助けた猫に連れられて、異世界へ
その日はしとしとと、冷たい雨の降る日だった。
いつもの中学校の帰り道。
僕、木下新 (きのしたあらた)は、いつもの中学校からの帰り道、怪我をした野良猫を拾う。
真っ白い毛がふわふわの美人さんではあったけれど、今は赤い血で濡れている。
見てみると息はあったので、動物病院に向かうけれど今日は休みだった。
仕方がないのでネットを調べ、手当てをしてみる。
体を綺麗にして、消毒して、包帯を巻く。
とりあえずは柔らかいタオルの上に載せて、暖房の近くで体を温めてあげる。
その猫が動けずにいる間に僕は、とりあえず近くのコンビニでキャットフードなどを購入。
お腹が空いているかもしれないと思ったから。
そして戻ってくるとその白い猫は、赤い瞳を開けていて、うっすらと白い光に包まれているように見える。
やがて僕の存在に気付いたらしく、その白猫はにゃあと鳴いた。
意識は戻ったらしいと僕は安堵しながら、
「キャットフードは食べれるかな? それともミルクの方がいいかな?」
よく分からなかったので、食べ物を用意した。
するとその猫はすぐに立ち上がり、とてとてと僕の用意した餌の方に向かってくる。
結構大けがをしていたように見えたが、気のせいであったらしい。
美味しそうに餌を食べる様子に、もう大丈夫かなと僕が思う。
でも明日は、病院で見てもらおう……そう決めた次の日、その猫は眠っていた段ボールから忽然と姿を消した。
やはり野生の猫だから、僕のうちにいるのは窮屈なのかもしれない。
それを悲しく思っていた僕だが、数日後。
部屋に帰って来た僕の前に、部屋の中に猫耳の生えた美少女が現れた。
白い髪に白い猫耳赤い瞳。
彼女は僕に微笑み、
「先日は助けていただきありがとうございました。新作ゲームを買いに行ったら怪我をしてしまって。お礼に、私の世界のご招待します」
「え、えっと、もしかして君はこの前の僕が助けた猫?」
「そうですよ~。というわけでどうされますか?」
その問いかけに僕はちょっと悩んでから、
「ここには簡単に戻れるのですか?」
「はい、望む限り」
「時間の経過は?」
「そうですね、この世界の現時点以降でしたらいつでも戻れますよ?」
「どのような世界ですか?」
「ゲームのような剣と魔法の世界です」
という説明を受けた僕は、ゲームが大好きだったので、
「その世界で冒険したいです」
「はい、分かりました。では~、行きましょう」
「あ、貴方の名前聞いてない」
「ニケです。では、また私の世界でお会いしましょう、えっと」
「アラタです」
「では、アラタ様、また後で!」
それと同時に僕の足元がまばゆい白い光に包まれたのだった。
まばゆい光に包まれて、眩しさに僕は目を閉じる。
そして瞼に強い光が感じられなくなったところで僕は恐る恐る瞼を開く。
ごおっと大きな音がして、涼しい風が吹き再び僕は目を閉じてしまう。
それからゆっくり僕は目を開くと、そこはあたり一面に広がる草原だった。
遠くにあるのは湖で、僕の向かって右側に茶色い木製のボートが幾つか見て取れる。
おそらくはあそこに人が良く来るのだろうか?
となると、民家のある場所につながる道があのあたりにあるのかもしれない。
そう思いながら僕は周りを見渡す。
「僕がいるのは丘の上の草原みたいだ。周りには木が何本か生えていて、後遠くに青く見える山々があって、その手前は森みたいだ」
まず降り立ったのは、異世界の丘であるらしい。
そして見上げた空には太陽と二つの月がある。
僕の住んでいる地球と同じ法則で動いているのかどうか不明なので、方角や時刻の割り出しは無理そうだ。
「でもどうしよう、僕、これからどうすればいいのかな?」
ここにきて困ってしまう。
これから僕はどこに行けばいいのだろうか?
