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“葉っぱ”を手に入れることに

 エリザと別れた僕達は、神殿に戻ることに。

 サナは少しでも早く神殿に戻りたいようだった。

 あの洞窟にいた“魔物使い”を警戒しての事だった。

 

「私達に攻撃を加えてきた時点で、危険な“魔物使い”であることは確かなようです」


 との事でこれから対策を立てるらしい。

 そんなわけで僕はサナと一緒に神殿に戻ってきて、僕は提供してもらった部屋にやってくる。

 でも何をすればいいかなと僕は思う。


 時間はまだ夕暮れまでにはありそうだった。

 一人でこの町を回ってもあまり楽しくないとか迷ってしまいそうだ。

 ではどうしよう、そう思って僕は、


「折角だから神殿内部を見せてもらおう。彫刻なんかもすごいものがありそうだったし。……でも他の人の迷惑にはならないようにしよう」


 そう僕は決めて、神殿内部を歩くことにしたのだった。







 内部を歩いていると、気づけば外に出てきてしまった。

 戻ろうか悩んだけれど、色とりどりの花が咲き乱れるその場所も綺麗だったので見て回ることに。

 僕の世界ではここまで大きな花はあまり見かけないや、と思うような、僕の片腕が直径になりそうな花が咲いていたりもする。


 とても甘いいい匂いがして、“虹のはちみつ花”と書かれている。

 花の蜜が取れるのかと思って少し歩いていくと、大きなハチの巣があった。

 異世界のハチの巣は大きいのでそっとそのばから逃走しようとすると、そのハチの巣からにゅと、僕の膝ぐらいの大きなハチが現れる。


 だがちらりと僕を見るとそこで、


「今日のはちみつ等を取りに来る当番はお前か」

「え? いえ……」

「はっきりしないようだな。仕方がない、ここで勝負だ!」

「え、ええ!」


 そこで僕は、ハチたちと戦うことになってしまったのだった。








 突然、ハチに戦闘を挑まれてしまった!

 しかもハチは僕達と同じ言語が話せるらしい。

 相変わらず異世界だなと思いながら、今日の当番? と間違われた僕は、選択画面を呼び出して、


「“痺れる雷”と」


 選択する。

 相手を痺れさせるだけの、麻痺効果のある攻撃だ。

 別に敵? というわけではないのもあって、とりあえず穏便に……。


「ブボベボボボ」


 ハチがそう鳴いていた。

 だ、大丈夫かな、そう僕が思っているとそこでぽてっと地面に落ちたハチが、


「く、腕を上げたようだな。だが、次もこうはいくと思うなよ。お前たち! 戦利品だ!」

「「「はいっ!」」」


 そう言って三匹ほどのハチが巣から現れて、それぞれが黄色い塊、はちみつの瓶二本を持っていた。

 とりあえず受け取る僕だけれど、そこでそのうちのハチの一匹に、


「その分は使い終わったら洗って返してくれ」

「あ、はい」


 どうやらこの瓶はリサイクルして使っているらしい。

 美味しそうな蜂蜜とこの黄色い塊は何なのかは分からなかったが、それを持って神殿内に戻る。

 中にいる人に聞けば今日の当番? の人が分かるだろう。


 そう思って中に入ると生憎人はいなかった。

 だがそこで誰かが駆け下りてくる音が聞こえたかと思うと、僕のいる場所から一番近い階段から人影が現れて、誰かがこちらに走ってくる。

 その子は女の子のようだったけれど、彼女は僕を見て驚いた顔をする。


「あ、もしかして私の代わりに当番をしてくれたのですか?」

「はい、偶然そうなりました。どうぞ」

「そうですか、すみません。ちょっと調べものに夢中になっていまして……助かります」


 そう言って渡した彼女は、お礼に僕にお茶をご馳走してくれるといったのだった。 








 青い髪をした彼女の前は、カレンというらしい。

 ここでは、化粧品などを作っているらしい。

 それらを販売しているそうだ。


 彼女は僕と同じ年であるらしい。

 また、サナとも知り合いらしい。

 

「サナちゃんが案内を任されたお客さんて、えっと……」

「僕は、アラタです」

「アラタ君だったんだ。あ、これ、“マルイベリー”のお茶です。先ほど頂いた蜂蜜をいっぱい入れました。美味しいですよ」


 そう言って白いマグカップを受け取る。

 どうやらビーカーに入れたお茶を出される事はなかったようだ。

 そういえば以前知り合いの人が、ビーカーの方が大きさによるけれど100円ショップに売っているカップよりも高いから、そっちの方が御もてなしになるんだ! とか言っていたなと思い出した。


