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光る花畑で





 あのお茶の葉っぱは重かった。

 これから薄く切って、ザルの上に置き、風通しのいい日陰で干すらしい。

 保存食みたいだなと僕が思って口に出すとカレンに、


「保存食は、この“マルイベリー”の実の方ですよ。もう少しするとおいしい果実が採れるので、それをジャムにしたり感想果物にしたり氷漬けにして冷凍保存したり。色々なものに加工できます。また一緒に採りに行きますか?」

「……もしや転移魔法目当てですか?」

「あ、気づかれましたか。あの果実も結構大きくて……でも美味しいんですよ。そうだ、去年作ったジャムがまだ残っていましたから、味を見てみますか? 凄く美味しいですよ」

「ぜひ!」


 そう答えると楽しそうに笑われてしまった。

 食い意地が張っていると思われたのだろうか?

 けれどあの葉っぱのお茶もいい香りで夢中になるのも頷ける香りだった。


 そこで僕はカレンに、


「今日は“リエレの葉”にしますか? ジャムを入れるととても美味しいですよ」

「そうなのですか。じゃあそれで」

「分かりました。ジャムは入れますか? 入れて飲むと美味しいですよ?」

「入れます!」


 といった会話をして僕はお茶にジャムを入れていることに。

 そして、カレンは四角いクラッカーのようなものに白いクリームチーズのようなものとジャムを乗せている。

 お湯も魔法で出していたり、魔法は便利だなと僕は思う。


 そこで傍にあった干した果実のようなものに気付く。

 これって何だろうと思ってそういえば、と僕は思い出した。


「これは何ですか? “ミックの実”へぇ、これは傷薬になるんだ……」


 そう僕が思ってみているとそこで、


「な、何ですかこの便利な能力は!」


 カレンがすぐそばで叫んだのだった。








 僕の素材を見る能力にカレンが気づいてしまったようだ。

 示された素材の性質を見て、


「“鑑定スキル”に似ていますが、もう少し内容が詳しいですね。原産地や使用方法まで、なんてことでしょう、多分あっている……本、本はどこでしたっけ」


 慌てたようにカレンが本を探しに行ってしまう。

 そ、そんなに凄いものだったんだろうかと僕が思って僕はこの前のギルドカードにつての件を思い出す。

 何やら沢山属性がついていたような……。


「属性などを見ておこう。“ステータス・オープン”」


 僕はそう呟いて自身の能力を数値化したステータスを呼び出した。

 下の方に特殊能力等があったので、一応今のうちに全部もう一度確認しておこう、そう思って中身を見ていると戻ってきたカレンが、


「ま、また私が知らない技を……なんて羨ましい。これはもう羨ましさのあまり、アラタを連れて薬草採取に行きたくなるレベルです」

「え、えっと」

「なんという特殊能力チート、素晴らしい、今度お手伝い願えますか?」

「は、はい」


 その情熱に押されるように僕は頷いてしまった。

 ただ今の言葉を聞くと、


「でもどうせなら、イケメンチートが欲しかったな」

「但し、イケメンに限るというあれですね。私も美少女チートが欲しかったな……」

「でも、カレンは十分可愛いと思うよ」

「……ありがとうございます。そして、素で口説く所はイケメンチートの片鱗を感じさせられるわね」

「え、え?」

「というのは冗談だけれど、素直すぎると悪い人に騙されるから気を付けた方がいいよ」