そう悩んだ僕はとりあえず、歩いてみることにした。
まずはこのオレンジ色が綺麗な果実の実る木の所に向かう。
近づいて見上げると、手の届く範囲で美味しそうに色づいた果実がある。
とりあえず手をのばして、もぎ取ってみる。
周りの皮の感じも含めて、僕達の世界にあるネーブルオレンジにとてもよく似ている。
「これなんだろう? 僕達の世界のミカンに似た香りがする。食べられるのかな?」
そう思ってそれを上から下から見てみるが、よく分からない。
出来ればこの果物に関して説明の表示が出てくれないかなと僕が思っていると、そこで小さな音がした。
小さな低重音と共にピンク色の透き通った光の枠がでてきた。
同時に、この手に取った果実についての情報が、なぜか僕に読めるが、異国の言語で表示されている。それによると、
「“ゼリーの実”。この世界での高級食材。半分に割ると、果汁のたっぷり詰まったプルプルの果肉が現れる。とても美味しい。体力と魔力とても回復する……そうなんだ。高級果実なら何個かもいでもっていくと売れるかな? でもこの場所って私有地になるんだろうか? ……あれ?」
僕に疑問に答えるかのように説明のためらしい光の枠が、新しく現れる。
ここは女神の私有地なので、アラタなら問題ないよ! との事だった。
それを見ていた僕は、
「えっと、こんな文字越しではなく、女神様と直接お話ししたいです」
「わかりました!」
そこで、何処からともなく、僕をこの世界に連れてきたであろう、白い猫耳の女神様が現れたのだった。
猫耳の女神さま、ニケがにこにこと笑っている。
とてもうれしそうな様子だけれど僕は、
「こんにちは。今日は招待していただきありがとうございます」
「いえいえ。保護していただいたお礼です。あのまま放っておかれたら私も死んでしまったかもしれませんしね」
「そうなのですか?」
「そうなのです。ですから命の恩人である、アラタ様にはお礼にこの世界で遊んでもらえたらなと」
「そうなのですか、ありがとうございます。でもこの世界ってどんな世界なんだろう?」
僕は再び周りを見回すが、人っ子一人いない。
ただ空気が澄んでいて森は綺麗で、自然が豊かな場所であるらしい。
そう思って周りを見つつ、次に先ほどもぎ取った果実を見てから僕は、
「これを食べながら説明しても構いませんか? 凄く良いにおいがするんです」
「いいですよ。スプーンとナイフかな」
そうニケが告げると、銀色のナイフと木製のスプーンが現れる。
そしてその銀のナイフを持ったニケが、鼻歌を歌いなら果実を半分に切る。
ナイフで切り込みを入れると同時に、果汁がとろりとあふれ出す。
柑橘系の香りが強くその場所から出ているようだ。
そして真っ二つになった果実の半分と木製のスプーンを僕に渡してくる。
「この中身をこのスプーンですくって食べるのです。とってもおいしいですよ。他の場所には違う味の“ゼリーの実”がありますから、気に入りましたら案内しますね」
「あ、ありがとうございます。頂きまーす」
そう言って僕は、果実の皮の中に入ったゼリー? 果肉にスプーンを入れる。
感触自体は普通のゼリーだ。
それを一掬いして口に入れると、口の中でとろりと溶けて、
「! 凄い、まるで熟したミカンの果肉をそのまま食べているみたいに、程よい甘さと香り。凄く美味しい」
「気にいって頂けましたか?」
「はい!」
僕がそう答えると、ニケも機嫌が良さそうにそれを口にする。
「やはりこれは美味しいですね~。あ、そうでした、この世界の説明でしたね。この世界の名前は“わんにゃーらんど”と言います」
そう、ニケが猫の鳴き声のような世界を口にしたのだった。
“わんにゃーらんど”。
それがこの世界の名前であるらしい。
何というか少し適当な気もするが、そういうものなのだろう。
そう思っているとニケが、光の枠のようなものを開き、
「アラタの世界のゲーム画面を参考にして作ってみました。この大きな島のこのあたり、ここが現在私達がいる場所ですね」
「結構内陸部なんだ」
「そうですね、アラタは海が見たいですか?」
「確かに海は見たいかな。でもそれよりも、まずは人のいる街に行ってみたい。この世界って、ニケみたいな猫耳の獣人もいるのかな?」
「いますよ~、うさ耳狐耳犬耳、他にも色々。エルフだっていますしね」
「エルフ! 確か凄い美少女?」
「そうですね……やっぱりアラタも男の子ですね~」
そう言われて笑われてしまった。
で、でもこんな異世界だから、獣耳が生えた可愛い子に会ってみたいとは思う……いや、すでに会っているけれど、もっといろいろ見てみたいというか。
上手く説明できずに僕はひとりで悩んでいるとそこで、
「その辺りはこれ以上聞くのはやめましょう。それでですね、どんなチートがお望みですか?」
「チート……うーん、どの特殊能力がいいかな」
僕は真剣に考える。
そのチートは多分一つしか使えない。
