卑怯でも手に入れられるならば
「そーおーちゃーん」
双子の兄と同じ黒に赤のメッシュを五本入れた髪を揺らしながら、双子の兄のからかいがいのあるお友達に声をかけた。
お昼休みでもないのに屋上にいる私達は、授業に出ることを放棄したサボりだ。
「そおちゃん、じゃなくて、そうちゃんな」
はぁぁぁぁ、と深く長い溜息を吐き出してそおちゃんことそうちゃんは私を見た。
兄の言う通り構うと楽しい人なのだけれど、どうにも今日はそういう気分ではないらしい。
まぁ、向こうがそうだろうと私の気分優先なのでそんなのは関係がないのだが。
またしても溜息を吐き出しているそうちゃんを見ながら、私は肩を竦めた。
そんなに落ち込むなら学校に来なければ良かったのに、なんて口が裂けても言ってはいけない。
だって来なかったら会えないもの。
「そうちゃんはぁ、振られたくらいで?そんなぁに落ち込んじゃうんだァ」
ぽってりと赤を塗った唇に指を乗せながら、兄と同じ口調でそうちゃんに言葉を向けた。
私の言葉にそうちゃんは小さく肩を揺らしてから、また先程と同じくらい長い溜息を吐く。
数ヶ月前に転校して来た子とそうちゃんは、仲が良かった。
休日に二人で出掛けているのを何度か見たくらい、付き合ってるんじゃないかって噂が流れるくらいに、二人は仲が良かったのだ。
でも彼女は私の兄が好きだったのだ。
私はそれを知っていた。
兄が彼女に興味無いのも知っていたけれど。
そうちゃんが告白して振られるのだって、私は分かっていた。
「本当に好きだったんだよッ……」
どさり、とそうちゃんが寝転ぶ。
私は立ったまま寝転んだそうちゃんを眺めて、私も好きなんだけど、と声を荒らげたくなる。
鈍い男は嫌われるんだから。
兄がそう言っていた。
赤いメッシュを指先で弄りながら、へぇ、とか、ふぅん、とか意味のない言葉を発する。
目元を腕で覆っていたそうちゃんが、腕を退けて私を見上げた。
何だよ、と言いたげな目を見て小さく下唇を噛む。
「私も本当に好きなんだけど」
髪の毛から手を離してそうちゃんの顔を覗き込むようにしながら、言葉を紡いだ。
ゆっくり時間をかけて目を見開くそうちゃん。
だけど直ぐに目を細めて「今はそういう冗談、聞きたくねぇから」とマジトーンで拒絶される。
冗談じゃないんだけどな。
そう思いながらしばらくそうちゃんを見つめてから、寝転んでいるそうちゃんの横に腰を下ろす。
スカートの裾を揃えてシワにならないように伸ばしながら、こういう時にこの性格は面倒だな、なんて考えていた。
兄と同じような飄々とした性格は、彼とは不釣り合いな気もする。
それを理解していても私は笑う。
飄々とした雰囲気を出すしかないから。
笑う笑う笑う笑う、笑え。
「好きだよ。私と付き合おうよ」
そうちゃんの方を見ずに言えば、そうちゃんは勢いをつけて起き上がり「お前なぁ」と怒ったような声を出す。
あぁ、怒ってるんだ。
でもその怒りはどこから来るんだろう。
彼女を諦めろと遠回しに言うことに関してか、それとも私がこんなことを言うからか。
どちらにせよ、私のせいらしい。
そうちゃんが私を見た瞬間に目を見開く。
怒ったような顔から一点、アホ面だ。
スカートの折り目に視線を落としていた私が、その視線を上げてそうちゃんを見れば、アホ面から何とも言えない顔になる。
苦虫を噛み潰したような、泣き出しそうな、困惑しているような、そんな顔。
「……何で泣いてんの」
片眉を上げて、片眉は下げて。
歪んだ顔でそう聞くそうちゃんに、私は緩く頭を振ってから自分の頬に触れる。
ヒンヤリとした感覚と指先に付いた水滴。
それなのに、口元はしっかりと三日月型。
違うんだと言うようにもう一度頭を振れば、そうちゃんの首が傾く。
それから恐々といった様子で私に手を伸ばして、赤メッシュと普通の黒髪を掻き混ぜるように撫でた。
大きな手、温かい手、優しさが消えない心。
欲しい欲しい欲しい、そうちゃんが欲しい。
「そうちゃん、好き」
喉から手が出るくらい、好き、欲しい、頂戴。