正念場
今回はタイトル通り!
県大会出場の残り二枠を争う三人のバトルです
最初は西田視点で入ります
辛い戦いになる、ってこと。
そんなことはわかってたことだし、言い訳には全くならない。
西田武は独白する。
いま西田は零勝一敗。
次負けると予選突破が無くなる。
ここからは油断できない勝負が続く。
次の試合はとにかく勝たないといけない。
でも正直侮ってたところはある。
この間の全国大会初戦で叩きのめされた松永先輩がこの短期間でこんなに強くなるなんて
予想してもなかった。
この分だとその松永先輩と一緒に練習している吉野先輩や稲本先輩にもやられるかもしれない。
だけど。
たとえ学年が一つ下だからといって。
負けの言い訳には絶対にならない。
勝利への欲望が強い方が勝つ。
それが勝負の世界の掟だと僕は信じている。
さあ、いくぞ。
なんとしてでも、必ず勝つ。
主審のコールで吉野先輩と僕が中央に立つ。
試合開始だ。
開始直後から試合は動いた。
先に仕掛けたのは翔。
鋭い追い足で西田を瞬く間にコーナーに追い詰め、接近戦を仕掛けようとする。
しかし西田は慌てずにその長身を活かした
リーチの長いジャブとストレートで翔の猛攻を阻止。そのまま打ち込まれる翔のパンチを西田は腕、肘、手首を駆使して弾き出し、
その勢いのまま体を反転させて翔と入れ替わりコーナーから脱出。
反対に今度は翔がコーナーに詰められた形となった。
しかし西田は迂闊には打ちにでない。
翔のパンチ力を警戒している証だ。
そのまま両者が睨み合う。
まるで時が止まったかのように両者は構えを崩さないまま睨み合っていた。
ふー。流石のパンチ力ですね、吉野先輩。
あと僅かに反応が遅れていたら間違いなく
一本取られていたところでした。
それにしても……。先輩のパンチを受けた箇所が鈍く痺れています。
強いですね、でも俺も負けませんよ。
くーっ。仕留め損ねちまったか。
さっきまでジュンが相手だったせいか、
あまり守りが固そうには見えねーんだよな。
まあ楽勝ってとこだろ。
むしろ一年坊主相手にこの俺様が負けた暁にはおちおち夜も寝られねぇ。
ま、ぐちゃぐちゃ考えるのは俺様らしくない
し。パワーで押し切るだけだ。
負けてたまるかよ………。
両者が睨み合いを開始してから10秒経過。
ついに西田が動いた。
体を左右に揺らしつつ距離を詰め翔の顎めがけてジャブを放つ。
その瞬間、翔はそのジャブをかいくぐって
西田の懐に飛び込み右ストレート一閃。
西田にしてみれば一瞬にして視界から翔が消えたように感じただろう。
それだけ翔の読みと動きは冴えていた。
吉野翔、先制。1ー0。残り時間、1分35秒。
まだ時間があるとはいえ、精神的には翔が
かなり優位にたったと言える。
試合再開。
焦ったように西田が仕掛けたところを翔が
素早く迎撃。試合がストップされたがどちらにも一本は入らず。
中央に両者が戻り、仕切り直しだ。
再開した直後からまたしても西田が仕掛るが
焦りから決定的チャンスを作り出せない。
互いに上段を狙った右ストレートが空中で
激突する。
競り勝ったのは翔だった。
パワーで西田をねじ伏せ西田がよろけたところに追撃の左ストレート。
最後は劇的な幕切れだった。
試合終了。勝者、吉野翔。2ー0。
終了後、両者が握手する。
視線が重なる。
強かったです、先輩。
お前もまあまあよかったよ。ま、相手が悪すぎたようだけどな!