「……僕だって相手がいい人か悪い人か見て話しているよ」


 カレンのその言葉に僕はむっとしながらそう答えたのだった。








 僕の能力を知ったカレンがこんなことを言い出した。


「折角なのでその力を貸してもらえませんか?」

「それは構わないけれど……お茶やお菓子を頂いてからでいいかな」

「そうですね。そのころには暗くなっていそうですしちょうどいいですね」


 そう言いながらカレンは僕にお茶の入ったマグカップを渡してくる。

 紅茶のような香りと、果実の甘酸っぱい香りがする。

 口に含むとふわりと甘い果実の香りが口いっぱいに広がった。


「お、美味しい」

「でしょう。この果実のジャムは私の自信作でありお気に入りなの! そしてこのクリームチーズと合わせると、更においしいんだよ」

「へぇ、頂きます。……! 凄い、柔らかい、いい香りが来たと思ったら程よい酸味が来て清涼感があってこのクリームチーズとよく合う!」

「そうなのです。普通にパンにバターを塗ってこのジャムを付けただけでも美味しいのだけれどね」


 それも美味しいから今度食べてみるといいよと、残っていたジャムを一瓶くれた。

 お礼を言うとカレンはにたりと笑い、


「お礼を言う前に、これが一体何を意味するかを考えるべきだわ」

「な、何を」

「これからちょっとした場所に付き合ってもらおうと思うの」

「もう夕方だよ。それに皆魔物使いの話しているし」

「ここの近くだから問題ないわよ、ちょっと行って戻ってくるだけだし。それに必要な材料でもあるからよくとりに行くの」


 どうやら日常的に採りに行くものであるらしい。

 なので僕はどんなものかカレンに聞くと、


「“月影の星草”という、夜になると輝く花があるの。丁度今が満開の時期なの」


 そうカレンは僕に言ったのだった。








 “月影の星草”。

 夜に光る花であるらしい。

 しかも必要な素材であるそうだ。


 そんなわけで僕も興味を持ってしまったことから、その花畑に行くことに。

 でもその前に、部屋に貰ったジャムの瓶を置いてきたいと告げるとカレンがいいですよと言ってくれた。

 しかも一緒に蜂蜜も少しもらえてしまった。


 それに喜んだ僕は気づいた。


「そもそもこのポシェットに入れておけばよかったんだ。ここに入れておけば部屋にもっていかなくても済む」

「……明らかにジャムの瓶が入らなそうなのに、吸い込まれるように消えていきました。何ですか、それ」

「女神様にもらったんだ」


 カレンはそれ以上何も言わなかった。

 そして僕は思う。

 これもまたこの世界では特別なものかなと。


 女神様に愛されていますねとサナに以前言われたが、確かに随分好意的だ。

 優しい女神様であったらしい。


「女神様ともそのうち旅が出来たらいいな」


 ふと思った言葉を僕は小さく呟いたのだった。








 それから神殿内の、秘密の通路という名の自由に出入りできる抜け道を使い外に出た僕達。

 なんでも特定の時間は外に出られないという門限があるらしい。

 でも、こういった抜け道があるという。


「皆こっそり抜け出しているんだよ」


 カレンがそう言って笑い、僕の手を握った。

 女の子と手をつなぐと何となくドキドキしてしまうと僕は思う。

 でも振り払うのもアレなので、手をつなげられて歩いてく。


 そしてて歩いていくとやがてあかりのついた家々がポツンぽつんとなっていき、畑になり、やがて森のなかに入っていき……そこで花々の咲き乱れる花園に向かったのだった。 







