初期微動
さあ、今回の注目株、純一の登場ですよ〜
二回戦目が始まった。
泰彦がトップバッターだ。
俺の二回戦の相手は変則的なスピードアタッカー。左右に揺さぶって俺を翻弄しようとする。
相手の左から放たれるパンチはジャブとフックの中間のようなパンチ。
ジャブよりは遅くフックより早い。
フックより弱くジャブより強い。
右ストレートは比較的しっかりしており、
まともに喰らえば結構なダメージを受けそうだ。
1ラウンド目は守りに徹して相手の観察をし続けた。
さて、そろそろ仕留めにかかるか。
2ラウンド目の開始を告げる合図が出る。
俺は一陣の旋風となって相手に襲いかかる。
相手は反応することさえ叶わず俺の侵入を
許してしまった。
ドスッ………。
飛び込んでのボディーアッパーで相手を倒し
相手は戦意喪失。
一回戦に続いてまたしてもワンパン決着を
演じて見せた。
強えなぁ………。
泰彦の試合を見て翔は嘆息する。
このまま互いに勝ち上がれば準決勝であいつと戦うことになるのだ。
だいたいだなーー、翔はぼやく。
あの日の記憶。
泰彦と俺の二人で廃ビルに乗り込んだあの日。
泰彦と俺が配下を三人ずつ倒して、俺が大将首を狙って動いたあの瞬間。
翔の記憶はそこで途切れている。
一撃であいつに倒されたからだ。
確かにあの時は鍛えが足りなかったことはわかっている。
だけど、もともと頑丈さには自信があった。
そんな俺を一撃で沈めたあの男。
泰彦も結局あいつにやられちまったみたいだけど、泰彦はしばらくの間善戦してたみたいだし。
今はあの時と違うとはいえ、俺はまだ泰彦の背中を遠くから追いかけることしか、叶わない。
そんなあいつとの戦いが刻一刻と迫り来る。
はー。少しくらい落ち込んでもバチは当たらねーだろ。
取り止めもなくそんな事を考えていた。
泰彦が翔のことを既に十分認めていることなど露知らず。
「おい、翔!翔!」
ん、泰彦か。なんだどうした。
「おい!!!」
ぼやぼやした頭に泰彦の鉄拳を喰らう。
「うわっ……なんだってんだよー」
泰彦が鬼気迫る表情をしている。
「大馬鹿野郎、はやく行けって。お前の試合もう始まるぞ?!」
え……もうそんなに経ってたのかよ。
「あーわりぃわりぃ。すぐ倒してくるからよ、勘弁してくれや」
「わかったならはよいけって」
さあ、ぐだぐだ考える前に倒すか。
翔はまたしても必殺の右ストレートでワンパン決着をしてみせた。
相手にしてみればあの長身リーチだ。
迂闊に近づけない。
かといって逃げに徹しようとしても翔の鋭い追い足が逃げることを許さない。
逃げてもすぐに捕まり、あの防ぎようのない右ストレートが迫り来る。
手のつけようがない。
観客の下馬評としては優勝 吉野翔
準決勝の対泰彦戦が最大の山場だろうと予想されていた。
そんな観客の思いを知ってか知らずか、翔は泰然自若、悠々とした態度でいた。
「おう、試合に間に合ったみたいだな」
全く心配させやがって。
「わりーわりー。反省してますって」
翔が頭をかきながら謝罪する。
まあ謝罪しているとも思えないがまあ、いいとしてやるか。
「それはそうともうすぐジュンの試合だな」
「ジュンの守りが簡単に破られるとも思えないけどな」
「いえてるーそれ。ホント固いんだから」
「あ、ジュンだ。よー、ジュン。試合を前にして気分はどーよ」
無神経にも翔が問いかける。
「うーん。僕は二人みたいなパンチ力ないからなぁ……ちょっと自信ない」
やれやれ。ジュンの奴、自分の強みを理解してない。
「大丈夫だ。ジュンの守りは難攻不落。
スタミナもあるし、負ける要素が見当たらない」
自信満々に言ってやる。試合前には勇気付けてやるのが一番だと個人的に思っている。
「そっか……ありがと」
そう言ってジュンは歩いていく。
ジュンの試合が始まった。
相手は典型的なファイター。
力任せのパンチで一回戦は戦っていた印象がある。
ジュンは相手のパンチを全てガードし、隙を見計らってはジャブを打つ。
いつものジュンのスタイルだ。
決して派手なKOは無いけれど、盤石な試合運びでポイントを稼ぐ。
相手の蹴りも全て見切ってサイドに回り込み鋭いジャブを浴びせ続ける。
観客からしてみれば大多数の試合と同様、
