勝利屋 ~鈴木忠勝の生活~
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勝利屋とは――。
あらゆる勝負事に対して、勝たせることで報酬を得る職業である。
――正確に言えば、そのような職業は現代社会には存在しないが。
それでも、株式会社勝利屋を頼る人間は後を絶たない。
株式会社勝利屋。
仕事内容は、単純明快。
ただ、勝利をさせること。
鈴木忠勝を代表とする会社であり、正社員は10名。アルバイト、パートは仕事内容により変動する。
若干20歳の若社長――。
大学生である鈴木忠勝は多忙である。
今回の依頼は、とある高校の運動会。
その運動会のクラス優勝を手伝う仕事だ。
「――報酬は、クラス優勝すれば10万円。安いが、リピーターが多くて毎年、運動会時期は儲け時だ」
「社長。今回も、下剤を仕込んだり、怪我をさせるんですか? 傷害などの事件に発展するかもしれませんよ?」
「バレなければ問題ない。それに、たかが高校の運動会でそんな漫画みたいな手を堂々と使うとは思いもしないだろうし、体調不良は個人の責任だ」
そう、違法行為を平然と行う。
確かに、バレれば大問題になるが。
「弁護士志望の正社員もいるし、現役弁護士もいるから万が一が発生しても、裁判では勝つさ」
そう、裁判の勝利すらも仕事内容にある。
痴漢冤罪の裁判を過去に取り扱った際に、実際に無罪を勝ち得た実績があるのだ。
「クラス対抗戦で活躍する人間には悪いが、当日に体調不良が起こる。それに、依頼者の指導も行った。我々、勝利屋に依頼したクラス代表の佐藤君は運が良い。彼は運動会でヒーローになるさ」
後日、とある高校の運動会で、リーダーシップを取り、また強敵の少ない敵対クラスに見事勝利した佐藤なる高校生は、一時だが鈴木忠勝の言った通りヒーローになった。
体調不良者の人数は10名程度。
野球部の人間、陸上部の人間などの運動神経がよく運動会での活躍が期待されていた生徒達は、こぞって体調不良を起こしていた。
高校側は、不幸が重なる事もあるのだな。という感じで偶然を疑わなかった。
腹痛、風邪、流行の病。
それぞれが、病にかかったと。
もちろん、それは勝利屋が行ったのだが。
佐藤君のリーダーシップの指導は、各競技の専門家によるアドバイスがあったし、伸び盛りの高校生であった彼に、それは見事にハマった。
そう、人を見る目もある。
彼には、リーダーシップを取れる才能があったのだ。
数年後に彼は、勝利屋に就職するが。
それはまた別の話である。
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「ほう。水橋さんはミスコンの優勝をしたいと?」
「はい。私の夢はアナウンサーになることです。赤山学院大学卒の先輩で、ミスコンで優勝してアナウンサーになる人が多いですから……」
「アナウンサーになれるかどうかは保証できませんが。ミスコンの優勝。つまりナンバーワンになるための勝利を導く事は出来ます。そうですね。費用は100万円になりますが……。赤山学院は私立大学。ご令嬢も多くいますから、払えないという事はないですね?」
依頼人、水橋かおるは少し考えた。
確かに、彼女は某企業の社長令嬢。
しかし、その事を依頼相手。鈴木忠勝には伝えていないはずだ。
さらに、金額を払うのは親。
アナウンサーになるという彼女の夢を知っている理解のある親だ。
100万円くらいなら工面してくれるギリギリの範囲だろう。
「詳しい内訳を教えて下さい」
「はい。まずは人海戦術による投票操作に約20万円。他エントリー者に辞退していただく為の情報収集料金と辞退工作料金に約10万円。審査員の買収に約30万円。残りはこちらの成功報酬になります」
先払い料金として、約60万円。
成功報酬として、約40万円。
それが、高いのか安いのかは分からないが。
この時代の就職活動費を考えると、安いのかもしれない。
彼女は、そう考えた。
それに、失敗したら成功報酬は払わなくても良いと。
「――貴女は運が良い。実はこの後、赤山学院の阿久津さんと面談があります。この意味がわかりますね?」
