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「むかしむかし、とある国にはとある妖精が住んでいると言われていました。
ぎょろりと大きな目、尖った大きな鼻、出っ張った頬骨…とそれはそれは醜いと言われる姿をしておりましたが、心根はとても穏やかで優しい性格をしていて、己を怖がらない者をよく助け、幸せにするといつからか囁かれるようになりました。その妖精の名は、コブリン」
大好きな祖母の静かな優しい声で紡がれる妖精の物語。
幼いライトは黙って祖母の隣に腰をかけ、祖母の膝に置かれた絵本を覗き込みます。
その絵本には誰もが醜いという妖精コブリンが、主人公として描かれていました。
古い古い絵本は、子どもがコブリンを怖がるという理由で、あまり人気がありませんでしたが、いつだって祖母はライトにその絵本を読み聞かせました。
なぜなら彼女は珍しいことに、このコブリンが大好きだったのです。
その理由は、
『若いころにコブリンに助けてもらったことがあるの』
と、孫の中で唯一コブリンの絵本を見ても怯えなかったライトにだけこっそりと教えてくれました。
兄や従兄弟たちと違い、不思議なことにライトにとってコブリンは、初めて絵本を見せられたときから恐怖の対象とはなりませんでした。
小さな指先で興味深くコブリンのぎょろりと大きな目や尖った大きな鼻をなぞり、次のページをめくったときに泣いているお姫様を笑わせようとひょうきんな顔をするコブリンが楽しくてにっこりと笑いました。
そのライトの姿を見た祖母は喜び、膝に抱きかかえて絵本を読んでくれました。
ライトは絵本の中身を聞いて、ますますコブリンのことを怖く思わず、むしろ優しい妖精を好きになりました。
幼いライトは、もう何度も読んでもらった絵本を飽くことなく祖母に読んでもらいました。
祖母が亡くなるその日まで――――――。
『とても優しい妖精よ。きっとあなたが困っていたら、助けてくれるから。だから、忘れないで』