 でもその論理で行くと、ビーカーを使うよりも普通のカップを使った方が御得な気もする。

 などと僕が考えつつお茶を一口。


「花の香りがする」

「それは蜂蜜の香りですよ。今の時期は“レレ花”が満開の時期ですからね。そこの花からあのハチたちはみつを取ってくるんですよ」

「そうなんだ……美味しい」


 珍しい香りのお茶で、いいものがもらえたなと思っているとそこで、カレンが黄色い塊を持っていこうとする。

 そういえばそれって何だろうと僕は思って、


「その黄色いのは一体なんですか?」

「蜜蝋ですよ。クレヨン、蝋燭等にも使えるのですが、ここでは化粧品づくりに利用しています。この蜜蝋と、様々なオイルを混ぜて、リップクリームなどを作るのです」

「へー、そうなんだ」

「乾燥している時期には重宝しますよ」


 そう微笑んだカレン。

 この子も結構かわいいなと思っているとそこで、


「カレン、遊びに来たよ~。あれ、アラタ?」


 そこでサナが現れたのだった。







 サナが顔を出した。

 そして僕を見るなり、


「アラタもここに来ていたのですか」

「はい、神殿内をちょっと見て回ろうと思ったら、ハチと戦う羽目になりまして」

「そうなのですか……ハチと戦う羽目に。結構強かったはずですが」

「電撃で痺れさせました」

「なるほど。駆除レベルの攻撃でなかったのは感謝します」


 そう微笑んだサナ。

 そこでカレンがすっとカップを差し出す。


「はい、サナも飲むでしょう? お茶」

「うん、ありがとう、カレン。相変わらずいい香り。そういえばそろそろ茶葉が取れるころだったっけ」

「そうね。花も咲いた後だし、そろそろかな」


 と言って話している。

 そろそろこのお茶の葉っぱを回収する時期であるらしい。

 するとそこで、


「アラタも葉の回収に行く? 一応ちょっとした冒険になるはずだけれど」

「本当! それに冒険?」

「うん、この町近郊の、メルルバの森の奥にある気からとってくるんだけれど……そこまで行くのがそこそこ険しくて」

「そうなんだ……じゃあ冒険者をもっと雇った方がいいのかな?」

「そうね。あとは、そうそう、新たにギルドカードを渡さないと。面倒な手続きはこちらでやったんだけれど、魔力の登録などは、ギルドに直接行かないと登録出来ないみたいなの」

