1話その1「無力の英雄」
「今日はあったかいねー」
少女は歩調を保ちつつ天に腕を突き上げて言った。
「何回目だよ、その言葉…。他に言葉を知らないのか?」
「別にいいじゃん、言葉に制限などないのです」
得意げに言う彼女に、言葉を返すのもめんどくさくなる。
なぜならこういう時にいちいち返していると
ただでさえ耳に響き易い高い声が、
さらに勢いを増して飛んでくるからだ。
そんなことを考えながらうつむく僕をよそに
楽しそうに話を続けている彼女の名前は"カスミ"
明瞭そして活発という言葉がよく似合う赤茶色のショートの髪の毛の少女だ。
ただ、それに合わせて少々常識知らずなところがあるために、
予期せぬ行動ばかりとるのが面倒な点だ。
……まあ、これには少しばかり理由があるが。
「……でどうなの?」
「え、何が?」
「何って…もう着くんだよね?次の場所に」
「え、ああ…ピエニまではあと20分くらいかな?」
「なんだもうすぐじゃん!サクサクいきましょう!!」
歩調を急に早めるカスミに
僕"ライ"は慌てて出した地図をまた急いでリュックに詰め込む。
調子が良くなった彼女に小走りでついて行く。
――僕らはは旅人だ。
目的は一応存在するが、アバウトなその目的は
実質無いに等しいもので、旅は実際のところぶらり旅
といっても過言ではないだろう。
次に行く"ピエニ"という場所もただの小村で、
目的地にしたのも「近いから」というだけが理由だ。
「ライ君、そういえばピエニはどこの国だっけ?」
「トゥリパロの所属だよ」
「あ、えーっとトゥリパ?っていうと…あれだよねー?」
明らかに狼狽しているのに分かったフリをしているらしい…。
全くコイツは何度説明すればいいのか…。
「世界を統べる三国の国民の大部分を構成している
四大民族のうちのひとつ"火の国トゥリパロ"」
「おー、さっすがはライ君!!教科書のような解答!!」
「人が答えてやってるのにからかうとは、他の国なら
しっかり答えられるということかな?」
「ふっふーん、そこはお任せあれ!」
――妙に自信満々な様子だがコイツは絶対わかってない…。
「じゃあいってみろよ」
「まずは"風の国トゥーリ"次に"土の国マーペラ"
最後は私の一応の出身"水の国ヴェシー"なんですな!」
全部合っていた…。コイツさっきのは僕にいわせる
つもりだったんじゃないかと思うほど、スラスラと
完璧に言いやがった…。
とは言っても…
「何カ月もかけて覚えたものをそんな自身満々にこたえないで
もらえるか?」
「うう…せっかく覚えたんだから褒めてもいいじゃん!」
「それはトゥリパロも覚えてから言えってーの…」
……これ以上は耳に響くのであとは適当に聞き流すことにする。
そんなこんなで言い合っているうちに、
今回の目的地"ピエニ"に到着する。