ここは真剣に考えるべきだなとおもって僕は、先ほどの実を一口。
とても美味しい。
そこでニケが、
「あ、そういえばですね。この世界をゲーム風に楽しんでもらおうと思ってこんなものを用意しました。じゃーん」
そこで緑色のベルトのついたポシェットがニケの手に現れた。
それをニケは手渡してくるので受け取る僕だけれど、
「これは?」
「魔法のポシェットです。何でも入って、取り出したいものが好きな時に取り出せます」
「生ものは?」
「常に新鮮なままですよー」
「だったら、今食べている果実もいくつか貰ってここに入れてもいいかな?」
「いいですよ。気に入っていただけましたか?」
それに関して頷くと、ニケも嬉しそうだった。
そこでニケが何かに気付いたらしく、頷いて、
「そうですね、もしかして今のアラタのこの世界での基本スペックの説明をした方がいいですか?」
とニケが言うのでお願いしますと僕は答えたのだった。
僕の基本能力、それはどうなんだろうと思っているとそこで、ステータス画面のような光の板が現れた。
アラタ
☆ステータス☆
種族:たぶん人間
レベル:50
体力 10000
攻撃力 10000
防御力 10000
魔力 10000000
魔法耐性 10000
知力 10000
素早さ 10000
回避 10000
運 10000
装備:普通の服
魔法属性(%):炎 100 水 100 土 100 風 100 光 1000 闇 100
特殊能力:知りたいことがあればこれはなんだろうというと説明文が表示される。その他、テレビゲームと同じような能力が使える。
と書かれていた。
魔力には色がつけてあるらしい。
そして知りたいなと思うと、ゲームのようにそれがどんなものか出てくるのだ。
となるとこれらの能力があると、
「魔法なども選択画面を呼び出して使えるのですか?」
「もちろん! この世界の人達が習得に時間がかかる魔法でも、魔法を選択すれば一発です!」
「う……努力している人に申し訳ないような……」
「でも気軽にこの世界を楽しんで遊んでもらうにはそれくらいしないと。それに、私、ゲームが好きなんです。アラタはどうですか?」
問いかけられた僕は、最近やったニャンテンドー3DSの某ソフトを思い出しながら、
「好きかな」
「ですよね。ですからこの世界もゲーム風にしたいので、気づいた所があれば私に教えてほしいのです。改善しますから」
ニケがそういう。
どうやら僕はお試しされているのかな? と思いながら、
「でもゲームの能力があれば大体の魔法はどうにかなるなら後は……時空間操作系の魔法かな?」
「? その心は?」
「失敗した時にやり直せたり、場所を移動したりするのに便利」
「なるほど……ではそれを特殊能力にしますか?」
「はい!」
「分かりました~。魔力もこれくらいあれば大丈夫だろうし、これ、この世界でアラタが一番強くなっちゃいましたね」
「そうなのですか?」
「そうなのです。あ、後は地図ですが、地図は選択画面を起動して、大切なものの所で見れます。他にはお金なんかもここで確認できますね」
との事で見てみると、156300000ゴールドというすごい数字に僕は目が行ってしまう。
だがそれは後回しにして地図にふれると、先ほどのニケが出してくれたような地図が現れたのだった。
現れた地図には僕がいる場所が赤く表示されている。
同時に少し右側に町のようなものも見て取れる。
「この街が一番近いのですか?」
「そうですね。人が多いのですがそこそこ綺麗でいい街ですよ。食べ物も美味しいですし」
「そうなのですか……うん、まずはここを目的地にしよう。ここは冒険者みたいな仕事があるのかな?」
「有りますよ。そのためにはギルドに登録しないといけませんが」
「ギルド! 行ってみたいな。そこで登録して冒険したら、この世界の人と出会いがあるかな?」
「そうですね……一人旅は寂しいですし、私もいつも一緒にいられるわけではないですし」
「そうなのですか? 一緒に冒険してくれるのかと思っていたのですが」
「神様のお仕事と……その……新作のゲームが」
ゲームの方は少し申し訳なさそうに言うニケ。
確かニケはゲームが大好きだった。
それ故に僕達の世界に来て怪我をしてしまったのである。
そして僕もゲームが好きなのでニケの気持ちはとても良くわかる。
「分かった。じゃあこの世界で仲良くなれそうな子を探すよ」
「はい、アラタ、よろしく。あ、そうだ、都市なら私の神殿もあるので街案内を神殿の子を派遣してもらうよう、頼んでおきましょうか?」
「いいのですか?」
「もちろん。アラタには私の世界を楽しんでいただきたいですからね」
ニケがそう言うので僕はお願いする。
それからポシェットには飲み物や食べ物がいっぱいはいっていますからと説明を受けて、僕は、目の前のゼリーのみに舌鼓を打ってから、
「ではまた後で会いましょう」
手を振るニケに僕も手を振り、人のいる街を目指して歩き出したのだった。