「じゃあギルドに一回行かないといけないにね。どうしよう、今からでも間に合うかな?」

「今日はもう閉まってしまうと思うから無理ね」

「そっか……」


 どうやら念願のギルドカードはおあずけのようだ。

 残念だと思った所でカレンががやってきて、


「サナ、アラタ君と仲がいいんだね。珍しいね」

「べ、別に珍しくないわ」

「ふふ、じゃあ早速だけれど、アラタ君がギルドカードを作ったらそのまま、茶葉を取りに行ってみる?」


 そうカレンが提案してきたのだった。









 ギルドカードがようやく僕の手に、と思っていたらその後すぐにちょっとした冒険に行けるようだった。

 それはそれで楽しみな気がする。

 僕がそう思っていると、そこでカレンが小さく笑い、


「そんなに茶葉を取りに行くのが楽しみなのですか?」

「うん、そういった異世界の冒険て楽しそうだなって。魔法も使えるし」

「……え?」


 そこで僕はカレンに驚いた顔をされてしまった。

 何故だろうと僕は思っていると、サナが、


「そういえば話していなかったわね。アラタは異世界の人なの。女神様直々のお願いよ」

「そ、そうなのですか。それは気づきませんでした」


 普通に見た目で違うとは分からないんだなと僕は思っているとそこで、カレンが、


「異世界ですか。どんな場所なんですか?」

「そうですね……魔法がないかな」

「……この人は本当に異世界人なのですか? 魔法のない世界って、想像ができないのですが」


 カレンがサナに聞いている。

 確かに日常的に魔法を使っているこの世界では変に見えるのだろう。

 でも女神様は魔法のない僕達の世界も知っているはずなのだ。


 ゲームを購入しに来るくらいだし。

 そう僕が思っているとサナも、


「私達が異世界の事に詳しくないからって、嘘は良くないよ」

「で、でも……」

「それに、その服装だって魔法なしじゃ作るのにすごく時間がかかるじゃない。全部手作業でやるの?」

「それは機械などを使って……」

「その動力源は? 魔力がないと機械が動かせないじゃない」


 そこで僕はこの世界の人達が“魔法”というエネルギーを中心に動いているのだと気付く。

 だからきっと、それから外れた世界の事は思いもしないのだろう。

 この場合はどうした方がいいのかな? と僕は思ってから、少しだけ僕の世界の話をしてみる。


 でもそれはとても奇妙に聞こえたらしく、それ以上僕は話さず、代わりに明日の約束をしたのだった。








 次の日の約束の場所で、僕は、サナとカレンに会う。

 今日は二人ともこの神殿の服ではなく、この世界の服の様だようだった。

 どちらも柔らかい布にフリルがついていて、腰に青や赤の石が付けられた紐のようなものを着けている。


 この世界の流行なのかもしれない。

 そう僕は思いながら、


「二人とも私服も可愛いね」

「「!」」


 素直に褒めてしまったけれど、よくよく考えるとすごく恥ずかしい気もした。

 でも、サナとカレンが嬉しそうだったので、まあいいかなとも思った。


 それから、ギルドに向かう。

 石で作られた街並み。

 ゲームの中の、西洋っぽい街並みだなと思いながら歩いていくと、大きな建物に遭遇する。


 赤いレンガが積み上げられたその場所は、金色の看板でギルド・第一支部と書かれている。

 1があるという事は2もあるのかなと僕が思っていると、中に入り一階の受け付けの所に連れていかれて、サナが銀色のカードを受付に出す。


「昨日お伝えしたアラタのカードです。測定をお願いします」

「はい、分かりました。上の階の測定室に向かってください」


 と言われたので、測定するのはこちらですと看板がかけられたの部屋に向かう。

 そこには四角い器具や、スポーツジムの様相の器具などが並んでいる。

 そこでまず四角い器具に僕が触れると、その測定係らしい人が、


「レ、レベル50ですか!」

「あ、の、何か問題があったのでしょうか」

「普通は、5でもすごいくらいなのに、50……装置が故障でもしたのかな……」


 測定係の人が焦っている。

 けれど僕としてはすでに女神様からそれくらいにしたのを見ていたので、どうしたものかと考えているとサナが、小さな声で測定係の人に、


「アラタは女神様に力を与えられた特別な人間ですのでそれで」

「な、なるほど、分かりました」


 納得してくれたらしく、とりあえずはレベルの登録をしてもらえたのだった。








 それから僕のその他の能力を測定した。

 まずは体力。

 大きなダンベルのようなものが幾つも置かれていて、それを何回持ち上げられるかで数値化されるらしい。


 体を鍛えるための道具として昔欲しかったダンベル……でもお値段が高く購入を諦めたあの頃の悪夢が、再び僕に襲い掛かる!

 というのはいいとして、僕は恐る恐る持ち上げて手に力を籠める。

 軽い。


 そこまで苦も無く持ち上げて動かしてみると、その測定の人が目を丸くしていた。

 とりあえずここまでと言われたので僕は止める。

 それから、よくスポーツジムにあるような、ベルトが動いてその上を走る機械がある。


 上に乗りしばらく走っていると、またも呆然としたように僕は見られてしまった。

 そろそろ何かがおかしいと気付くには十分だった。

 その後には、ボールが投げられるそれを見ながら、よけるという俊敏、回避能力を見る検査だったが、僕の目にはボールが止まっているように見えた。


 これって空間操作系の能力の影響なのかなと思いつつよける。

 それとも女神様が特別に、身体能力を強化してくれたのだろうか?


「魔力も沢山にしておきましたよって言っていたし」


 その影響が今のこの状況に帰結するのだろうか?

 そう僕が思っていると、次の場所では特殊能力をはかるらしい。

 特殊能力チートは空間転移だったよな、と僕が思って、その場所にある四角い箱に触れる。


 まず現れたのは、


「“状態異常全無効”」


 といった内容の文字で、そしてそれは始まりに過ぎなかったのだった。







 “状態異常全無効”。

 どうやら僕の持っている耐性は、こんなすごそうなものであるらしい。

 麻痺もなし、病気も無し、魅了も無し、他に何があるだろうか? 

 

 思いつかないけれどそういったものは、全て僕には効果がないらしい。

 だが、表示される文字は、それで終わらなかった。


「“防御力超強化”」


 どうやら攻撃を受けてもほぼ影響がないらしい。

 しかも魔法防御力は防御力……つまり物理的なものの攻撃が僕にはあまり意味がないらしいのだけれど、その魔法防御力の方も、


「“魔法防御力超強化”」


 だそうだ。

 更に僕につけられた特殊能力が明らかになっていく。


「“究極属性変換”“全属性耐性超強化”“超魔力体力回復”“主人公補正MAX”……」


 つらつらと述べられていく特殊能力の数々。

 女神様、貴方は一体どれだけ能力をつければ気が済むのでしょうかと思う程度に、沢山つけられていた。

 しかも検査の人は、途中から驚きの表情からすべてを諦めたような顔になり、淡々と能力を読み上げている。


 でも“主人公補正MAX”ってなんだろう?

 試しに検査の人にも聞いてみたが、初めて見るものであるらしく分からないという事だった。

 これは女神様に直接聞くよりほかないのだろう。


 そう思いつつ読み上げられた能力をカードに記録してもらう。

 これで終わりですと流された僕だけれど、その様子を見ていたサナとカレンと合流すると、サナが、


「相変わらず、凄いことになっていますね。女神様に愛されすぎです」

「そ、そうなのかな?」

「異世界の客人だからって甘やかしすぎです、ずるい」

「そ、そんなことを言われましても……あ!」


 そこで僕は、ある人物を見つけたのだった。








 ギルドで見かけたのはこの前の冒険者の、エリザだった。

 彼女は僕達に気付くと微笑み、


「昨日ぶりだな。おや、今日はギルドカードを作りに来たのかな?」

「はい、今日測定してきました」


 そう答えると、なるほどと彼女は笑ってから、


「今日はどこかに行くのかな?」

「お茶の葉っぱを取りに、メルルバの森に行く予定です」

「……またあの森に、子供だけで行くのか」


 嘆息するように言われてしまったが、あの森は子供だけで行くのは危険なのだろうかと僕が思っているとそこでエリザが、サナたちの方を見て、


「それで護衛を雇う気はないかい? 今日は、というか今日も相棒が、別の用事でいないから一人で何か仕事がないか探していたんだが見つからなくてね。もし必要なら雇ってくれると嬉しいな。安くしておくよ」

