馬車での世間話
「そうか、嬢ちゃんも大変だったろう。」
ガイさんが俺の話を聞いてそうつぶやく。今は拾ってもらった日の夜で山から林に出てすぐの街道沿いで火をおこしている。夕食を終え、後は寝るだけだ。新人の冒険者と商人のおじさんは昼間の出来事で疲れたらしく、既に休んでいる。
「いえ、この世の中、たまにはああいうこともあるでしょう。」
モンスターが出るのだ。この世界のことはよく知らないがあんなことが起きるのは、そう少なくないだろう。
「まあ、人死にはたまには出るが、嬢ちゃんの年ではそう出会うことではねぇ。だが嬢ちゃんは強いな。」
「まあ旅をしていたらすこしは強くなれるでしょう。」
このように適当にこたえていた。すると、
「しかし、嬢ちゃんが腰につけているのはなんだ?短剣はわかるが、もうひとつの方は、ここいらじゃみねえな。」
俺の腰のベルトのグロック26に目をつけてきた。かくすわけにもいかず、俺は答える。
「旅の途中で手に入れたものです。銃とよばれるもので、遠くから攻撃するための道具です。」
どうせ知らないと思って、素直に答えた俺だった。しかし、
「ジュウ?銃っていやぁ、嬢ちゃん、帝国にも行ったのかい?すげえなぁ。」
と予想外の反応を返してきた。思わず聞き返す。
「帝国?」
「おや、ちがったか?てっきりフロムアース帝国だと思ったんだが?」
「っ⁉︎い、いえ、その帝国です。すいません、すこしききそびれちゃって。」
おいおい、今この人なんて言った⁉︎フロムアース帝国⁉︎フロムアース、アース……英語に訳すと「地球から」ってなるぞ!
俺は必死に驚きを隠しながら尋ねる。
「あの、実は私ーー俺、とか言えないーーフロムアース帝国に行ったことはあっても、帝国自体のことはあまり知らなくて、よければ建国について教えてくれませんか?」
「お?そうか、面と向かって聞くには恥ずかしいしな。知らなかったか。知ろうとするとは小さいのに感心だ。よし!教えてやろう。」
新人の冒険者相手に教官みたいなことをしているし、ガイさんは教えるのが楽しいのだろうか。すこし嬉しそうに教えてくれた。
「まあ、俺もそんなに知ってるわけじゃねえけどな。フロムアース帝国は、結構昔に魔王を討伐するために異世界から召喚された勇者ってのが作った国らしい。その勇者が残した知識のひとつが銃だな。他にも結構あるが、実現したのは銃を入れても少ないらしい。なんでも勇者いわく、まだ高度な技術や素材が必要って言ってただと。それから勇者の子孫が治めてきて今にいたるってわけだ。嬢ちゃんにはまだ難しかったか?」
「いえ、だいたいはわかりました。ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
驚いた、勇者ときたか…、そして魔王て…、どこのファンタジー小説だ」…。だがどうやら俺以外にもこの世界にきた人がいるみたいだな。俺と同じ世界とはかぎらないけど。
「おもしろい話も聞けたし、今日はこのへんでお先に寝させてもらいます。」
「おお、そうかい。見張りは俺たちがやっとくからゆっくり寝てくれ。」
俺はガイさんにもう一度お礼を言って馬車に向かおうとする。しかしガイさんが声を掛ける。
「そうだ嬢ちゃん、昼間のゴブリンも勇者がそう呼んでいたからああいう名前らしいぜ。」
「えっ、ということは勇者が召喚されるまでゴブリンはいなかったのですか?」
「ちがうちがう。ゴブリンはいたさ、ただ地方によって呼び名がバラバラでな、各地を旅した勇者がそう呼んでいたから統一されたらしい。他にもこんな魔物はたくさんいるぞ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。それではお休みなさい。」
そう言って馬車に入る。気を使ってくれたのだろう。1人で馬車に寝かせてもらうことになった。馬車で毛布にくるまった俺は、すぐに寝息をたてた。
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深夜、ガイは見張りを交代するために隣で眠る新人冒険者を起こす。
「おい、交代だ。朝までたのむぞ。」
「へーい…。ところでガイさん、あの女の子は一体何者なんですかね?」
すぐに目を覚ました男は気にしていたのか、いきなり質問をする。
「さあな。小さいわりにはちゃんとした話し方をする可愛い子だったぞ。…だだ帝国で手に入れたという銃を持っていたな。」
「銃ですか。また珍しいものをもっていますね。」
「ああ、だが危険はないだろう。これも何かの縁だろうし、コープの町まで無事に送りとどけてやろうぜ。」
こうして彼らは見張りを交代した。
朝になり、彼らはコープの町に向かって出発したのであった。