探
ジュン捜索劇が始まります。
「んで、ここまで来ちゃった訳なんだけどさ………」
学校の最寄り駅にて。泰彦は肝心なことに今更ながら気づいていた。
「ああ」
翔もどうやら気付いたらしい。声に出ている。
「酒田…もうちょい正確な場所教えてくれてもよかったじゃねーかよ……」
今更感が激しく漂っている。
「それな!」
翔も反射的に言ってしまう。
真昼の駅。高校生が彷徨いている時間としては余りにも不自然な時間帯である。
周囲も訝しげな目で彼らを見るが、特に声を掛けることはせずそのまま素通りしていくばかりである。
邪魔が入らないのはありがたいところだ。
「とりあえず、当ても特に無いけど探すだけ探してみるか。離れないようにしとこう。
万一のことがあるとやだからさ」
これまた翔にしては珍しくまともな提案だ。
昼の時間帯。
夏であろうとなかろうとアスファルトで舗装された地面は太陽の輝きを吸収しあたかもフライパンのように人々を焼く。
しばらく経つが、空腹は感じない。
緊張感でそれどころではない。
しかし……
「なあ、なんで先生達誰も来ないんだ?」
思わず声に出る。
翔もそういえば、という表情になる。
「まさかいたずらとでも思ってんのかな」
翔にはそれくらいしか思い浮かばない。
「いや……酒田のあの様子見ていたずらって
思えたら相当なもんだろ」
「だよな」
「それにしても、どこにいるんだろうな、
ジュンのやつ」
このまま当てもなく彷徨いていても見つけられる可能性は相当低い。
正直なところ誰かに通報ないし学校に連絡されると厄介だ。それは避けたい。
ん……?まてよ?
「なぁ……この辺りでさ」
「うん」
翔もなにか察したらしい。
「人があんましこなさそうなところって、
どこかな」
「どういうことだ?」
翔は訝しげな表情を浮かべる。
「そのまんまの意味だよ。俺たち、あんまり目立つところ彷徨いてると誰かに警察や学校に通報されるリスクが高いだろ?
それはジュンを連れて行ったやつらにしても条件は同じだ。だから、人気がないところに普通行くだろう、と思ってさ」
「なるほどな。よし、調べてみるか」
翔がスマホを取り出しこの辺りの地図を取り出す。さて、どこかないだろうか。
泰彦も翔にならってスマホを取り出す。
地図のアプリを起動し、ひとけのなさそうなところ、ひとけのなさそうなところ………と考えながら画面をスクロールする。
その時だった。
ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる
「!」
「!!」
ジュンの番号かな、これ?
その思いを込めて翔をみる。
翔は壊れた人形のように首を縦にカクカク動かしている。
よし、出るよ。
言葉はない。しかし意思の疎通は出来た。
通話ボタンを、タップする。
がちゃっ
沈黙を破る唯一の音。その音は泰彦のスマホとジュンのスマホが繋がったことを示す音。
どこにいるんだよ、ジュン。
「もしもし?」
図らずとも声が僅かに上ずってしまうのを
抑えることが出来ない。
「松永泰彦君、だね?隣に居るのは吉野翔君であってるかな?」
低いバスの声。ジュンじゃないのは明白だ。
一瞬間が空く。
このまま「そうだ」と言っていいのか。
相手は何者かさえわからない。
「どうなんだい、そうなのかい、それとも
違うのかい?」
どうやら向こうはこちらが見えているはずだ。そうでなければこちらの動揺を見透かしたかのタイミングで声をかけることはほぼ不可能だろう。偶然にしては揺さぶるタイミングが絶妙すぎるのだ。
まあ元より引き下がるつもりはない。
そうだよ。俺は松永泰彦だ。
「そうです」
「そいつはよかった。こっちが近くにいるのは察しがつくだろう?」
やはりそうだったのか。
まあ半分予想はしていた。
となれば次に向こうが言ってくることとして予想されるのは……
