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コブリン姫の結婚  作者: くま
本編
2/11

 以来、真面目なコリンは騎士になるべく来る日も来る日も棍棒を振り回しました。

 使い手を選ぶ棍棒は、やはり不思議な武器だったようで、手に取るだけで自然と効果的な棍棒の使い方が分かりました。

 大事にすればするほど輝く棍棒を手に騎士団の門扉を叩いたのはそれから4年後、コリンが14歳のときでした。

 相変わらずのコブリン顔で、手足は短いままでしたが今のコリンには、己の容姿に劣等感を抱くよりも騎士になって人の役に立ちたいという気持ちの方が強くありました。

 この時代、女性の騎士は数は少ないですが何人かいましたが、ほとんどが女性という特性や振る舞いを利用した戦い方をするため、他の真面目な騎士からはあまり好かれていませんでした。

 しかしコリンは見た目が見た目であったため、女性ということで差別を受ける前にコブリン顔ということで区別を受けました。

 ほとんどの者がコリンを避け、訓練でも組みたがりません。

 話しかけても生返事や逃げ腰の答えがほとんどで、会話もあまり成立しませんでした。

 そのことがやはり悲しく、騎士見習い時代は一人で枕を濡らすことが決して少なくありませんでした。

 しかし真面目な性格のコリンはそこで不貞腐れることはなく、毎日懸命に訓練や雑務をこなしていきました。

 そのことが次第に認められ、2年後の16歳では準騎士として拝命され、さらに3年後の19歳になる頃にはもうすぐ正騎士になれるだろうと言われていました。

 19歳にしてすでに国一番の棍棒の使い手として名を馳せるコリンを相変わらず怖がる者も多くいましたが、真面目な性格や努力を見て仲間として認めてくれる同僚も確実に増えていました。

 その中でも、

「コリン、一緒にお茶をしないか」

 第二王子が何かと気にかけてくれました。

 将来、兄である王太子の役に立ちたいと早くから剣の道を選んだ王子は、コリンが所属する騎士団の副団長でもありました。

 王子は、非常に美しい容姿をしており、コリンと並べば月とすっぽんどころの差ではありませんでした。

 輝く金の髪を持ち、性格も朗らかで爽やかということで国民から大変慕われていました。

 コリンに対しても最初から他の見習いと同じく厳しい態度で接して来ましたが、真面目に訓練に取り組むコリンを認め、準騎士、正騎士になることが決まったときも口添えをしてくれたと聞いています。

 何よりもコリンの顔を見ても嫌悪や怯えといった表情を浮かべなかった、唯一の人でした。

 ただ、一つだけ問題がありました。

 それは、


「コリン、この前も言ったがもっと太った方がいいぞ。お前は痩せすぎだ」


 ばんばんと痩せた肩を叩き、次に肩を抱く。

 完全なるセクハラです、いえ、非常に親しい仕草でしたが、コリンは何とも言えない表情をしました。

 というのも、どうも王子はコリンの性別を勘違いしているようなのです。

 確かにコリンのコブリン顔から性別を読み取るのは難しいのです。

 そして何よりもコブリン顔を持つ者のほとんどが男性に多いことから、勘違いされても仕方がないことでした。

 しかしコリンもいくらコブリン顔で騎士とはいえ若い娘でしたし、男性に性別を勘違いされるのはやはり悲しいものです。

 スキンシップの多い王子に肩を抱かれるたび、頭を撫でられるたびに嬉しさと同時に――――ちくちくとした胸の痛みを感じるのでした。


「コリンは優しいな」

「お前と一緒にいると本当に落ち着く」

「俺が兄上のために剣を振るうとき、お前には俺の片腕として一緒に戦ってほしい」


 という王子の何でもない言葉に一喜一憂してしまう自分を、コリンは自覚しました。

 そう、コリンはあろうことか王子に恋をしていたのです。

 数多くいる男性の中でなぜ王子だったのか、それはコリンにもはっきりとは分かりません。

 しかし自分が王子を愛していることは、はっきりと分かっていました。

 同時にこの恋が決して実ことがないことも――――。

 自分が醜いことは誰よりも分かっています。

 決して誰にも選ばれることがないことも分かっています。

 だからこの恋は自覚するのと同時に、諦めた恋でもありました。

 自分のような者が王子に想いを抱くなど、身の程知らずであり、不敬であると。

 ―――――いつか王子が美しい女性を妻として迎えるとき、コリンはきっと苦しくて苦しくて涙してしまうことでしょう。

 それでも構わないのです。

 王子が誰よりも幸せになってくれるのなら、コリンにとってそれ以上の幸せはありません。

 傍を離れず、微笑んで王子を祝福できるようになろう。

 そう思って、鏡を見て微笑む練習をしようとしましたが、歯を剥き出して笑った顔のあまりの醜さと、かつて子どもが脱糞して怯えたことを思い出し、一人肩を落としたのでした。

 

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