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むかしむかし、とある国にはとある王子が居ました。
光輝く金の髪、青空のような瞳、染み一つない白い肌…と国を興した英雄の生まれ変わりだと言われるほどそれはそれは美しい姿をしておりました。
性格も真っ直ぐで爽やかであったことから、幼いころから周りに人が絶えることはなく、男女問わず慕われていました。
第二王子として生を受け、『ライト』と名付けられた王子は、兄である王太子の次に玉座に近い位置に居ました。
第一王子よりも王に相応しいと表立って口にする者はいませんでしたが、内心ではそう思う者も少なくありません。
しかし周囲の評判とは裏腹に、彼自身はあまり王位に興味を持てませんでした。
それよりも体を動かすことが好きで、兄を蹴落としてまで王位を欲しいとは思わないライトは、将来は騎士団に所属したいと思っていました。
騎士団で剣を振るい、祖父の代になってようやく訪れた国の平和を守りたいと考えていたのです。
そしてまるでその考えを後押しするかのように、ある武器が手元に舞い込みました。
それは、王宮の宝物殿に収められていた貴重な宝であり、正当な王の血を引く者の中でも選ばれた者しか手にできないと言われる剣でした。
『太陽』と形容されることもあるその剣は、柄が金に輝いており何とも目立つことこの上ないものでした。
一言でいえば、『趣味が悪い』というものでしたが、8歳で手にして以来、手放せないものとなりました。
それほどその剣はライトの手に馴染み、振れば他の剣では決して出せない力を発揮してくれました。
さらに都合の良いことに、この剣はとある言い伝えがあったのです。
それは、
『剣を手にした王族が王位に就けば、その者は大陸の覇者となるが国は疲弊する』
『反対に王位に就かなければ国を守り、平和をもたらす』
と言われていたのです。
この剣を手にしたときから、ライトを玉座に据えようと躍起になっていた周囲の者は離れていきました。
誰もが十数年ぶりに訪れた平和を壊したくない、と考えていたからでした。
逆にライトは肩の荷が下りたとばかりにますます剣の道にのめり込みました。
誰に教えられずとも、その剣を握れば使い方は自然と分かりました。
騎士団に入団したのは翌年、ライトが9歳のときでした。
これは特別早いことではなく、平均的な年齢でした。
王子であり、周囲に大切にされてきたライトにとって騎士団の中での生活は、想像以上に厳しいものでした。
団長の方針でどんな大貴族の子であろうと、王族の子であろうと特別扱いはしない、と決められていたからです。
王子であるライトも例外ではなく、むしろ王子であるからこそ周囲から厳しい目を向けられ、遠巻きにされました。
根性のない貴族の子どもらはすぐに辞めていきましたが、ライトは違いました。
正当な指導の中に潜む、悪意ある仕打ちに心を痛めることもありましたが、彼には幼いころから育ててきた国を守りたいという強い思いがあったのです。
そこでライトは皆と一緒に雑務や訓練をこなし、ますます剣の腕に磨きをかけました。
伝説の剣の効能だけでなく、天賦の才とそして弛まない努力は確実に実を結びました。
15歳を迎えるころには国内どころか他国でも並ぶ者が居ない、と囁かれるほどになったのです。
剣の実力が認められ、騎士団の副団長の地位についたのは、若干16歳のことでした。
騎士団の歴史の中でも最年少であり、異例の早さでした。
いくら剣の腕があるから、とやっかむ者がいないわけはありません。
王族だから、と面と向かって言われずとも陰口を叩かれていることをライト自身も知っていました。
そういわれても仕方がない、一つの意見としてライトは受け入れているつもりでした。
しかしそうは言ってもまだ16歳の少年です。
知らず知らずのうちにライトの心は、疲弊していました。
あれほど願っていた騎士団に所属し、平和を守る担い手になれたというのに、ひどく無気力になるときが少しずつ増えていました。
心が病んでいる――――ライト自身焦りを覚え始めたころのことでした。
彼が騎士団に入団してきたのは。