決定打を欠いた単調な試合に見える。
だがしかし泰彦はわかっていた。
この試合、ジュンの圧倒的有利。
おそらく相手はまだ一発もジュンに有効打を当てられていないはずだ。
試合はジュンのペースで進み、判定にもつれ込んだ。
審判がポイントを宣告する。
「ただいまの試合………稲本純一選手の勝ち。有効打数は23ー0!」
会場が驚きを隠せない、と言った表情を見せている。
1ラウンド当たり試合時間は2分。
それを3ラウンド。
六分間の戦いの中でとうとうジュンは相手の有効打を一発も受けることなく試合を終わらせて見せたのだ。
そのまま二回戦が終了し、午前中の日程が
無事消化された。
当初80人いた参加者は32人にまで絞られた。
ここからはここまでとは違う。
特にジュンの居るあたりは激戦区で、ジュンが勝ち上がるのは難しいだろうと観客には予想されていた。
が、ジュンの試合を見て観客の考えが変わった。変えさせたのは、ジュンだ。
いかなる攻撃をも全てブロック、カット、
ガード、バックステップを駆使して防ぐ。
地味だが相手としては焦りを覚えさせられる
のは請け合いだ。
まさに鉄壁。ジュンと翔、矛と盾のどちらがトーナメントを制するのかーー。
観客の注目はそこにあった。
俺としては自分が準決勝で負けることを前提にされて苛立つ反面、二人の成長を嬉しく思う気持ちがないまぜになっている。
おそらく次の試合も三人とも余裕で通過できると俺は見ている。
ベスト16。本番とまではいかないが、それなりに相手のレベルも上がってくるだろう。
だが、その辺はまだまだそれなりに余力を残して突破していけるだろう。
本当に問題なのはベスト4入りしてからだ。
準決勝で翔、決勝でジュンとの連戦が待っているのだから。
この最後の連戦はかなり厳しい。
トレーニングの時もこの二人と連続で戦うとなると俺といえども厳しいものがある。
とはいえ練習と試合は全くの似て非なる物。
それに加えてジュンは激戦区を勝ち進んでくる訳だ。
消耗などしてはいないだろうが、隙の一つ二つくらいは生まれるだろう。
そこを突けば勝算は大いにある。
油断などは微塵もない。
昼はそんなに食べない。あまり食べ過ぎると試合で動けなくなってしまう。
もし翔とジュンがそこまで伸びていなかったらこんなことはしなかったな、と思う。
二人の成長は俺が一番わかっている。
昼休みが終わり、午後の戦いがはじまった。
三回戦の始まりだ。
泰彦は安定の立ち回りで難なく勝利。
翔は相変わらずの破壊力を見せつけ、またしてもワンパン決着。
ジュンも負けじと零封勝ちを収めた。
四回戦も全く同じ、まるでビデオの再生を見ているかのように三人は見事な試合運びで勝ち上がることに成功した。
しかし二人とも俺の予想を超える善戦だな。泰彦は心の中で呟いた。
三人とも難なく勝つだろう、と確かに予想はしていた。それは認める。
だけど。まさか翔のワンパン記録とジュンの零封記録がここまで続くとは予想外だった。
こら油断してなくとも下手すりゃ負けるぞ。
俺は危機感を感じていた。
俺の予測が違っていなければ、二人とも試合を経るごとに成長している気がする。
俺はさらに警戒心を強めていた。
ふうん。あの三人、やるなぁ。
大野茂は意外な強敵達の出現に心を踊らせていた。
大野茂、高校二年生。
彼はボクシング歴が長く、そのため蹴り技は使えないものの、圧倒的パンチ力を武器に勝ち上がってきた。
順当に準々決勝を勝ち上がった場合、
準決勝は
松永泰彦vs吉野翔
大野茂vs稲本純一
のカードになる。
これは彼らも、観客も、そして準々決勝で
彼らと対戦する者たちさえ準決勝はこの組み合わせになるのだろう、と予想していた。
観客も試合を見続けるうちに目が肥えて、
わずかではあるものの四人の強さに気が付きつつあった。
優勝予想は全くわからない。
それどころか誰が四位になるのかさえも予想がつかない状態になってしまった。
四人とも負ける気は毛頭ない。
準々決勝で彼らと対戦する者達の憂鬱を他所に、準々決勝が始まった。
彗星のごとく現れた、大野茂。
彼の強さはどれほどのものなのか?
感想、アドバイスなどあったらお願いします




