1話その4
「君たちには私の研究に協力してもらおう」
セイブが口角をあげてニッと歯を見せる。
どうみても悪人面なので、僕は一応確認をしておく。
「……怪しいことではないですよね」
「ん、なにか怪しいところなんてあったか?」
「いや、なんというか……」
「だって今のおじいさんの顔どうみても悪い顔なんだもん」
「ほお、なるほど」
言葉を濁しているところにカスミがあまりにもドストレートな
ことを笑いながら言うので、額に汗が浮いてくる。
どうしようかとアタフタしているとカスミがさらに続けた。
「でも、おじいさんは悪い人ではないよね」
男二人はついお互いに顔を見合わせてしまう。
「いや、なんとなくって話だけどね。
それで、どう協力したらいいの?」
「う、うむそうだね。そう、全く怪しいことじゃなくて…」
内容は要約するとこの土地の調査して欲しいということだった。
彼らが活動する夕方以降から彼らと一緒に過ごして、
その内容を報告すればいいのだそうだ。
「このくらいならセイブさんが直接調査したほうが早いん
じゃないですか?」
「いや、君たちが旅人だというなら他人と接するのは慣れている
だろうし……。
それに、年をとってしまった外者の私からすると、この土地の
生活時間にあわせて行動するのは一苦労でね」
「あー、なるほど…それじゃあもう時間的にはいい時間です
けど、行ったほうが?」
「いや、それは君らに任せるよ。元々気長な研究だしね」
外をみるともうかなり夜も深まり外の景色もあまり見えなく
なっていた。
外を見た僕に気がついてみてセイブさんが近くの直立した
枝に火を灯して明かりをつける。
「もうそろそろ彼らも灯木で活動を始める頃だと思うよ」
「あ、やっぱりそうなんですか」
灯木というのは枝先だけが非常に燃えやすく、そのほかが燃え
づらいという性質のために、全国的に夜間の明かりとして
利用されている木である。
ふと辺りにやるとカスミがいないことに気づく。
――またあいつは…
「選択する必要なんてなかったようだね」
「どうやらそうみたいですね」
軽く会釈すると僕はいそいで表に出る。
屋敷がなかなか大きいので、一瞬迷ったがどうにか外に
出ることができた。
いそいで駆けていくつもりだったが、その必要はなかったらしい。
なんだかデジャヴな気がするが彼女はすぐ近くで立ち止まっていた。
なんだと声をかけようと近づいたがつい僕も足を止めてしまった。
――なんだこれ
一見するとそこはオレンジに揺れる紅葉があるかのように思えた。
だが、よくみればそれは全てが炎。
それに気づくと今度はその規則正しく並び、不規則に揺れる炎に
目を奪われる。
そう、灯木というのは枝先のみを利用するのが本来の使い方だが、
この村の場合はその使い方を考えれば当然
――木の枝先全てを燃やしているのか
灯木の生産は僕の国でもよく行われていたが、
商品としての価値を下げないためにこのように大々的に
火を着けるようなことは無かったのでつい驚いてしまった。
どうやら前で口開けている彼女も見惚れているらしい。
「ほら、いくぞ」
冷たく彼女を引きずり連れて行くが、内心はこの不思議な村に
胸の高なりを感じていた。
彼に会っていなくても僕らの行動は対して変わってはいなかった
のかもしれない。
そう考えながら一番近くに見えた民家に向かう。