戦慄
決勝戦、です
おい、ジュン。起きろよ。
遠くから声が聞こえる。
翔………?
声にならない。
意識がなんとなくぼんやりとしている。
おい、ジュン。決勝そろそろ終わるぞ。
泰彦が圧倒的に押してる。泰彦が勝つぞ、
多分。
翔だ。間違いない。だけど、声が……
「おいっ!起きろっての!!!」
急に意識がクリアになった。
「あ………」
保健室の中、ベッドの上。
目と鼻の先に翔の顔があった。
ああ、そうだった。大野茂にノックアウトされたんだった。
「よっし、起きたな。今最終ラウンド。
1ラウンドも2ラウンドも泰彦が押しまくっててめっちゃ有利な展開。KOさえされなきゃもう優勝ははっきりしてるぜ」
泰彦………流石だな。
自分を完膚無きまでに叩きのめした大野茂。
その大野茂を相手に一方的に押しまくるなんて、流石としか言いようがない。
「そっか……」
「ん?どしたんだよ?嬉しくないのか?」
「いや………やっぱり、泰彦はすごいんだな、って思ってさ」
「なんかよくわかんねぇけど、早く行くぞ。
マジでそろそろ試合終わるぜ」
「うん、そうだね」
彼らは泰彦を祝福せんとばかりに意気揚々と歩き出し、すぐに駆け出した。
しかし。
彼らを待ち受けていたのは歓喜では無かった。そこにあったのは、信じ難い結末だった。
「は…………?」
「えっ…………」
二人は絶句した。
リングの上には勝ち誇るでも見下すでもなく、ただただ無表情のまま立ち尽くす大野茂。
そして、倒れてピクリとさえ動かない松永泰彦の姿。
そして、時計はきっかり3ラウンド目終了10秒前で停止している。
結果は一目瞭然だった。
しかし翔と純一は来たばかりだったため状況を全く飲み込めない。
特に翔は混乱していた。
何が起こったかは目の前に突きつけられている、けど、そんな、まさか……
信じられない、いや信じたくなかった。
「翔………どういうこと………これは……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐジュン。
「いや…それは俺のセリフだっての……」
翔も唖然としていた。
ジュンは直美の姿を視界に捉えた。
「あ!純一君!怪我は大丈夫?」
「いや…僕よりも、泰彦は何があったの?」
直美は首を振った。
「私は素人だからわからないよ……だけど、
松永君はかなり押してたように見えた、よ?
なのに最後の最後に松永君がいきなり倒れて………。何が何だかわかんないよ……」
素人目線でも泰彦は圧倒的に押していた、ということらしい。
大野茂の鷹のように鋭く光のない目が倒れている泰彦をただただ見下ろしている現実だけが彼らの目の前にあった。
しばらくの後、泰彦は目を覚ました。
彼の一言目は、謝罪の言葉だった。
「ごめん、ジュン……俺も、やられちまったよ……カッコ悪りぃな…」
「謝ることじゃないよ、泰彦……でも一体、
何があったの……?」
「一体、何があったの……?」
ジュンの疑問は至極真っ当なものだ。
そりゃそうだろう。
押しに押してた試合だ、と思っていた。
パンチも蹴りも完璧なまでにキマり、結局終盤までもつれ込んでしまったとはいえ、
ポイントではどうみても自分が優位。
こちらもそれなりにダメージを負っていたが
それとてまだクリーンヒット一発くらいなら
耐えられるほどのものだった。
そしてあの時ふと見た時計は残り時間が十秒と少しであることを示していた。
勝てると思いながらも油断する気や逃げ切るという気持ちは全くなかった。
正真正銘の勝利を勝ち取ってやると意気込んで、最後のダメ押しを狙って放った一撃。
俺の記憶はその一撃がかわされて、その直後に凄まじい衝撃を喰らったところで途切れている。
あんな衝撃、幸太相手でも受けたことはなかった。
正直なところ、頭の整理が全く出来ていないのだ。
「泰彦?きーてんのかお前?」
しびれを切らしたか、苛立った様な口調で翔が問いかけてきた。
「ごめん……俺も全く頭が整理できてなくてさ……俺もよくわかってないんだ……」
「そっか。ならしょうがない。んじゃあ、
整理できてるとこや覚えてるとこだけ話してくれや。なんせ俺たち、保健室で寝てたせいで起きた頃にはお前がリングの上で寝てたからさぁ」
リングの上で寝てた、か。泰彦は苦笑し、
「うん、わかったよ」
ぽつりぽつりと話し始めた。
一体決勝で何があったのか?
次回にご期待ください。
感想、アドバイスなどあったらお願いします