 僕の目の前に一面に広がる一面の花畑。

 白やピンク、青、緑、紫、黄色などなど、色とりどりの花が輝いている。

 一面に電飾を引いたような花畑は風が吹くたびに揺れて、ゆらゆらと幻想的な明かりが揺れている。


 しかもそのたびにこの花の花粉なのか光の小さな球状の粒を空気中に放出している。

 ふわふわと揺れる光の粒も綺麗だ。

 さらにこの花の優しい甘い香りは心地よくて眠くなってしまいそうだ。そう僕が思ったのでカレンに、


「凄く良い匂いで眠くなってしまいそうだね」

「あ、そうなんですか。この花の香りは抽出して、寝る前に焚いたりするとよく眠れると評判なのですよね。でも今日の目的はそれではないので、アラタ、お願いします」


 カレンがわくわくした様に目を輝かせながら僕に言う。

 そして僕も興味があったので、


「どれくらいの周囲がいいのかな? とりあえず半径10メートルの円状の範囲で、“鑑定スキル”っと」


 目の前に次々とこの花についての説明表示が現れていく。

 花がそこそこ小さく多いので、その量はとても多く重なって見える。

 僕の魔法は僕の石である程度どうにかなりそうなので、だから僕はカレンに、


「確か球根部分が特殊なものが欲しいんだよね?」

「は、はい」

「となるとこの説明は……ただの花みたいだね」


 説明書きを読んで言った僕は、ただの花のようだったのでそれを意識しながら、


「この花の説明と同じものは全部、消えて欲しい……消えた」


 そこで一つだけ表示を残して後は全部消えてしまう。

 その残った一つに僕は近づいてからカレンに、


「シャベルなんかがあるのかな?」

「そのまま引き抜いて大丈夫ですよ」


 そうカレンに僕は言われたのだった。







 花はそのまま引き抜いてもいい、そう言われたので引き抜きました。

 つい地はついているけれど、光り輝く花に照らされたその球根は、ガラスのように輝いている。

 実際に透明でほんのり水色をしているように見える。

 

 形自体はチューリップの蕾の形をしている。

 それでも僕の手の握り拳くらいなので、結構大きい様だ。

 そして僕はそれを見ながらカレンに、


「これでいいのかな?」

「はい! もちろんです! わぁ、これが欲しかったんですよ」

 

 嬉しそうにそれを受けとるカレン。

 でもこれを見ていると、


「他の普通の物はどんな感じなのかな?」

「普通の者は白い球根ですよ。引き抜いても埋めれば何とかなるくらいに丈夫な草なので、興味があるのでしたら引き抜いてみてみては?」


 そう言われたので僕は試しに引き抜いてみる。

 ずるりと音がして、引き抜かれたそれには確かに白い球根がついている。

 納得したので僕はそれを埋めなおしました。


 それから場所を移動して“鑑定スキル”を利用して探していく。

 すぐに幾つも見つかりカレンが喜んでいた。

 なかなか見つからない貴重な材料であるらしい。


 それから小川に辿り着いたのでそこで、球根の土を洗い流して綺麗にする。

 全部で10個ほど目的の球根が手に入った。


「こんなに簡単に見つかる事なんて全然なかったから助かります」

「いえいえ。でもここ綺麗だね」

「でしょう! しかも夜にしか見れない、時期もいましかない特別なものですから」

「今度皆で来たいな」

「それはサナ達の事ですか? いいですね、今度誘いましょうか」


 そう僕達が話していた所で僕は、奇妙なものを見つけたのだった。


 