「ちょっとこっち来てもらえるかな」
やはりか。
「はい。そんで、どこですか」
今度は向こうが沈黙する。頼む、答えろ。
必死に表情には出さないようにしているが、
心臓はいつにも増してその鼓動を強め、
血管は緊張からくる収縮により汗を流す。
時間にしてわずか数秒であったことには疑いない。
しかし、その数秒はとてつもなく長く感じられた。
「探してみろ」
「え……?」
嘘だろ。それは予想していなかった。
「まあこちらから君たちの様子が手に取るかのようにわかるよ。所詮君たちは小人のようにこちらの掌で踊らされるのがオチだ」
挑発には乗ってやらない。
冷静さを欠いたほうがこういう時は負ける。
落ち着け、俺。
深呼吸して電話口に戻る。
「わかりました。必ず見つけて見せます」
冷静なトーンで冷静に言い放つ。
負けられんな、と改めて思う。
頼れるのは自分と、そばにいる翔だけだ。
負けるわけにはいかないんだ。
「がんばりなさい」
それだけ言い残し、電話は切れた。
「んで?どこにいるんだよジュンは?」
翔が興味津々、という表情で聞いてくる。
「言わなかった」
「はあ?」
「だけどそう遠くない」
「なんでわかるんだよそんなこと」
「向こうはこっちの居場所が直接見えてる。
そうでもなきゃあんな絶妙なタイミングで
揺さぶりはかけられるわけがない」
「なるほどな。じゃあここの周辺でほぼ間違いないわけか」
「だけど、逆に言えばそれしかわかってないんだよね今のところ……」
「なんかヒントらしいことは言わなかったのか?」
「いや、なかったと思う」
「まあこの辺ってわかっただけでも収穫だな、そうだろ?」
それもそうだ。全くどこまでポジティブなんだ、こいつは。日頃は能天気と思うが今回に限っては頼もしく見えるから不思議なもんだ。
10分後。
「どこだ……?」
わからない。そんなに遠いはずがないのに。
どうしてだ。どうして見つからない。
焦りが出てくる。
その時だった。
ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる
電話だ。またジュンの番号。
縋る思いで通話ボタンを押す。
「もしも……」
「クハハハハ!あーっはっはっはっは!!」
開口一番爆笑か。どこまで失礼な輩なんだ。
だんだん怒りがこみ上げてくる。
「いやーここからだと君たちのことが手に取るようにわかるよ、いやー愉快だ。
ふふふ、やはり所詮君たちは小人のようにこちらの掌で踊るのがオチなのさ」
さんざん嘲笑って挑発か。乗ってやるもんか。冷静でなくなったらその時点で負けだ。
つー。つー。つー。
切れていた。
くっそ……どこにいるんだ。悔しいけど、
全く予想がつかない。
翔も同じような気持ちでいるのだろう。
やはり、二人で太刀打ちしようなど、
無理だったのだろうか。
「所詮君たちは小人のようにこちらの掌で踊らされるのがオチだ」
あの声がフラッシュバックしてくる。
まさかあれがヒントだと言うのだろうか?
考えろ、俺。
もしあれがヒントならば………。
俺はともかくとして翔はそれなりにいい体格をしている。間違っても小人と彼を評する人は普通いないだろう。
その彼も「小人」と言う。
まさか………
全身を電流が駆け抜ける。繋がった。
「あれだ」
「どうした」
「あの廃ビルしかない」
「なんでわかった」
「ヒントを実はくれてたんだよ、あの野郎。
挑発と思ってお前には伝えてなかったんだ。
とにかくあそこだ。疑いない。あそこだよ」
「んじゃあさっさと行くぞ!!!」
場所はおそらく間違っていない。
待ってろよ、ジュン。
先刻の二羽の小鳥が仲間らしいもう一体を
見つけそばへと向かっていく。
太陽は相変わらず容赦無く照りつけていた。
ここまでよんで下さりありがとうございます。今後ともお付き合い頂ければ嬉しいです。