戦いを終えた両者の間にもはや言葉は必要無かった。
この時点で予選の結果は決まった。
残す試合は
泰彦vs翔 ジュンvs西田
の二試合だが、現在最下位の西田がジュンに
勝って一勝二敗で泰彦vs翔の敗者に勝率で並んだとしても、直接対決で泰彦と翔のどちらにも西田は負けているため、西田の順位は
最下位で確定。
つまり県大会出場権はジュン、泰彦、翔の
三人の手に渡る。
そのため残り二試合はいわゆる消化試合だ。
とはいえ。
翔は練習を含めて泰彦に勝った試しがなく、
西田も三連敗で終われる訳が無い。
消化試合とは言うものの、彼らの闘志が鈍る気配は全くないのだ。
泰彦vs翔
出場権獲得が決まったこともあり、両者とも
リラックスした雰囲気だが、どちらからも気の緩みは一切感じられない。
両者が対面し、静かに試合が始まった。
なんと試合は開始直後から膠着。
両者がフェイントを掛け合うばかりで踏み込んで仕掛ける気配がないのだ。
会場がわずかにざわついた。
ジュンは驚いていた。
泰彦が慎重に試合に入る。
それはわかる。
泰彦は翔と僕の成長を高く評価している。
僕はそんな褒められるほどの成長をしていないと思うけれど、翔の成長は確かにと頷かされるほどだ。
しかし。
あの、翔が、慎重に試合に入っている。
今までどんな奴が相手だろうと「俺様が勝つ!」と公言してはばからずに強気で振る舞い
試合でもその強気な姿勢のまま圧倒的パワーを武器に戦ってきた、翔が。
翔の左のガードはこころなしかいつもより
高い気がする。
これはものすごい試合になりそうだ、と
ジュンは予想していた。
開始から1分、全く手を出さない両者に対し
主審が一度試合を止め、仕切り直す。
試合再開だ。
両者がついに動き出す。
足をそろそろと伸ばしたり軽く踏み込んだり
ジャブを放ったり。
日頃そういった駆け引きをしない翔もそのような動きをしていた。
これも、彼をよく知る者にとっては驚くのに充分な理由だった。
残り30秒。
翔が乱打を仕掛ける。
しかし泰彦はそれに対し素早く回り込んで
翔の左脇腹に左フックを引っ掛けるように
して打つ。
翔は勢い余ってつんのめるように転けた。
残り20秒余り。泰彦、先制。1ー0。
逆転するには残り時間が少なすぎる。
しかし、そこで諦める翔ではなかった。
くそっ………やられちまった。
こっちが勝ちに行こうとしているのを悟られまいとしてたんだけどな。
やっぱし、読まれてたのか。
だったら泰彦、わかってるよな。
俺様がこのまま引き下がるわけがないって
ことを、だ。
翔は大きく息をする。
そして、主審の合図を待つ。
試合再開。残り20秒と少し。
翔が猛然と泰彦に向かっていく。
ワンツー、右のダブル、泰彦の右フックを
はたき落として左ストレート、しかし泰彦はスウェーバックでこれをかわしカウンターを
打ってくる。
翔はやむなく下がってこれをかわした。
残り12秒。
下がってからほとんど間をおかずにまた接近する。
しかし泰彦のジャブで出鼻をくじかれ、なかなか懐に飛び込めない。
残り7秒。
こうなりゃ一か八かだ。
左のトリプルで注意を引いたところに死角から右のロングフック。
泰彦がダッキングしたところに蹴りを放つ。
しかし泰彦はその蹴りを左腕で受け切った。
試合終了のブザーがなる。
勝者、松永泰彦。1ー0。
時間切れによる決着とは言え、最後の打ち合いは見るものを興奮させる内容だった。
両者はともに晴れ晴れとした表情で、リングを降りた。
すごかったな………。二人とも。
一年後、僕はあれだけの勝負ができるだろうか。いや、して見せる。
そのためにも…次の試合、必ず勝つ。
三連敗で終わるなんて出来ない。
予選突破が消滅したからと言って戦いを放棄する理由になんか1ミリもならない。
さあ行くぞ。
西田武は決意新たに立ち上がり、最後の勝負に向かっていった。
出場権の行方は確定したものの西田の勝負はまだまだ終わらない!
白熱する道場内予選の最終章を楽しんでいただければ幸いです。




