プロローグ
ある年の夏休みの昼下がり、茹だるような暑さの中、野上リキ(17)は級友と共に書店巡りをしていた。
目的は主に二つ、一つは夏休みということで運動不足の解消。そしてもう一つは最近ネットで有名な噂、"日本各地の書店に異世界に行ける魔道書が紛れ込んであり、それを開くと強大な力を得ながら異世界に行ける"といったいかにも胡散臭い都市伝説を探しに行こうという話だった。
実際そんな話を鵜呑みにしているわけではなく、級友を呼ぶうまい口実が思いつかなかったことで適当に2ちゃ〇ねるで見た題材を引っ張り出してきたのだった。
そんな適当な口実だったにも関わらず、4人の旧友がこの書店巡りに付き合ってくれた。
まぁ、"どうせガセだろうけど面白そうだから"やら"都市伝説に興味はないけど他の本が見たいから"やら"どうせ暇だから"やら"邪魔しに"やら本当に友達なのかと誘った自分が思うほどロクでもない返答が返ってきたが...。
そして全員が昼に集合する約束をし、時は今に至る。
五軒目の書店を出て知っている書店を行きつくした一行はそのまま惰性で新たな書店探しに出た。
「しっかしもう五軒目だぞ?流石に疲れてきたなぁ」
そう言って愚痴を零しながら横を歩く茶髪チャラ男は、桑山 茂。高一からの付き合いだがそれなりにリキとも仲がいい。因みにチャラいのは見た目だけで中身は真面目だったりする。
「そうね。目当ての本がこうもないとちょっと不機嫌になるわね」
少し顔をしかめさせてぼやく短髪少女は谷野 静河。体が小さい割に"道"と名のつく日本武術を広く嗜んでおり、すべてにかなりの強さを誇っているので相手に回してはいけない危険な少女だ。
「谷野の言う『お目当て』は裁縫初心者本だろ?柄じゃねぶろぁ!?」
危険少女に要らぬことを言って脇腹に蹴りをくらっているガタイのいいガチムチ大男は曝野 勇気。ボディービルダーを目指す筋肉バカだ。クラスメイトからはゴリラと呼ばれているが、どちらかというと鉄巨人だとリキは思っている。
「ねぇねぇ!そんなことどうでもいいから早くどっか座れるとこ行こうよぉ!疲れたよぉ!」
バカみたいに騒ぐミニマム少女Part2は坂上 乙音。静河も乙音も小さいが、大きく違う点は長く伸ばされた黒髪とその胸に実るたわわな果実だろう。なお、静河をリンゴとすると乙音は小振りのスイカである。言わずもがな前述の"邪魔しに"と返してきた張本人はこいつだ。さらに残念なことに、この残念な子が幼馴染なのだ。
「うるさいなぁ。乙音には来なくてもいいって返信したろ?」
面倒そうな顔でリキが言う。それを
「いいじゃない。人数がいたほうが楽しいじゃない」
と汗で張り付いた前髪を髪を梳きながら静河が笑う。
「そうだよぉ!静河ちゃんいいこと言うぅ!」
そしてそれに乗っかる乙音。どうせこのまま文句を言っても押し問答が続くだけだとわかっていたのでこれ以上は何も言わないことにした。
そんな会話を続けていると、見たことのない通りに出た。そしてその通りの入口には小さな古びた書店があった。
「こういう古い感じの本屋ってわけわかんねぇもんも結構置いてるよな。もしかしたら魔道書の一冊や二冊PONと置いてるかも知らねぇぜ?」
某コ〇ンドーのようなことを言い方をしながら勇気が皆に声をかける。
「そうだな。いい感じの雰囲気だ。」
「ここなら人が来ない分裁縫の本も置いてるかもしれないわね。」
「暑ぅい!早く休もぉ!」
全員が三者三様な意見を述べるが、とりあえず入るという意見に否定はないそうなので、
「まったく...。じゃあ入るか。」
とリキが仕切った。
この日、少年少女は書店へと足を踏み出す。それが異世界への最初の一歩だとは誰も知らずに...