創立謝祭part5
結構きついですね・・・(汗
と、いうわけで、文章量を増やすのに四苦八苦してます。
この作品はどこへ行きたいのだろう?
そんな感じの十四話です。
左手に銀の祝福を―――
『地の門に絡め取られ』
『自由の無い、一体の』
『三つ子の犬に安息を』
右手に漆黒の破滅を―――
『冥府は歓喜に震えた』
『天は恐怖で戦慄した』
『数多の戦を駆け続け』
『血で、肉で、怨念で』
『赤く紅く、ただ赫く』
『憎悪を燃やす炎の杯』
その背に負うのは愚か者―――
『何かが、響いている』
『心の内で鳴っている』
『祝福も、憎悪もせず』
『淡々と、生れ落ちた』
『しかし、ただ確実に』
『愚か者は生きている』
『誰かの、何かの内で』
『響いて、鳴っている』
さあ、今日も行こう―――
愛する者に微笑んで―――
今日もまた、生きていこう―――
~『旧歴新書』
人の章より『欠落』~
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「クハッ、そりゃめんどくせぇな?」
紅い青年は紫煙をはきながら、こともなげにそういった。
『紅星を背負う者』
イグニ・リヒャルドだ。
部屋には誰もいない。
学園から貸し出された部屋だ。
装飾はまさに一流と呼ぶにふさわしいもので、どれをとってもため息しか出ない。
高級そうな(・・・・・)壺まであしらわれている。
一般人からすれば卒倒ものの一室だった。
ただ、この青年からすれば、どれも等しく価値など無かったが。
クハッ、ともう一度紫煙を吐き出し、短くなったタバコを灰皿に押し付ける―――なんてことはしなかった。
一瞬で、灰すら残さずに燃えた。
莫大な熱波を放出したであろう火は、しかし、周りには何も被害を出さなかった。
「ん~、どうすっかなぁ?」
テロ組織の件だ。
30分ほど前に知らされたそれを、危機感を全く感じさせていない。
感じさせていないのではなく、まるで感じていないのだ。
もちろん、神格兵器『ピオーズ』の事も聞かされている。
ただ、それでも。
この男に危機感を感じさせるには至らない。
過小評価しているわけではない。
慢心などもってのほか。
それは、実力に裏打ちされた当然の評価だった。
彼が勝つことのできない者はこの世界ではただ2人。
『凍てつく氷燐』
アリシア・ディ・アーシア
自らの友であり、恋仲である。
戦闘に関しては(ここ重要)、勝つことは出来ないが、負けることも無い。
実力が拮抗しているし、何より彼女は守りを主体にしているのだ。
そして2人目。これはまさしく勝てない。
『心優しき狂戦士』
あの坊やだ。
後の2人、『慈悲深き光輪』
レナ・フォンカルドはまだ実力が完全についていない。まぁ、ついたとしても負けるとも思わないが。
『姿無き黒幕』については規格外だ。
そもそも、戦えない。
戦『わ』ない、ではなく戦『え』ないのだ。
流石にDランクよりは強いとは思うが、それでもCランク行くかな?という具合。
ともすれば、Dランクより弱いかもしれない。
まぁ、それでも敵対するようにさせないのが彼の『姿無き黒幕』たる所以だが。
話が逸れた。
では、何故それほどの実力を持ったリヒャルドが何故渋っているのかというと。
ぶっちゃけめんどくさいのだ。
そんな彼も、流石に泊めてもらっているここの害になるのはだめだ(この件の原因の一因はそもそも彼なのだが)と思い、重い腰を上げたようだった。
どこまでも、気分次第。
それが彼の、彼足る所以だ。
それでこそ、『背負う者』を冠するにあたいするのだ。
「歓喜に打ち震えろ・・・。クハッ、ハハハハハハ!!」
また戦場に、歪な笑いが響く。
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男は、媚びない。
元SSクラスの『魔法使い』である彼の、二十五までの生涯はただレールを走っているにすぎなかった。
それだけに、失敗は無く、幼少の頃から才覚を顕していた彼は、それゆえに誇り高い男であった。
聡明であった。だからこそ、Sクラスになったとき偶然会った『世界最強の存在』の1人、『紅星を背負う者』との差を、圧倒的なまでの、絶望的なまでの差を、実力の差を、感じ取ってしまった。
呆然となりながらも、プライドのためにムリヤリに依頼をこなした。
気付けば、SSクラスになっていた。
気付けば、壊れていた。壊れている、ということを認識しながら、自覚しながら、彼は壊れたままに、反逆した。
愛しき者を殺し。生みの親を殺し。友を殺し。偉人を殺し。故郷を。立ち寄った村を。目に付いたものを片っ端から。
ただ、殺していた。壊していた。沈めていた。堕としていた。
―――彼の者の前に道は無く、彼の後ろに死人の山と、亡者の列。
十年。
彼は破綻したまま、最大のチャンスを得た。武器を手に入れ、気付けば組織として動いていた、言いなりの亡者ども。
―――復讐だ。ああ、そうだとも。おまえらの全てを奪ってやる・・・!!
