強く
純一の成長するシーンです
ガンガンガン!ガンガンガン!
遠くから鉄の扉を叩く音がする。
ガンガンガン!ガンガンガン!
音は止む気配がない。
「稲本純一君!いるのか?いたら返事しなさい!」ガンガンガン!ガンガンガン!
どうやらあいつらではないようだ。
返事をしても問題なさそうだ。
「はい!ここにいます!」
「よし、扉から離れられるだけ離れてもう少し待っていなさい」
ドカン!ドカン!ドカン!
どうやら扉を壊そうとしているらしい。
ドガ……ドォォオン!!
扉がしばらくの後破れ、警官が入ってきた。
「稲本純一君、だね?」
「はい」
「よーし、これで全員保護完了!」
警官が向こうに向かって叫ぶ。
全員?他に誰がいるんだろうか?
あの男達なら保護というより「確保」といった表現の方がふさわしかろう。
「やれやれ、君達三人ともよほど酷くやられたようだね。我々が到着した時は三人とも
気絶して倒れていたんだよ」
「え……っと……あとの二人は誰かわかりますか?」
「松永泰彦と吉野翔。二人とも気絶させられてはいたけれどそんなに深刻な怪我はしていなかった」
泰彦……翔……。おそらく二人とも直美の
訴えを聞いていても立ってもいられずここまでやってきてくれたのだろう。
「それと…あの男達は?」
「これまた全員気絶していた。恐らくあの二人が戦って共倒れになったんじゃないかな。
まあ詳しい話を聞かないことにはわからないけどね」
戦って……倒したのか……。
自分も戦いはした。
だけれど、倒すことは敵わなかった。
相手のスピードに翻弄されて倒すどころか一撃食らわせることさえもできずにやられてしまった。
情けない。
悔しい。
悔しい………っ!!
その後のことはよく覚えていない。
確か警察に連れて行かれて詳しく事情聴取された、気がする。
そしてそのあと三人で帰った。
その時、自分は二人があいつらと戦って共倒れになったのだ、とばかり思っていた。
しかし。
「いやーやばかったな今日は。
結局お前が最後倒したんだろ?なぁ泰彦」
「それが………さ。俺もやられちゃって」
二人の会話を聞いて純一は戦慄した。
「え?じゃあ一体誰があいつ倒したの」
思わず口に出してしまう。
「そこなんだよな……問題は」
泰彦も考え込むような顔をする。
「ま、ラッキーラッキー。みんな無事でよかったじゃないの」
しかし翔の言葉でこの話題は終わりになってしまった。
そして、僕たちは別れてそれぞれの家に帰った。
それがあの日の出来事だった。
その日の夜、僕は全く眠れなかった。
あいつらは倒した。
最後には倒されてしまったとはいえ、
あいつらは大人数を相手にほぼ互角に戦ったのだ。
それにひきかえ、僕はどうだったろうか。
何も出来ずに倒されてしまったじゃないか。
強くなりたい……
生まれて初めて抱いたこの感情。
向上心、ハングリー精神。
自分とは一生縁がないだろう、といままでは思っていた、だけれど。
強くならなきゃ、直美を守れない……。
直美だけじゃない。泰彦も翔も、みんなも…………。
そんな事を思う内に夜は明け、また朝がやってきた。
朝の光が純一の部屋に差し込む。
その光が純一にあたる。
その光が純一に力と勇気を与えた。
「よし………っ」
決意は固めた。
もう振り返ったりはしない。
強くなりたい。その思いに偽りは何一つないのだから。
強くなるんだ。
純一は飛び起きて家を飛び出し、
いつもの時間のいつもの電車に乗り込む。
そしていつものように直美と喋りながら
学校へと向かう。
一見すればあの事件の前と何も変わらない、
平凡な日々がまた訪れたようにしか見えないだろう。
だけれど、純一の内面には大きな変化ぎ起きていた。
学校に着く。
「おはよー」「おう」「おーっす」
いつものように挨拶し、泰彦達のところに
行く。
もう、後悔も後戻りも、しない。
「あのさ、泰彦………」
「ん?どうした?」
「僕、強くなりたいんだ!泰彦!!僕を………
僕を強くして……!!」
泰彦はあっけに取られたような表情を浮かべながら純一を見ていた。
楽しんでいただけたら幸いです