 奇妙なもの、というのは語弊があったかもしれない。

 花々の中に埋もれるように何かが飛んできて落ちたのだ。

 すぐそばの森からのようだった。


 だから僕はそれに向かって走ってのぞき込む。


「確かこのあたりだった気がする。……あった……え?」


 そこで僕が見つけたのは小さな人のようだった。

 けれど背中には透明なトンボのような羽がついている。

 物語で見たことのある“妖精”にとてもよく似ている。


 とりあえず羽が破けていて体の一部が焦げているようなので、


「“癒しの夢”」


 選択画面を呼び出して癒しの魔法を使う。

 すぐにその“妖精”の羽は再生し、焦げた部分も回復した。

 するとその“妖精”は目を開き、


「フィス、フィス、どこ?」

「い、今君だけが飛んできたから治したのだけれど……」


 僕がそう“妖精”に問いかけると、“妖精”が悲鳴を上げた。


「に、人間だ人間だ人間だ、フィス、フィス、どこ!」

「え、えっとあの、どうしてそんな焦っているのでしょうか?」

「だ、だって人間は私たち“妖精”を虫かごに入れて遊んだりするし」

「ええ! ……でも僕はそんなことをしないよ?」

「……本当ですか?」

「うん」


 とりあえず本当の事なので頷くと、この“妖精”さんは納得してくれたようだった。

 そこで、はっとした顔になる“妖精”さん。

 そして僕に、


「貴方は魔法が使えるんですよね? 癒しの魔法!」

「は、はい」

「フィスが怪我をしていた気がします。癒してもらえませんか?」

「それは構わないのですがどうしてけがを?」

「“魔物使い”に襲われたのです!」


 そう“妖精”が僕に言うのだった。









 “魔物使い”に襲われている。

 そう聞いて僕はカレンと顔を見合わせた。

 すぐにカレンが悲鳴を上げるように、


「なんでこんな場所にまたも“魔物使い”が! 町に凄く近いですよここ!」

「でも、僕達が出会った“魔物使い”とは別口かもしれない。とりあえず……その集めた球根は、僕が預かっておきます」


 そう言って僕はそれらを魔法のポシェットに入れる。

 それから“妖精”さんに、


「仲間がいるんだよね。その人を……カレン、僕達で助けに行くのは危険かな?」

「分からないけれど、いざとなったらアラタの転移魔法を使えば良いのでは」

「確かに。じゃあ決まりだね、案内してもらえるかな?」


 そう僕がお願いすると、今の会話で思う所があったらしく戸惑ったようだがすぐに、


「こっちです。こっちにフィスがいます」


 “妖精”さんが淡い、黄色の燐光を放ちながら飛んでいく。

 獣道のような場所を潜り抜けるように走り、さらに進んでいくと……音がする。

 木々に挟まれるように何かが撃ち込まれる音。


 更に近づくと、とがった耳の少女が弓で応戦している。

 その弓の矢にも炎がまとわされたりと、魔法攻撃の一種であるようだが……彼女の持つ弓はそこまでもう残りがないようだった。

 そんな彼女に“妖精”さんが飛んでいき、


「フィス、お手伝いします」

「アルト、無事だったのね!」

「はい、“人間”に助けてもらいました」

「“人間”に? まあいいわ」

「はい、そして手助けしてもらうように頼みました」

「……そうか、助かる」


 フィスと呼ばれた少女はそう答える。

 そこでようやく僕達は、彼女が戦う相手が見える。

 小さな森の中の広場に居たのは、あの黒ローブの人物に似ている。


 正確には格好が同じだ。

 だが同一人物か同じ能力を持っているかまではわからない。

 そこで僕はあることに気付く。


 そういえば“ステータス・オープン”って他の人相手にもできるのだろうか?

 今までそれはやったことがないと僕は気づく。

 だから、試すのも兼ねて、


「“ステータス・オープン”」


 そう僕が叫ぶと同時に、“ステータス”が表示されたのだった。








 とりあえず行ってみた“ステータス・オープン”。

 すると黒ローブの人物の“ステータス”が表示されてしまった。


「な、何だこれは!」


 焦ったような声を黒ローブはあげるが、僕達は皆、“ステータス”が見えてしまっていた。


「名前はアン、種族、獣人、犬耳族。風系の魔法攻撃が得意の“魔物使い”、操るのに得意な魔物は“犬型のブアラ”という魔物……そして防御で弱い属性は炎か。森の中であまり使いたくはなかったが、私の友人のアルトを先ほどは怪我をさせてくれたからな、少し痛い目に合わせてやる」


 そこでフィスと呼ばれた少女がそう叫び弓を構える。

 その矢には炎がまとわらせられて、そう思った瞬間黒ローブに飛んでいく。

 慌てたように防御をしている。


 薄い氷は瞬時に壊されて黒ローブに当たる。

 弱い。

 僕はそれを感じた。


 今までの敵とは違い、この人物は弱い。

 そう思っているとそこでフィスが、


「動揺か。たかだか自分の能力と名前が知られた程度でこのザマか」

「……“行け”」


 そこで黒ローブが呟くと、周りに黒い犬のような魔物が現れる。

 手助けしようと思って僕は選択画面を呼び出して、


「“炎の連矢”」


 を選択。

 複数の炎の矢が出現し魔物に襲い掛かる。

 だがその間に黒ロ―ブは新たな魔法を完成させたらしく、風の攻撃が僕達を襲う。


 カレンが氷の盾を作った。

 風は抑えられ、氷であるから透明なので相手の様子が分かる。

 夜のこの暗がりでも、今日は月明かりが味方をして周りがそこそこ見える。


「分が悪いな、引く」


 そう黒ローブは告げて、煙幕を張ったのだった。







 黒ローブは引いてくれた。

 しかし彼らはどうしてすぐに、“引く”を選択するのか。


「あまり大事にしたくない、って事なのかな? すぐに引くという事は」


 僕の呟きに、カレンが頷く。


「なるほど、それはあるかもしれません。彼らがこれから何をしようとしているのか分かりませんが、大きなことをしようとしているのでその前の準備の段階だから……ここで事を荒立てるのは嫌なのでしょう」

