敵
長い方がいいのかな?
短い方がいいのかな?
うーんわからない。
それでは参ります。
とある廃ビルのなか。若くいかつい数人の男達の中に飛び込む二つの影。
松永泰彦と吉野翔だ。
まさに舞うように打ち、打ちながら舞う。
男達は彼らを捉えることができない。
いくぜ?
ああ、わかってるって。
びびるんじゃねーぞ?
おまえこそな。
言葉はいらない。目線だけで会話は出来る。
泰彦はまず一人に狙いをつけた。
ジャブから一気に間合いを詰めて間髪いれずに左フック。
怯んだところにボディーアッパーを入れる。
体を起こさせたところで顎を撃ち抜く。
相手がこちらを侮っていたのが幸いし、
はやくも一人討ち取ることに成功した。
ここからはそうもいかないはずだ。
二人目に狙いをつける。
かなりリーチが長い相手だ。
距離を詰める。
ジャブを打ってくる。
攻撃というよりは前進を止めるジャブだ。
しかしあまりスピードはなさそうだ。
リーチが長くても追い足が鈍かったりジャブに鋭さが無ければ怖いところはない。
もう一度間合いを詰める。
ジャブを打ってくる。
ヘッドスリップでかわして飛び込む。
体を斜めに倒しつつ右フックを叩き込む。
相手はゆっくりと崩れ落ちる。
三人目を狙いに行く。
もともと騎士団を自称するだけあって、
そんなに大人数ではない。とはいえ体格差などを考えれば圧倒的な数的不利である。
三人目を狙う。いくぞ。
「泰彦、後ろだ!」
ふたりがかりで来ていたのだ。
辛うじてかわした。
危ない危ない。サンキュー、翔。
翔も高校生にしては桁外れのパワーを持つ。
翔もすでに二人倒し、残る騎士団は二人だけになった。いけるな、と感じる。
残る二人は流石に慎重な性格と見えて、前の二人のような隙や甘さは微塵も伺わせない。
慎重に二人の両側に回り込む。
泰彦と翔は示し合わせたかのように背中合わせになる。
黒いカーテンが風でめくられ、
僅かに日の光が入ってくる。
それと同時に二人とも接近してきた。
翔が飛び出す気配がする。
まだだ、まだはやい。
じっくりと構えて相手を見る。
いきなり右フックだ。にも関わらずかなりの
ノビがあり、危うくかわした。
もう一回右フック。
鋭い。はやい。
大概いきなりの右フックは粗さがどうしてもあるはずなのに、ここまでノビるとは。
よく相手を観察する。
右手をわずかに引くのが見える。きた。
またしても右フックだ。
踏み込みがかなり鋭い。見えたぞ。
これだけ空振りさせたにも関わらず彼の闘志とスタミナは全く衰えを見せない。
また右手をわずかに引き、踏み込んでくる。
「ここだあぁっっ!!!」
叫びながら下がらずに逆に前に出る。
右足で相手の左足を払い、相手を内股にさせる。それだけでオッケーだ。あとはそのまま右フックにさえ気をつけていれば。
相手が崩れ落ちる。
空中でバランスを崩し、着地した時の自重で捻挫したのだ。
相手の踏み込みが異様に鋭かったのとパンチの前の予備動作があったからこそできた。
後ろでぐっ……という呻き声と人が崩れ落ちる音がする。
「ナイス、翔」
「お前こそ」
「これで三人ずつ討ち取ったわけだな」
「いや、違うな」
「え?」
「四人目を今から討ち取ってやんよ!!
オラオラオラァァァあ!!!」
まずい。あのバス野郎のところへと翔が突撃していく。
ダメだ、あいつだけは、ダメだ。
なぜだかわからない。でも、わかる。
「やめろぉぉお!!!!」
思わず叫んだ。だが翔は止まらない。
「四人目、もらったぁぁあ!」
その刹那。
ドサッ
崩れ落ちる翔。
「翔!」
まさか一撃とは。翔がやられるのは予想していたとはいえ、まさに戦慄的なワンパンチKO。
「やれやれ、我が騎士団を壊滅させたのだから少しは楽しみにしていたんだがな……
まあ、もとより彼にはそんなに期待はしていなかったがね」
バス野郎が一人呟く。
風はやみ、めくれていたカーテンも元に戻り、また薄暗く嫌に寒い部屋になっていた。
「正直我としては君の方が気になっていたのだよ。やっと邪魔者なし、男二人水入らずで話ができる」
なんなんだ。そこまでして話したいことって、いったいなんだというんだ。
ここに来て始めて恐怖を感じる。
不良のもつ見せかけの恐怖では、ない。
肉食動物の持つ、野生の恐怖だ。
「君には驚かされることが本当に多い」
そんなご大層な人間であるつもりはないが。
「正直に言うとかなり侮っていたよ。それは認めよう。何しろ我がヒントに中々気がつかなかったし、我が揺さぶりに対しても面白いように動揺してくれたしね」
悔しいが、その通りだ。
相手はこちらの数枚上を行った。
「でも、俺だってここまで辿り着いたぞ」
「その通りだ。これまた気分を害されるかもしれないが、非力なようでスピード、パンチ力に優れていて、それでいながら相手をよく観察するいい目を持っている」
相手を観察するのは得意だ。
まあ勝てるかどうかは別問題としても。
「いやはや、本当に。驚かされるよ。
クハハハハ!しかし……我に打ち勝つ策は、あるのかな?それとも我に恐れを成したか」
正直、恐れているのは自覚している。
当たり前だ。翔を一撃で倒す力だ。並の者にできる芸当ではない。
「正直、怖い。倒されるのは嫌だしね」
「正直なのはいいことだ」
「で、ジュンはどこだ」
「まあそう急くことなかれ。そなたが我を打ち倒した暁にはきちんと教えてやろうではないか」
「ふざけんな」
「ふざけてなどいないつもりだよ」
「俺はお前を倒す………っ」
「豪気なことだ」
「倒したら聞けねぇだろっつってんだろ」
「なるほど、それも一理ある。よし、ではお教えしよう。彼はこの扉の向こうにいる。
縛り上げてこそあるが、他に人はいない。
つまり、私が最後の番人と言えよう。
どうだ、最後にして最強の相手。相手にとって不足はあるまい」
「上等だ」
「君とは話したいことがまだ山ほどある…」
「俺ははやくジュンを取り返す」
「ならば戦いながら話すとでもしよう」
「余裕かましやがって……そういうことなら手加減は無しだぞ」
「こちらの科白だよ、それは」
もはや言葉はいらない。
いくぞ。待ってろよ、ジュン。
泰彦は地面を蹴り、最後の番人の元へ進んで行った。
さあ、いよいよこの場面ではラスボスとも言える相手の元へ辿り着いた泰彦。
相手はカウンターとはいえ翔をワンパンチKOする実力の持ち主。さあ戦いの行方はいかに。
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