此処には知っている天井が広がっている、かれこれもう1年もこの地下に住んでいるのだから当たり前だろう、
時代は不景気だと言っているが、幸いにも、親の仕事のお陰で住む場所、食べる物には苦労してない。
平和な日常、仮初めの平和、そんな生活にもなれたが、やっぱり地上に出てみたい、そんな気持ちも微かにあった。
それがどんなに恐ろしい事かも知らずに、17歳になる篠川 零はそんな願望を抱いていた、
だが、そんなことは仕舞っておくことにしている、ただ、今のこの人工物に生かされている世界を生き残るために
だが、そんな願望が現実になるとは思ってもみなかった…
学校の帰り道、
いつもの帰宅ルートから少し離れたこの場所は、僕の特等席がある場所だった、
第三技術開発本部、今時珍しい明朝体で書かれた看板が、いかにも近寄り難い雰囲気を醸し出している、
しかし、ここには僕の両親も働いていてそんな事情もあってか、この異彩を放った建物の屋上が好きだった、
今日も特等席で景色を眺めようと、エントランス前の中庭に差し掛かった時、突然頭上からコンクリート片が落ちてくる、
慌てて見上げると、コンクリートとジュラルミン合金で作られた天井は裂けていた、
なにが起きたか分からずに、視線を前に戻すと、目の前にいた警備員はいつの間にか姿を消して、その代わりにまるで石像のようにゴツゴツとした者がいた、
見たことがある、教科書にものっていて、写真とも似ている…
あれは、魔人だ….
ただ呆然と立ち竦むことしか出来ない。
逃げなければと頭では思っていても身体が重く感じ、動かない、
どのくらい時間が経ったのかも忘れてしまった、どのくらいの時を過ごしたのだろう、
平衡感覚が狂い、恐れ慄くしか出来ない、
何とか理性を保とうとするが今にも発狂しそうだ、
辺りを見回すと無残にも横たわる警備員の姿と金属の塊、そして無数の血痕
その時、この金属の塊なら使えるかもしれないと頭によぎる、
その金属に手を伸ばし触れると機会特有の合成音声が聞こえてくる
「ユーザーデータ認識、日本国籍確認、個人データ認証、非常事態宣言発令中…非常事態宣言発令中…非常事態宣言発令中…セーフティロック解除」
これに頼るしかない、そう思った瞬間にはトリガーを引いていた、
想像してた音より軽く、実弾より遥かに軽いリコイルショックの後、青の光を一閃に放ちながら飛んでいく弾頭は魔人の左胸を突き刺していた、
魔人が無残にも倒れていくのを横目で見たところで意識が遠ざかって、目の前が暗くなっていった、
「……J……20……アル…バ…ン、ユー……証完了」
無機質な途切れ途切れの電子音がこの日最後に聞いた言葉だった