再
この区切りでのラスボス戦始まるよ〜
仕掛ける。
手加減はしないと言った。問題あるまい。
戦車のごとく前進し機関車の車軸のように
休むことなく、間断なくパンチを打ち込む。
向こうもガードはしてくるが、泰彦の連射スピードには流石に対応しきれない。徐々に
パンチが決まり始める。
ジャブ、ストレート、フック、前蹴り、足払いでフェイクをかけてから左フック。
右のボディアッパーから左フックを脇腹に叩き込む。一旦下がってからその反動を使って地面を蹴りまた相手に肉薄する。
上下左右、緩急自在にパンチを打ち込む。
相手の対応は完全に後手に回っている。
蹴りはあまり出さずに今回はパンチ中心に
リズムを作り組み立てる。
迂闊に蹴りを出して外した時のリスクが大きすぎる。
それにしても。
いつになったら倒れるんだ、こいつ。
パンチは粗方決まっている。上下左右に打ち分けているとはいえ基本的には一撃必殺の頭部よりも、ボディーを狙って相手の体力を確実に削って行く作戦をとった。
だから時間がかかるのは承知している。
だけれど。
おかしい。
倒れる気配がしない。いや、正直にいうと
疲れたそぶりさえも相手は見せない。
嘘だろ。なんでだよ。
「まるで、風のようだな……君は」
いきなり何を言い出すんだ、こいつは。
「だが……我は岩だ。岩と風。ぶつかりあえばどちらが砕け散るかは、自明だろう?」
自分から岩を自称しちゃうのかよ……
半ば呆れつつも打ち込み続ける。
上下にワンツーを打ち分ける。
さらに踏み込み左フックを狙い、
そこから体をひねってアッパーを放つ。
ことごとく決まる。
拳が肉をうち相手の骨が悲鳴を上げているのがわかる。効いているはずなのに。
凄まじい精神力の持ち主であることに疑いはないだろう。
右アッパーを放った態勢から右足を外側に放り出しその勢いを殺さずにすれ違いざまの
左フック。
今日は調子がいい。いつもは腰砕けになってしまうのだが。
左フックが相手の脇腹をかする。
相手によっては打ち込むよりもかすらせたほうが効く可能性がある。その可能性を探ろうとしていた。
左フックをかすらせ、そのまま駆け抜け一度相手と正対する。
これでもダメなのか。
「いいパンチを持っているな、その体躯ながらもそれだけの威力を誇る拳。かなりトレーニングを積んだことがよくわかる」
「ダメなんだよ……それじゃダメなんだ…」もはや声さえも掠れる。
「ほほう…それだけのものを持っていながら、これ以上貴様は何を望む……?」
「お前を倒せなきゃ…何の意味もないんだよ…何が……何でも……負けるわけにはいかねぇから……それができなきゃ………どうしようもねぇっていって………んだよ………」
「大した心意気だな。だが…現実を見ろ。
状況は刻一刻と貴様にとって不利な状況に
傾きつつある。この状況を打開する策があるとでもいうつもりか……?」
「………一つだけ、あるかもしれない」
「ほほう」
風がまた吹き荒れ始める。空が先ほどと打って変わって暗雲が垂れ込め始めた。
カーテンが揺れる。木々のざわめきが聞こえる。
「アアアアアアァァァアア!!!!」
泰彦は叫ぶ。この声よ、届け。
届いてくれ。
どこに届いて欲しいのかわからなかった。
誰に届けたいのかさえわからなかった。
「グガァァア!!」
まるで獣のように咆哮し、一気に肉薄する。
先程と比べても格段にスピードが増したことが一目瞭然だ。
先ほどでもスピード威力ともに申し分ない攻撃をしかけていた。しかし、それでは足りないのだ。
リミッターを外す。
乱撃を叩き込む。効いたようだ。
まだだ、まだ終わらない。
その時。
岩が動き出した。
ど ん っ
鈍く、重い一撃が入った。左ジャブだ。
なのに、このパワーはなんなんだ。
カウンターとはいえ完全に接近戦になってからだ。出会い頭なら稀に左ジャブでもカウンターでダウンすることがあるが、このような状況ではまずありえない。
「いいゲームだったよ、クハハハハ!」
あかん。もうあかん。
もう一度あの凶悪なジャブが飛んでくる。
クロスカウンターを狙う。しかし無情にも
それはかわされ、泰彦は床へくずれおちた。
暗雲が垂れ込め、風は止み、雨が降り始めた。
廃ビルの入り口に佇む男一人。
長身で線は細く、見える。
しかしその身体には鋼鉄のごとき筋肉が秘められている。
「おい」
「誰だてめぇは」
深みのあるバスの声に動揺が混じる。
「どうでもいいだろ、そんなこと。
それより、僕とゲームの続きでもしようって
言ってるんだよ」
「お前が……だと……?」
「そう。さあこいよ。いいよこいよ。
それともなんだ、ビビってるのか?」
謎の男は挑発を続ける。
「ふむ……ならば参ろう」
バスの声に落ち着きが段々戻ってくる。
雨が強まる気配がする。雨粒が屋根を容赦無く叩く音がきこえる。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、二人の位置は入れ替わっていた。
ものすごいスピードである。
「やりおるな……」
「ふん。手加減してやっただけだ」
「なに……?!」
また二人の影が交錯する。
二人が離れた時、立っていたのは一人だった。男は一人呟く。
「あーあーちょーっとやりすぎちゃったかなー?まーいっかー」
その声に反応するかのように泰彦がぴくりと
動く。だが、目覚める気配はしない。
「強くなれよ、泰彦」
そして、その男、大林幸太は立ち去った。
空はまた明るくなってきていた。
さあ突然現れた幸太。
彼の真意、目的とは。
取り残された翔、バス野郎、騎士団、囚われのジュン、そして泰彦。
彼らはどんな反応を示すのか。
次回にご期待ください




