奇跡
どうも。byとろです。
何か最終回っぽいけど違います。
まだまだ続くと思います。
そんな感じの9話目です。
スティテイレ魔法学校に俺が入学したのは、それが普通のことだったからだ。
『世界最強の存在』であり、しかしその中でも特に規格外の2人。
あいつはずっと引き篭もっているからいいのだが、俺は外見は普通の少年。
怪しまれないためにも学校に行くことにした。
ちなみに校長が政府に顔がきく大物で、俺の入学の際、便宜してもらった。
そして、彼女とであった。
最初は仕方ないからだった。
でも、初日の放課後から自分の意思で学校に通うことにした。
今思えば、一目惚れ、というヤツだったんだろう。
実技で一緒のグループになったり、一緒に下校したり、休みの日には買い物に付き合ったこともあった。
毎日が本当に楽しかった。
俺が『世界最強の5人』の、しかも化け物だというのに関わらず俺を受け入れてくれた少女。
俺の人生に色をつけてくれた少女。
あの日、この少女を守ろうと決めた。
何があっても必ず守ると。
それなのに、どうして?
俺は、守れなかった。
前の俺なら相手が動いた瞬間に取り押さえることができたはずだ。
頼りきっていた。
あの子が側にいるだけで、浮ついてしまう。
彼女のいうとおりにだけ動く。
それで守れるはずが無い。
それはまさしく、彼女への依存が招いた悲劇。
俺は弱い。
なにが世界最強だ。
何が狂戦士だ。
目の前の1人すら守れないただのバカだ。
どこから間違ったのだろう。
いや、出会わなければ良かったのか。
目を開ければ放課後の教室だった。
俺以外には誰もいない。
1人、いた。
灰色の景色の中で唯一つ、色のついた人。
肩までの金髪に、澄み切った青色の瞳。
小柄の体とは対照的に育つ所は育っている。
彼女は帰る用意をしていた。
俺はただ座っている。
彼女が席を立つ。
それでも俺は座っている。
ここで声をかければ、巻き込んでしまう。
出会わなければ良かった。
声をかけるな。
かけてはいけない。
「・・・・・・どうして、泣いているんですか?」
泣いている?
ああ、そうだ俺は泣いている。
何故?
そんな事は分かりきっている。
「君が行ってしまうから・・・」
ぽつぽつと机に黒い染みができていく。
「それでいいはずなのに、出会わなければ良かったはずなのに、駄目なんだ」
静かに独白していく。
「出会わなければ君は怪我を負うこともなかった。君は幸せになれた。それでも、それでも俺は―――」
拳を握り締める。
言葉に。
この思いを言葉に。
「俺は、君と一緒に居たい」
「君と共に歩んでいきたい」
「自分の意思で・・・!!」
そっと握り締めた拳に温かみが伝わった。
彼女の手が包み込んでいた。
「・・・やっと、言ってくれましたね」
「・・・ああ、随分と時間がかかった」
「それでも、言ってくれました」
「君は、後悔しないかい?」
「するわけ無いじゃないですか。だって、愛していますから」
「ありがとう。俺も愛してる」
「はい」
「一緒に生きよう。二人で支えあって」
「はい!!」
とびきりの笑顔。
手を取り合う。
その瞬間、世界に色が着いた。
そして温かさも。
笑いあう。
「「一緒にいこう」」
「「未来へ」」
世界がはじけていく。
恐怖は無かった。
手のぬくもりが残っているから。
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目を覚ました。
どうやらシャルのいる病室で眠ってしまったらしい。
「・・・夢、か」
さっき見たものはどうやら夢だったようだ。
「・・・はっ、都合の良すぎる夢だな」
「そうですか?」
「え・・・!?」
振り返ると、そこには彼女がいた。
優しく微笑んでいる彼女が。
もう聞くことがないと思っていた彼女の声。
もう見ることが無いと思っていた彼女の笑顔。
自然と涙がこぼれる。
「もう、泣き虫ですね。ヴァン君は」
「ああ、格好悪いかな?」
「そんな事は無いですよ。もっとヴァン君を知りたいです」
「俺も、シャルのこと、もっともっと知りたい」
「はい、ゆっくり時間をかけて知っていきましょう。時間はいっぱいあるんですから」
「ああ、ずっと傍で支えてくれるかい?」
「あたりまえです。私のことも支えてくださいね?」
「わかってるよ。支えあって生きていこう」
「はい」
「愛してる」
「愛しています」
抱きしめあい、唇を重ねる。
長く長く重ねあって、そして笑いあった。
ただただ、純粋に。
ただただ、幸せに。