「僕達と派手に争って気づかれるのは困る、って事か」


 僕はそう呟いてからそこで、先ほどのフィスという少女に目を移す。

 細長い耳の黒髪に赤い瞳の少女。

 彼女もまた僕達と同じ年ぐらいに見えるが、そこで彼女、フィスが、


「友人を助けていただき、そして私の手助けをありがとう、“人間”」

「に、“人間”って……」


 どことなく、非友好的な響きのある言葉だ。

 この人は何だろうと思っているとそこでカレンが、


「“森の眠りエルフ”ですか。珍しいですね。その中でも赤い瞳は特に魔力の強い物だと聞いています」

「やっぱり“森の眠りエルフ”なんだ、すごいや、これが本物なんだ」


 そう思って僕は見てしまう。

 何しろ物語の中でしか見たことがない種族。

 実際に見ると美人だなと思う。


 でも確か性格がちょっと……な気もしているとそこで、


「……まあいい、それでその服は神殿の者のようだな。ここ一帯の魔物狩りなどは全て神殿が役目をおっていると聞く。直接聞きたい」

「わ、分かりました。すぐに……あ」


 そこで小さくカレンが声を上げる。

 どうしたのだろうと僕が思っていると、


「門限、過ぎているけれどどうしよう……場所に案内しますのでそこからは門番の方と直接話していただいていいですか?」


 カレンがそう、フィスにお願いしていたのだった。







 実はこっそり神殿から出てきた事を思い出した。

 カレンも秘密の抜け穴から移動だったし。

 そうなってくると部外者である彼女達をいきなり僕達の住処に転送するのもどうか? という事なので、彼女達には神殿の場所までを途中まで案内し、そこで別れることになった。


「本来なら夜間の採取は、申請をすれば通る場合もあるのですが……今回は思いついたのが夜だったので、許可を取る時間がなかったのです」


 そう告げてきたカレンに僕は、


「明日まで待てばよかったのでは」

「いえ、気になったのですぐに試したかったのです。それにあの材料はちょうどほしかったですしね」


 との事だった。

 そういえば以前サナがカレンの事を、お気に入りの材料に関しては、目の色が変わると表現していたのを思い出す。

 その暴走の果てがこの状況かと僕は思いながらも、


「でも結局は、フィス達の手助けができて良かったよ。怪我をしている“妖精”さんの……アルトだっけ」

「は、はい、その節はありがとうございました」

「いえ、怪我を治せてよかったです」


 そう僕が返すとそこで、それまでずっと黙っていたフィスが僕に、


「アルトを癒してくれてありがとう。だが、一つお前には効きたいことがある」

「な、何でしょう?」

「お前の魔法は“見たことがない”。だが、魔法自体はこの世界でも見たことがあるものだ。なのに随分と簡単に使っているように思える。我々“森の眠りエルフ”ですらもそう使いこなせ無さそうな魔法を」


