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負けるわけにはいかないんだ  作者: RIVER
最初の事件
8/33

さあさあじゃんじゃん参ります〜

なんだったんだ………?

もはや訳がわからない。

水たまりだらけの公園の屋根のもと、

泰彦はまだ立ち上がることができなかった。

それもそうだろう。あれだけ壮絶な戦いだったのだから。空がだんだん白んで来る。

ああ、また朝が来た。

とりとめのないことを考えつつも、やはり

幸太の最後の言動が引っかかる。

「最後に、いい勝負ができた。これでもう、

心残りはもうないんだ……」

わけがわからない。考えたところで名案が浮かぶわけでもないのに。

あいつにはあいつの事情があるんだ。

そしておそらくそれは俺が考えうるよりも

遥かに複雑かつ難解なものであるのであろうことも想像に難くない。

それでも、気になるものは気になってしまう。無限ループだ。終わりなき迷路。出口どころか自分の居場所さえわからないし道さえも霧がかって目の前しかわからない。

五里霧中。まさしくそんな状態だ。

そういえば………先生も言ってたな。

あいつにも悩みがある、と。

内容を聞こうとしても「それは本人との約束で内容は言わないことになっている」としか

教えてくれなかったこと。

あいつ自身も、

「俺の悩みはそんなお気楽なもんじゃない」

とも言っていたじゃないか。どうして気づくことができなかったんだ。よく考えればすぐわかったろうに、考えることをしなかった。

どうしてだよ。どうして好奇心ばかり先走って深く考えることを怠ったんだよ、俺。

深い悔恨が泰彦の心を占める。

クロスカウンターや膝蹴りの痛みさえ忘れ

立ち上がり、咆哮し、慟哭する。

それは先刻の戦いで発した咆哮とは全く違う叫びだった。

日が登る中彼は虚空に向かって一人慟哭する……例え誰かいたところでどうして彼を慰めることができようか。

日が登る。

太陽は誰に対しても等しくその輝きを放ち暖かみと希望を与える。

水たまりの水があちこちでその輝きを映し

公園の中は眩いばかりの光で埋め尽くされる。そしてその中に立ち尽くしている少年と青年の狭間に身を置く男が一人。

雨を降らせていた暗雲はもはやはるか彼方へとさってしまいその影は望むらくもない。

泰彦は歩き出す。

泰彦の家と幸太の家は公園を挟んで正反対の向きにある。

泰彦は歩き続ける。

家へと……幸太と真逆の道を、彼は歩み出した。



「よぉ、泰彦。どーしたんだよぼけーっと

しやがって」

翔だ。彼には何が起こったか知る由もないとはいえ少しくらい空気を察して欲しいところだった。まあそれが彼の長所かつ短所でもある訳なのだが。

「いや……ちょっと、な…はは……」

なんでもないかのように振る舞う。

できていないのは自分でもはっきりとわかる位だ。

「ま、話したくないんなら別にいいんだけどさ。相談したくなったら言えよー」

ストレートな言葉が心にしみる。

不器用ながらもいい奴なのは確かだ。

「お前人の相談に乗ってる暇あんならノートでも作れよ全く…」

「ぐ、それを言われると…ま、まあ。それとこれは、な。つまりだ、別腹みたいなもんであってさ…」

先ほどの余裕さえ感じさせる口調はどこへやら。ついつい翔と話しているとペースに巻き込まれてしまう。元々巻き込まれやすいたちであることは自覚しているが。

「そーいやジュンは?今日いねぇな。なんでだ?」

ジュンは自他共に認める、いや本人はどう思っているか知らないがクラス内では満場一致の真面目な先生も頷く「優等生」である。

その彼が無断欠席とは珍しかった。

「わかんねぇ…まああいつもあいつでいろいろあんだろーけどさっ。なんか俺だけお気楽な感じで変な罪悪感感じちまうよ〜」

「実際翔はお気楽だっての」

「えーマジか。んじゃーナニ。もっとこー

シリアスな感じとか?例えば〜

くっ……僕はどうすればいいんだろうか……ああ、誰かこの悩めるうら若き青年に救いの手を差し伸べてくれないだろうか……とかなんとか言えばいいのか?」

「いや誰もそんなこと言ってないだろ」

「それもそうか」

「だいたい悩むことがない、ということを悩むとか本末転倒じゃね?」

「おー確かに!!んじゃ俺はこのまんまでいっか」

「そうなんだろ」

「お前もはやく最適解見つけろよ?」

何をいきなり言い出すんだ、こいつは。

「最適解、ってどういうことだよ。普通それを言うなら答えを見つけろ、とかそんな感じが普通だろ?」

「そうだよ?だからあえて最適解って言ったじゃないか」

「つまり?」

「絶対的な正解はないよねってこと。

何を選んだところで必ず後悔は伴うんだからだったらせめてできるだけ後悔しないですむ

ような選択した方がいいじゃない?

そーゆーことよ」

なるほど。

小鳥のさえずりが遠くから聞こえる。

おそらく中庭の木から聞こえているのだろう。それも一羽だけでなく複数はいそうだ。

珍しいことだな。それにしてもー。

こいつの意見にしては妙にしっくりくるな。

小鳥のさえずりとどっちがより希少か甲乙つけがたい。

「なるほどなぁ。にしてもお前どこでそんなレベルの高い思想を、いつの間に身につけてたんだよ?」

失礼とわかっていながらもつい気になる。

この好奇心の強さが数時間前にことごとく

裏目に出てしまったことなどはすっかり忘れて。

「えー?それは昔からだよ。お気楽とか言われるけどさ、どうせ生きるなら楽しく生きてたいって思うのは至極当然のことでしょ?」

ごもっともである。真似したい思うかどうかは全くの別問題だけれど。

そっか。それも一つの選択肢なんだよな。

その刹那。なんだか廊下が騒がしい。

教室に飛び込む一つの影。

酒田直美だ。日頃はおとなしくジュンといることが多い、同じクラスの女子だ。

にも関わらず今日は取り乱している。

そういえば彼女も今日無断欠席していた。

「ジュンが、ジュンが、ジュンが……」

彼女の声はとうとう掠れて最後は声になっていない。

「ジュンがどうした!?」

俺と翔の声がまたしてもハモる。今回は

本当に笑い事とはいかなそうだ。

「連れて………行かれた……」

もはや彼女の目は虚ろで光がない。

「いつそれがわかった?どこに、またはどっちに連れて行かれたかわかるか?それからどんな奴に連れて行かれたんだ?」

「学校の…最寄り駅で……学校の…反対側の方に……何処へかは……わからない……

助けて……ジュンを……たすけ…てぇ…」

崩れ落ちる。クラスの女子が悲鳴を上げる。

ざわめく教室の中、二人は妙に冷静だった。

「どうする?」

「どうするって言ってもなあ。行くしかないだろ。先生とてどこにいるかわかったもんじゃないしな」

泰彦達が通う高校にはこれといった職員室は存在しない。故に、先生がどこにいるかというのは常にわからないのだ。そのせいで授業連絡が滞り面倒なのはまた別の話だ。

「んじゃ………いくか。えーと。

みんな!俺たちはちょっと行く。先生が来たら伝えといてくれや。酒田の介抱も含めて、頼んだぞ」

いいおくべきことは言った。

それじゃあ。

「いくか」

どちらからともなく駆け出した。

教室のざわめきと呼応するかのように、

中庭の小鳥たちも、空へと飛び立った。

さあ、またまた事件の予感。ジュンこと稲本純一に何があったのか。彼らはジュンを見つけ出せるのか?次回を楽しみにして頂けたら筆者として大変嬉しい限りです。

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