彼は気付かない。
破綻したまま起こしたものは、どれも等しく、破綻するものだと。
気付くべくもない。
理性を持った狂気はすでにいなく。
いるのはただの、『狂気しかない(キルス・ショック)』なのだから。
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『アスクレ』の討伐はすぐに、たった二人で行われることとなった。
それ以外がいれば、それはただの足枷であり、足手まといなのだ。
故に2人。
『紅星を背負う者』
『心優しき狂戦士』
最強が2人。
前代未聞の蹂躙戦。
戦ではない。ただの、蹂躙だ。
学校から数キロほどいったところにある丘。
そこに二人いた。
赤い青年と、特徴の無い少年(自分)。
目を閉じながら、体中に魔力を回す。
ここに来る前に、彼女―――シャルから言われたことを思い出す。
『ヴァン君はきっと無理をするだろうから、無理するなとは言いませんけど』
『無茶しないで下さい』
『ちゃんと戻ってきてください』
『私の元に帰ってきてください』
―――最強(俺)が無茶するわけが無いだろう?
―――必ず帰るに決まってんだろう?
―――俺だからな。
目を開ける。
体中に回した魔力がうなっている。
まだかまだかと、解放されるのを待っている。
「クハッ、いいねえ。奴さんもそろそろのようだし、おっぱじめようぜ」
リヒャルドがそういうのと同時に、数十キロ先の森から魔力があふれてきた。
個々のばらつきはあるも、いずれも強力。
100や200ではきかない。
1万を越すだろう。
口元が緩むのを抑えられない。
「クハッ、おまえのその顔を久しぶりに見たが・・・ハハハ、変わってねえなぁ。『狂戦士』?」
「・・・うるせぇな」
「クハハッ、んじゃぁ・・・おしゃべりはこれくらいにして―――」
「ああ、始めよう―――」
「―――歓喜に打ち震えろ・・・!!」
「―――裁きを受け入れろ!!」
轟ッッッ!!
と、抑えていた魔力を解放しただけで、丘が吹き飛んだ。
走る。一直線に敵の下へ。
リヒャルドは赤い翼を生み出し飛んでいる。
左手に『三位の篭手』を召喚し。
右手に『煉獄の篭手』を召喚する。
黒い装甲。全体を幾重にも奔る赤い線がまるで血脈のようだ。
魔力を込めながら右手で地を殴る。
カチンと音がして。
轟ッッッ!!と地が爆発した。
その衝撃で飛ぶ。
だいぶ前方にいて、すでに戦い始めたリヒャルドを追うようにして、飛んだ。否、跳んだ。
右手の篭手の一部がスライドし、熱を吐き出す。
『煉獄の篭手』
魔力を火薬に、衝撃をトリガーにして爆発させる、という物だ。
『三位の篭手』とは違い連発性は無いものの、威力は比ではない。
超攻撃特化。
この篭手を表す言葉はそれしかない。
篭手に魔力が奔るのを確認して、戦場に降りていった。
リヒャルドが暴れているため、森だったそこはすでに荒野となり始めている。
右手で、地を穿つ。
衝撃を面にして放ち、地面を隆起させる。
足を取られ、体制を崩した者を容赦なく左手で射っていく。
「殺すという行為に何を求める?たとえ快楽でも、理由は理由だ。侮蔑はしねぇよ。だけどな、置いてって、残していってもらうぜ。―――俺の邪魔になるんでなっ!!」
容赦なく、手抜かり無く、手加減無く、殺して殺して殺しつくす。
この『狂戦士』が殺しに求めているのはいつだって、『死』だ。
DEATH。DEAD。KILL。
殺すか殺されるか。
それで十分だ。余計な物は入れない。
生きるために。『死』を受け入れる。
―――戦場には自殺願望の生きたがりが1人。
―――彼は、死を戦場にばら撒いていく。