 そう僕にフィスは警戒するように問いかけてきたのだった。








 どうやら警戒されているらしい。

 そう僕は思いながらフィスを見る。

 僕達を“人間”と言っているのも考えると、少し、いや、かなり敵意が強めに聞こえる。


 なんでだろうと僕が思っているとそこでカレンが、


「先ほどから、手助けしたのにその失礼な物言いは何とかならないのですか?」

「確かに助かった。だが、私達“森の眠りエルフ”を襲ったのは、お前達“人間”だろう」

「何の話かよく分かりません」

「“魔物使い”だ。あれは人間だった」


 そう告げたフィスだが、僕はそれを聞いていて、


「でも、さっき出会った“魔物使い”は獣人のようでしたが」

「……それはお前の奇妙な魔法が見せた幻影ではないのか?」

「いえ、“ステータス・オープン”は、その人の能力などが数値で出る魔法ですから、書かれていたことは本当です」


 僕はそう言い返した。

 そもそもこの能力は女神様にもらった能力なので、“嘘”ではないのだ。

 だから僕はそう言い返すと、フィスは更に警戒したように、


「だがもしそんなことが出来るなら、お前のその能力は異常だ。お前は一体何者なんだ?」

「それを言うならば、貴方の方こそ僕達も信用できません。本当は貴方の方こそあの“魔物使い”の仲間なのでは?」

「なんだと?」


 フィスがむっとしたように言い返してくる。

 だが僕としては、そうなのだ。

 彼女が僕を警戒するように僕も彼女を警戒してもいいのだ。


 そこでフィスが、


「分かった、そこまで言うならば、その“ステータス・オープン”とやらを見せてみろ。そうしたら考えてやる」


 フィスが僕をそう挑発してきたのだった。







 “ステータス・オープン”をしてみろと挑発を受けたので、やってみた。


「“ステータス・オープン”」


 侮るように僕を見ていた彼女だが、その現れたステータス画面に顔色を変えた。


「こ、これは私のステータス、どうして……」

「“森の眠りエルフ”であり“宝玉”の巫女。弓を使うのが得意。コンプレックスは……」

「! 口に出すな! というかどうしてこんなに沢山の個人の情報が……ギルドにだって言っても分からないはずのものばかり」


 フィスが呻くようにつぶやいてから深々と嘆息した。


「どうやらここに書かれているのは本当のことのようだ。まさか“宝玉”の巫女であることまで書かれるとは思わなかったが、神殿の人間ならば問題ないだろう。……お前たちが“魔物使い”の仲間でないならばな」


 そう告げる彼女だが僕としては気になる言葉があった。


「“宝玉”の巫女なのですか?」

「そうだが」

「“魔物使い”に“宝玉”が奪われたのですか?」

「そうだ。それがどうかしたのか?」

「狐族の“宝玉”も“魔物使い”に奪われたそうです」

「……そんな話は知らない。こちらは聞いていない」


 そこで珍しく“森の眠りエルフ”であるフィスはうろたえたようだった。

 と、そんなフィスに妖精のアルトが、


「とりあえずは神殿に行って話を聞きましょう」

「そうだな、里を出てそこまで時間がたっていないはずだが、まさかあの狐族の者たちの“宝玉”も奪われているとは思わなかった。少しでも情報が欲しい。……お前達は敵ではなさそうだから案内を頼みます」


 そう、フィスは僕達に言ったのだった。






 それから、フィスと妖精のアルトを神殿までカレンが案内した。

 途中途中、周りをフィスはうかがっていた。

 先ほどの“魔物使い”が後をつけてきて背後から襲われるのを警戒しているらしい。


 けれど特にそのような展開にはなることはなく、夜なのもあって人通りの少ない道を進んでいると、


「こら、子供がこんな夜に何をしているんだ」

「! エリザ」


 そこで僕達はエリザに遭遇してしまう。

 頬が赤いのでお酒を少し嗜んでいるのだろう。

 ……少しなのだろうか? ふと疑問に思っているとそこでフィスが、


「エリザ、どうしてここに?」

「おや? “森の眠りエルフ”のフィスじゃないか。こんな所でどうしたんだ?」


 どうやらエリザと知り合いであったらしい。

 エリザが意外に顔が広いと僕は気づくとそこでエリザが、


「私は出稼ぎだよ。やはり人が多い地域の方が依頼が多いからね。アルトも元気そうで何よりだ」

「はい、その節はどうも」

「いや、悪ガキが捕まえているのを出しただけだからな」

「いえいえ、それだけでも助かります。フィスのご友人のようでしたしね。そういえば、フィスとエリザはどうして出会ったのですか? フィスは人間があまり好きではないのですが」


 アルトが聞くのを聞きつつ僕も興味があった。

 このフィスは“人間”が嫌いなようであり、そして、珍しく顔を赤くしているよウだったから。

 そこでフィスがエリザを止めるよりも早く、


「うーん、“イノシカ”用の罠に以前何回も引っかかっていたのが縁で知り合ったかな」

「……エリザ、申し訳ありませんが今は急ぎの用で、神殿に行かないといけないのです」

「ん? そうなのか? 送っていこうか?」

「いいです、エリザ。貴方も随分とお酒を飲んでいるようですから」

「……この辺りは治安が良いから大丈夫か。気をつけて帰るんだぞ」


 そう言ってエリザを帰らせたフィスが安堵したように息を吐き、


「行きましょう」


 と、僕達に告げたのだった。


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