「おいくらですか?」

「そうだな……」


 とサナとエリザが話している。

 そして交渉は、上手くいったらしい。


「今日はよろしく、アラタ、サナ……そして、」

「私はカレンと申します。よろしくお願いします」


 そう挨拶をして僕達は、メルルバの森に向かったのだった。








 歩いてそれほど遠くない場所に、メルルバの森はあった。

 森の入り口には、雨にさらされてすでに文字が消えかかった看板が飾られている。

 道自体はそこそこ広く、人通りもあるらしい。


 先ほど3名のパーティと出会ったから、そうなのだろう。

 それから僕達は森の中を進んでいく。

 やがて大きな木の生えている広場のような場所にやってくるが、そこでカレンが、


「ここからあの細い道を行きます」


 右手に見えた獣道を行くことになったのだった。








 獣道を行くことに。

 一列に並んでいく程度の細い道のため、一番前をエリザが歩く。

 また、この道を行く前にエリザが注意点を言う。


「以前来たことがあるから、事前に言っていく。この先には片面が斜面になっていて、ロープを伝っていく危険な場所もある。また、魔物も出てくるが、道が細くて周りに燃え移りやすいから、炎系の魔法は使わないように。雷系もダメだ」


 との事だった。

 そうなってくると昨日の洞窟と条件が大体同じだし氷系かな? 風系でもいいなと僕が思っているとエリザが僕を見て、


「特にアラタ、お前は出来る限り魔法を使わないように」

「なぜですか?」

「威力が強すぎる」


 もっともな意見だったので僕は黙る。

 それから、エリザの後ろを援護という意味でサナが、その後ろにカレンと僕が並んで歩くことに。

 はじめは木漏れ日が心地いい径だなと思っていたのだけれど、途中から本当に片面が崖になっていた。


 魔法で強化されたロープを片手に、切り立った斜面を歩いていく。

 こういった斜面にも小さな植物や鳥の巣などがあり、生命の息吹を感じる。

 また、この下の方には小さな川が流れていて、この川が長い歳月をかけてこの大きな谷上の場所を作ったのだろうと僕は思った。


 そういったことを考えながらでないと、とてもではないが足が震えてしまい動けない。

 ここを移動しながら僕は、後で空飛ぶ魔法を探しておこうと心に決めた。

 帰りはここを通るのは嫌だと思う。

 そんな僕達の戦闘を歩いているエリザは慣れた手つきで歩いていき、現れた蝙蝠のような4本羽の魔物を倒していく。


 こうしてどうにか谷の場所をクリアした僕達の前に、今度は丸太の橋が見えたのだった。








 谷にかかっている丸太の橋。

 極めて簡素な橋である。

 その橋自体には緑色のこけが生えていて、軽く踏んだだけでミシミシいいそうに見えた。


 しかもこの谷の一番狭い所とは言え、この端の眼下には切り立ったがけが左右に見える。

 そのさらに奥のの暗がりに、時折光が差し込んで水面が光って見える。

 そんな場所に、心許ない丸太の橋が一つ。


 先ほどの片面崖の場所を渡らせられるのはまだ耐えられたが……僕はもう耐えられなかった。


「“選択画面”」


 小さく呟いて画面を映し出す。

 そして魔法の中で風系のものから、空が飛べるようになる魔法を探していく。

 見つけた。


 転送魔法はまだ、あまり見せないほうがいい気がするので使わない。

 これは僕だけの特殊能力チートのようだから。


「“空中散歩”選択」


 同時に僕の周りにいた三人の足もふわり途中を浮く。

 この魔法は、僕達が望んだ任意の高さの空中を歩くことの出来る魔法だ。

 だから坂道や階段をイメージすればより高くなるけれど、今はこの高さのままあちら側に行ければいい。


 そして僕は真下を見るのが怖くて目をつむりながら一気に駆け出す。

 地面をける音がしないのでどれだけ進んだのかわからないが、そこに自分を呼ぶサナの声が遠くからした。


「アラタ、もうそこで止まって」

「え?」


 僕はその声を見てまぶたを開く。

 気づくと、先ほどの谷からはそこそこ歩いてきてしまっていた。

 慌てて戻るとサナが、


「魔法の持続時間は?」

「わ、分からない」

「……この状態で、丸太の上を私達は歩いたほうが良さそうね」


 との事でエリザ、サナ、カレンは丸太の上を歩くことに。

 そしてここにたどり着いてから、


「えっと、魔法は終わりです。……消えた」


 その僕の意志によって、前と同じような土を踏む感触が戻ってくる。

 それから僕達はさらに歩いていって、その先で、蔓が沢山束ねられたようなものに遭遇したのだった。








 沢山の細いつるを束ねたようなそれ。

 それが空に向かって伸びている。

 と、そこでカレンが魔法使いのような杖を取り出して、


「これがあの茶葉です。貴重なものではあるのですが、凍らせると味が落ちるので氷系の魔法は止めてください。できるだけ風魔法で葉っぱを切って回収してください」