たしか、阿久津香苗。
そう、ミスコン優勝候補と噂されている美人大学生だ。
この件、今すぐに依頼しないと彼女を勝利させるために勝利屋は動くだろう。
「……。ミスコン優勝の件……正式に依頼しますわ……」
「いやはや。さすが。社長令嬢だ。決断力がある」
驚いているように言うが、たぶんわざとだろうと彼女は思った。
しかし、手持ちがない。
お小遣いとして、銀行口座には幾らかのお金は入っているが。
30万円程だったはずだ。
「では、今日中に前金の60万円をこちらの銀行口座に振り込んで下さい。確認し次第、貴女のミスコン優勝の為に動き始めます。ああ、阿久津には現在多忙という事で、依頼のお断りを入れておきますので……。ですが、今日中に入金の確認が出来なかったら……。阿久津さんの依頼を優先しますので、ご了承下さい」
「……わかりました」
午後2時。
鈴木忠勝は、入金の確認をした。
水橋かおる名義の入金があり、早速ミスコン優勝に向けて勝利屋は動き出す。
赤山学院大学ミスキャンパスコンテスト。
ミスコンでは珍しく、水着審査がない。
見た目だけの美人ではミスコン優勝が出来ないのだ。
当然、金持ちの大学のミスコンだから、ミスコンエントリー者には整形手術を当たり前のように行なっている人間もいるし、審査員との肉体関係を持って票を集める人間もいる。
ミスコン優勝のメリットは、知名度の確保。
過去の赤山学院のミスコン優勝者のほとんどは、芸能界入りをしている。
高校生からアイドル活動をしている女性が、赤山学院に進学してミスコン優勝をはたし、芸能界での地位を確かなものにしたり、ミスコン優勝者が女優になったり、アナウンサーになり、芸能人と結婚したりと、メリットは多くある。
だが、美人だけではやっていけないのが芸能界だ。
しかし、美人だけで、やっていけるのも芸能界だ。
――ある程度、美人であるのは当然として、人柄、性格などの内面に目を向けたミスコンが赤山学院大学ミスキャンパスコンテストである。
よって、ミスコンステージ上で行われる質疑応答や、ゲームやクイズなどの評価が優勝基準となってくる。
万人受けする受け答えを知っていれば? 予めゲームやクイズの内容を知っていれば?
さらに、一般学生と、ネットでリアルタイム配信される動画サイトの投票操作を行えば?
審査員の投票操作を行えば?
優勝は、簡単にできる。
過去のデータを見る限り、一般投票数は2000取れば安泰。
審査員は5名おり、その内3名の投票を勝ち取れば優勝は確実。
昨年の優勝者は、一般投票数1384。審査員投票3。
準優勝者の一般投票数1249。審査員投票2。
審査員の投票は一般投票数でいえば100の票数になるので、優勝者の総票数は1684。
準優勝者は1449。
一般投票数では僅差であり、審査員の票数が傾けば優勝者と準優勝者の票数は逆転していただろう。
赤山学院ミスコン優勝者の平均一般投票数は1300程度。
ネット投票用のツールで、一般投票数の操作。
10名で、このツールを使えば、1000票は操作できる。
そして、ミスコン会場での投票は、水橋かおるの万人受けする受け答えや、予め内容を知っているゲームとクイズで好評を得る。
審査員達は、過去のミスコンでのやましい出来事を仄めかされて、3名が確実に彼女に投票する手筈になっていた。
一般投票数1788。
審査員投票4。
総票数は2188票。
過去を見る限り、スリートップに入る投票数を得て、水橋かおるは赤山学院大学ミスキャンパスコンテストの優勝者になった。
そして、優勝者候補だった阿久津香苗は、準優勝者に。
阿久津香苗は、辞退はしなかった。
彼女は、真っ当な勝負をして、準優勝者となっていたから。
だから、彼女は――女優というより、コメディアンチックな……お笑いの分かる女優として何とか芸能界を生き抜いていく事になった。
水橋かおるはアナウンサーになるという夢を叶え、野球選手と結婚する事になるが、それは未来の話である。
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