私とタバコと貴方と距離感
目の前の男を注意深く観察する。推定170前半くらいであろう身長。あまり似合っていない先の尖った革靴。細い身体に、ダサい服…。色々話しかけてくれる彼は、ゲームで話す時同様に早口だ。
「歩くの、ごめんなさい、遅くて。」
「あ、ごめん。」
先を歩く彼に追い付こうとしても、出来ない。彼は少し立ち止まると私の歩幅に合わせる。
「とりあえずゆっくり話したいから、お茶にしようか。甘いもの食べたいんだよね。」
「私はタバコ、吸いたいです。」
「あぁ…。」
彼は少し苦笑した。こんな街中ではどこも規制されていてタバコを吸うスペースなど見つからない。私は彼に付いてビルの中に入った。
「飲食店のフロアに、確か喫煙所あるから。そこでカフェも探そうか?」
「はい。」
「敬語堅苦しい。緊張してる?」
「してます。めっちゃ。どうしたらいいですか?」
彼は短く笑うと、私の髪を触る。私は一歩引いて嫌悪を示す。
「隣に居るとすごくいい匂いがするね。香水?」
「は?いえ、香水は付けないのでシャンプーかヘアスプレーかと。」
「甘い匂いする。」
「シャンプーかな?」
私の記憶では、ケープから甘い匂いはしない。私は自分の髪を一房とって嗅ぐ。別段なんの香りもしない。タバコ臭いだけだ。
「タバコの臭いしかしない。」
「そんなことない、いい匂いだよ。」
「そう…ですか。」
「うん。」
喫煙所は狭かったが、人は疎らでゆっくりとタバコを吸うことが出来た。
「どうだったんですか、この間のオフ会。」
「凄かったよ。なにがって訳じゃないけど、カイトがさ。駅で踊ってたわ。」
「え?踊る?」
他愛ない会話を重ねながら、フロアマップで私たちはカフェも探す。
2本目のタバコを咥えると、彼が火を付けてくれた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
見上げると彼は目を細めて私の頭を撫でた。
「同い年なんですけど…。」
「ん?うん、そうだね。」
子ども扱いしないでよ…そう思ったけど、口にはしなかった。
その夜は郷土料理屋で夕食を摂ると、私たちは解散した。