 そう言いだしたカレンは更に付け加える。


「また、このつるは意思があり、葉を奪われると怒ってつるを伸ばしてきますのでお気を付けを」


 との事らしい。

 そこで、カレンが風魔法を使い上の方にある葉っぱを一つ切り落とした。

 ふわふわと緩やかに飛んできたそれだが、僕の身長程度の幅がある。


 実はこの葉っぱはとても大きいと思いながら、僕の真上に来たので回収する。

 すると目の前の蔓がプルプルと動き出して、そこでカレンがさらに、


「ここの広場の入り口付近にもっていってください。回収するたびにそちらへ。つるから逃げるのは結構大変ですから」


 静かな説明と共に再び魔法ではが落とされて、そこで細い蔓がカレンに攻撃を加えるもカレンはよける。

 それらを見ていたエリザやサナも、急いで葉を落としながら蔓をよける。

 その中で僕はというと、何故か襲われない。


 女神様の加護の影響なのか分からないが、襲われないので自然と地面に落ちてくるは葉っぱの回収係になる。

 僕って微妙な所で活躍しているなと思いながら何枚も葉っぱを集めていった僕。

 けれどやはり少しは魔法を使って葉っぱを切り落とす手伝いをすべきかどうか考えた所で、


「きゃあっ」


 サナの悲鳴が聞こえたのだった。








 サナの悲鳴が聞こえた方を見ると、にゅるんと緑色の蔓がサナの方に伸びてきて捕らえていた。

 いわゆる触手のように見えるのだがそこでカレンが、


「サナ~、捕まるとは神童の名が泣きますよ~」

「うう、だって動きはやすぎだよ!」

「今年は温かかったですからね。蔓が元気なのでしょう」

「そんなぁ。た、確かこの植物、魔力を少し吸って終わりだっけ」

「そうだね。数日間動けなくなるけれどね」

「……」

「……」


 カレンはそういながら蔓の攻撃をよける、エルザもだが、それで精いっぱいのようだ。

 先ほどから、葉っぱを刈る余裕もなくなっているようだった。

 実は今年はこの蔓が元気であるらしい。


 そこでサナが、


「やだ~、明日もまたしないといけないことが……この、炎系の魔法を使ってやる! “炎の矢”」


 そう呟くと、サナの周辺で炎の矢が三本ほど生まれてサナを捕らえている蔓に攻撃する。

 しかし突き刺さるとその炎は掻き消えてしまった。

 どうやら、失敗だったようだ。そこでサナが、


「この蔓、水分が多い気がする」

「今年は雨が多かったですから」

「ほのぼの言ってないで助けて!」

「いえ、申し訳ないのですが私も逃げるのが精いっぱいで。あ」


 そこでカレンは石に躓きそうになり、その油断を蔓につれて捕らえられた。

 あらららと言っているが、残りは、エリザのみだが。


「こっちもそう余裕がないぞ、く、どうしてこんなにやる気を出しているんだ。以前はこんなじゃ無かったのに」

「今年の葉っぱは青々としていい葉っぱでしたからね。元気なんでしょう」


 カレンが何かを諦めたように告げる。

 そこでエリザが何かから避けるように後ろに下がった。

 見ると下から根が襲い掛かろうとしている。


「こんなもの見たことがない」


 エリザが小さく呻くようにつぶやいたのだった。








 相変わらずの危機的状況。

 次から次へと捕まっていく仲間の少女やお姉さん達。

 そして僕はというと何もされずに立っていた。


 女神様がここに連れてきたから襲われないのかもしれない。

 祝福のようなものがあるのだろうか?

 そう僕は思いながら、エリザを捕まえて大人しくなった蔓……まずはサナの近くに行き、蔓をはがそうとする。


 何故か僕が触れると蔓は大人しく、そのまますぐに外せた。

 そしてサナを抱き上げるとこのつる植物のいる広場の入り口まで連れて行く。


「あ、ありがとう……」

「しゃべらなくていいよ。えっと、状態異常を癒す魔法は……これかな?」


 選択画面の中で、痺れを治す魔法を探す。

 そして軽く触れると目の前に金色に輝く魔法陣が浮かび上がり、すうっとサナの体に入っていくと、


「! 治った気がする!」

「それは良かった。カレンとエリザも助けてこよう。僕には触れられないようだから。サナはここで待っていて」


 そう僕は告げて、次にカレンを蔓から引きはがして連れてくる。

 しびれの解除はサナに頼んで、残りはエリザだった。

 ぐったりしているのと僕よりも身長が高めなので、大人の女性というか、重いというか……言ったら怒られそうなので言わなかったが重かったです。はい。


 そして全員の痺れすらもとってから僕はカレンに、


「葉っぱの量はこれくらいじゃ駄目かな」

「もう少し欲しいですね……でも今は蔓が生命力がありすぎですからね。その分お茶にするとおいしいとは思うのですが、もう少し準備が必要そうですね」


 との事で一時的に帰ることになったのだが……そこで獣の鳴き声がしたのだった。


 







 獣の鳴き声。

 怪物の叫び声に僕はびくっとする。

 見るとあの蔓に向かって、沢山の犬のような魔物が走ってきている。


 それらは一斉に、蔓に向かってかぶりついている。

 蔓は必死になって弾き飛ばしているが数が多い。


「なんであんな沢山の魔物が。蔓はあの魔物の食料になるのですか?」


 僕はよく知らないのでカレンに聞くと彼女は青い顔で首を振る。


「そんな話聞いた事がありません。むしろあの葉っぱには人の治癒力を上げたり、魔物を退ける力があって……現に食らいついた魔物が次々と消えてきているでしょう?」


 そう言われてそれをみると魔物は消し去られている。

 どうやらあの蔓は聖なるもの、みたいな存在でもしかしたなら……。


「人の住まう場所に魔物を近づけない役割をしているとか? 結果的にでもそうなっていたりする?」


 ふと浮かび上がった僕の疑問に答えたのはサナだった。


「! そうです。それに、あの魔物の量はおかしいわ! 自然発生だとしても次から次へと行くのはおかしい……まさか、この蔓を滅ぼそうとしている?」

「だったらこの魔物たちは倒さないいけませんね。そして私のお茶の材料を消し去ろうという馬鹿者には、私が直々にお灸をすえてやります」

「あ、カレン、勝手に飛び出すなんて……カレン、お気に入りの材料に対しては目の色が変わるから……エリザ、アラタ、魔物を倒すのを手伝ってもらえますか?」


 サナが僕に言ってきた所でエリザが、


「それは構わないけれど供給源を絶たないと、ずっと来るよね」


 それを聞いた僕は、


「……まずはこのつるの周りに結界を張って、魔物が攻撃できないようにしてから駆除した方がいいかな?」

「それは良い案ね」


 サナが僕にそう答え、僕は選択画面を呼び出したのだった。








 結界の魔法はいくつかある。

 それぞれの属性である。

 風系の魔法はこの蔓を傷つけずに魔法を使うために、という話だった。


 そして光を受けると植物は良く育つらしい。

 僕達が葉っぱの幾らかを刈り、そして今回魔物に襲われて少し疲弊しているだろう。

 そうなると回復も兼ねるなら、光系の魔法の結界がいいのかもしれない。


 だから僕は選択画面の中から、光魔法の結界“光り輝く大地の柵”を選択する。

 選択画面のそれを触れて、この大きな蔓を守る様に結界を想像する。

 僕の指の先から金色の光が伸びて行って地面におちる。


 それから水がまわりに広がる様に広がっていて、やがて文字となっていく。

 その文字と戦が繋がり、大きな魔法陣となり、その蔓の下に敷かれた。

 その結界の一番外側の縁の部分から光の柱が立ち上っていて、それが壁となっているようだった。


 実際に魔物が追突してそれ以上はいれないようだ。

 あとは結界の中にいる魔物達を倒していけばいいだけになる。

 試しにそっと結界に僕は触れるけれど特に何もない様だ。


 人間には影響しないそういった魔法であるらしい。

 だから僕達はそのまま中に入り込み、結界内の魔物を駆逐していく。


「“氷の連矢”」

 

 それほど強くないけれど幾つもの矢が現れる魔法を選択。

 瞬時にそれらは飛んでいき、魔物達を凍らせて粉砕させていく。

 うった魔法が全て、魔物だけに向かって飛んでいく。


 まるでゲームのようだが、どうやらこれは僕特有の力であるらしい。

 そう思いながらさらに倒していって、結界内の魔物を倒した後、大きな獣の唸り声が何処からともなく聞こえたのだった。

 

 







 大きな獣の咆哮。

 悪意に満ちた恐ろしいその声に僕はそちらの方を振り返る。

 何かがいた。


 黒く大きなその存在。

 僕達の身長の数倍はあるかのような巨大な体躯。

 黒い毛でおおわれているのだとすぐに気づく。


 その体はくまのようにも見える。

 動きも早く、すぐに僕の張った結界に触れて、打ち破ろうと叩く。

 その魔物の周囲に先ほどから大量に集まっていた魔物達も集まっていく。

 

 一か所の結界を破り、そこから中に潜入しようとしているようだった。

 結界はまだ持ちこたえられそうだ。


「“氷の連矢”」


 再び魔法を使い中にいる魔物を倒す。

 同時に、サナが最後の一匹を倒す。

 エリザが、


「この強そうな魔物、結界も破壊するつもりか?」

「そうみたいですね。私達がとりあえずは小さいのを倒しましたが……どうしましょうか。あそこにいる魔物全部を倒しますか? 結界を解いて」

「出来れば結界内から攻撃できればいいな。確かこの結界は私達は入れるんだったか」

「魔法は透過できるかは分かりませんが剣なら可能でしょうね。私も短剣を持っていますしカレンも持っていたはず」

「とりあえずはそれでいこう。アラタ! 結界の維持を頼む」


 僕はそうエリザに言われてはいと答えた。

 答えたのだが……結界の維持ってどうやるんだろうと思わなくもない。

 切れそうになったら再度魔法をかければいいかなと僕は思う。


 戦っているサナたちのその案は当たっていたらしく内部から敵を倒している。

 本当あら魔法の方が簡単ではあるらしいが、いかんせん、あの黒い魔物は危険そうであったので仕方がない。

 そう僕が思っていると、僕の結界に、何かが撃ち込まれたのだった。







 それは大きな風の塊のように僕には見えた。

 一度ではなく、2度、3度と打ち込まれて、僕は慌てて再度結界を張ろうとしたけれど、甲高い音を立てて崩れていく。

 強い力だったようで、数発で僕の結界は壊されてしまった。


 僕はすぐにその魔法が撃ち込まれた方向を見ると、そこで宙に浮く黒いローブの人物がいる。

 以前の昨日の洞窟にいた、“魔物使い”に似た装いの人物。

 僕はそう思いながらも警戒していると、そこで、


「またお前達か」


 と小さな声で呟く声が聞こえた。

 やはりその人物は、昨日僕達が洞窟で会った人物であるようだ。

 まさかこんな所でも遭遇するなんて、そう僕が思っているとそこでその人物が、


「だが、見ている限り、“強力な魔法”は使えるようだが、“魔法”自体の扱いには慣れていないようだな」


 それを言われて僕はぎくりとする。

 そこで別の方から爆音が聞こえた。

 見るとサナたちが魔物相手に苦戦しているようだ。


 一体一体が弱くとも数が多い。

 しかも、その中にはあの大きな体躯の魔物までいる。

 手助けをしないと、僕がそう頭にすぐに浮かぶ。

 

 だから、すぐさま選択画面で魔法を選ぶ。

 今回は風系の魔法である、“葉の舞”を選択。

 その名の通り切れ味の良い葉っぱが何処からともなくやってきて斬りつけられるらしい。


 後で知ったがその葉っぱは魔力が強く、切れ味の鋭い“刃草”という草の葉であるらしい。

 珍しいものであるが、ある場所には大量に生えているそうだ。

 そしてその魔法を使っている僕はそのすきを狙われてしまう。


 その黒ローブの人物が風の魔法を僕に打ち付けた。

 一応は不可能力でそこまで大怪我にはならなそうではあったけれど、そこで誰かに僕は体当たりされる。

 そのおかげで魔法からは回避できてそして、


「よし、御恩を少し返せました!」


 猫耳のあの少女、ミミが現れたのだった。








 現れた少女、ミミ。

 以前僕がこの町に向かっている最中、僕の目の前で空腹で倒れた少女だ。

 狐耳の獣人で、何かを急いでいるようだった。


 まさかこんな場所で遭遇することになるなんて、と僕が思っているとそこでミミが、


「アラタ様、大丈夫ですか?」

「う、うん、油断しちゃっていたのはいけなかったかも。ありがとう」

「いえいえ、以前の空腹時のご恩に比べれば……と、お話をしている場合ではありませんでしたね。ちょっとあいつを倒してきますので、失礼します」


 そこでミミがそう呟き、にたりと笑う。

 瞳に鋭さが宿り、同時に彼女の周りに風が揺らめく。

 土をける音がした。


 それとほぼ同じ頃に彼女が、黒ローブの目の前に姿を現す。

 彼女の手には黄色い光のようなものを纏っていて、それを黒ローブは氷の盾のようなものを出して防ぐ。

 その氷の盾は、すぐに粉々に砕けて黒ローブは後ろに下がった。


「……相変わらず“藍花の民”は強いな」

「その中でもとくに強い者の一人ですからね、こう見えても私は」

「一体いつまで追いかけてくるつもりだ」

「里の“宝玉”を返してくれるまでですかね。そうしたら貴方をぼこぼこにして里に連れ帰り、処分を決めます」

「それはお断り願いたいな」


 笑うように言う黒ローブ。

 どうやらミミの里から大切な宝物? を盗んだらしい。

 それをミミは追いかけてきたようだ。と、


「ようやく追いついたのです。ここで逃がすと思いますか?」

「……しつこいな」

「しつこくなりますとも。あれは使いようによっては“危険”ですからね」


 そこで再びミミは攻撃を仕掛けたのだった。








 ミミが大きな掛け声をかけてから、飛び上がる。

 まるで瞬時に移動したかのようだ。

 それを黒ローブの魔法使いは魔法で防いでいる。


 何かお手伝いは出来ないだろうか?

 下手に魔法を使うと僕のような素人ではミミに怪我させてしまうのでは……。

 そうだ、魔法を打つときに声をかければいい!


 そこで気づいた僕は選択画面の中から効果のありそうな魔法を探していく。

 炎系の魔法でいいかと思って選択。そして、


「ミミよけて! “蒼炎の剣”」


 僕が叫ぶと同時に、ミミがよける。

 そして黒ローブの人物に向かって青い炎の塊が飛んでいく。

 ガスバーナーなどで、青い部分の炎が一番高いので、この炎も赤い炎よりも熱いのかもしれない。


 そう思っていると、黒ローブの人物がハッとしたように僕を見て防御をする。

 必死になって壁のようなものを生じさせているが、それでも抵抗できないようだ。

 それから受け流すように横にそれる。


 人間の腕が、やぶれた黒ローブから見えた。

 舌打ちする音がして、


「……仕方がない、引くか」


 そう黒ローブの物は去り、それを追いかけるようにサナたちが戦っていた黒い魔物も去っていったのだった。








 どうにか黒ローブの“魔物使い”を追い出した僕達。

 それからいち早く神殿に戻り事情を話そうといった話になる。

 ただせっかくここまで来たのだから、


「手に入れた葉っぱだけはもっていきます」


 というカレンの情熱の結果、ここで初めて特殊能力を使いました。

 チートです。

 転移魔法です。


 こうして僕達は、瞬時に神殿に戻って来たのでした。









 神殿に瞬時に戻った僕達。

 転移の魔法を選んでおいて良かったと僕は思いました。

 サナ達が驚いたように周りを見回している。


 それはそうだろう、おそらくこの魔法はこの世界では特殊な魔法だ。

 だからあまり使わないでおこうと思ったけれど、事情が事情だけに(“魔物使い”の件と葉っぱが重い件と帰り道が怖い件)この力を使った。

 だがこの力についてはどう誤魔化そうかと思っているとエリザが、


「場所から場所への転移……こんな魔法、知らない。特殊な魔法か。このせいでギルドカードが作れない“事情”もあったのか」

「え、えっと、はい」


 とりあえず僕は頷いておくことにした。

 なにしろ、この世界の女神様に連れてきてもらって特殊能力チートを貰ったなんて、そこら中で話してしまうのはどうなんだろう?

 悪用しようとすれば幾らでもできる力だ。


 例えば、どこかのお屋敷の宝物庫に転移して宝物を奪うとか。

 そしてその力を知られたがためにそういったものに巻き込まれる可能性も僕にはある。

 女神様に力を貰ったとはいえ、あまりそう言ったことも話さないようにした方がいいかもしれない。


 そう僕が思って、とりあえずはエリザの言葉に頷いたのだけれどそこでミミが、


「恩人のアラタさんはそんな特別な方だったのですか」

「そういえば、ミミも“魔物使い”を追いかけているようだったけれど」

「はい、私たちの村が大切に管理している“宝玉”を彼らの“仲間”に盗まれていまして、私達、“宝玉の巫女”は分かれて彼らを追いかけているのです」


 ミミはそう答えたのだった。









 “宝玉の巫女”

 それがこのミミ達であるらしい。

 そしてあの“魔物使い”はミミ達の村から大切な“宝玉”を盗み出したらしい。


 そこでサナが、


「“宝玉”ですか。獣人、それも狐族の秘宝で確かそんな物がありましたね。でも、どんなものなのか、どんな力があるのかはまだ分かっていなかった記憶があります」

「ええ、村の外には秘密ですからね。私達、“藍花の民”の中でも“宝玉の巫女”市かその力も存在も知りません」

「ですが、“魔物使い”との会話では危険なもののように聞こえましたが」

「たしかに危険ですが決められた手順と方法、そして必要なその他諸々がないと術が“失敗”してしまうので問題ありません」


 ミミがサナにそう答える。

 けれど失敗ってと僕が思っていると他の人も疑問に思ったらしくカレンが、


「失敗とは具体的にどのような状況になるのですか?」

「そうですね~、場合によっては猫耳が生えてしばらく“にゃあ”としか言えなくなってしまうのですが、一週間程度で解ける呪いでしょうか? その間は“借りてきた猫のように”大人しくなります」

「……なるほど、鎮静効果のある魔法が発動するのですね」

「厳密にいうと“違う”のですが大体はそうです」


 そう答えるのを聞きながら僕は聞いてしまう。


「その“失敗”は起こりやすいのですか?」

「“失敗”しやすいではなく、“成功”しにくいといった方が正しいですね。だから手に入れたといってもそう簡単には使えないはずです」


 納得していただけましたかというように、ミミがいう。

 それから上の方の人達に話すとの事で、サナはミミを連れて行き、そして僕は……カレンに茶葉の葉っぱを運ぶのを手伝い、エリザとはそこで別れたのだった。



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