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3 食堂の犬と浄化の雷

習作です。

よろしくお願いします。

1日2回投稿の1回目です。

アーサーは短い足を懸命に動かし、背後の巨岩鳥を挑発するように森の深部へと誘い込んだ。巨大な翼が周囲の木々をなぎ倒し、乾いた土煙が舞い上がる。

「キャン! キャンキャン!」

(こっちだよ、大きな鳥さん。君の相手はあっちの優しい人たちじゃない。僕がたっぷり遊んであげるから、こっちにおいで!)

リナたちの叫び声が木霊の向こうへと遠ざかり、古い大樹がカーテンのように重なり合って視界を完全に遮った。アーサーは急停止し、しなやかな動きでくるりと振り返る。そこには、獲物を完全に追い詰めたと確信し、岩を砕くほど鋭い嘴を大きく開いた魔獣の姿があった。

「グルル……」

アーサーの喉から、犬のそれとは異なる、地響きのような低い唸りが漏れる。

その瞬間、彼の琥珀色の瞳は神々しい黄金色に燃え上がり、銀鼠色の毛並みが内側から溢れ出す白銀の光によって、透き通るような輝きを放ち始めた。

(さて、どう料理してやろうか。あまり派手にやると、空にいる『あの人たち』や、北の『お堅い同族』に見つかっちゃうしね。……ここは少し、手加減が必要かな)

アーサーは軽く右の前足を上げた。彼が願ったのは、万物を灰にする破壊の力ではない。周囲に漂うアニマたちへの、いたずらっぽくも真剣な「お願い」だ。

「……ッ!」

アーサーが地を蹴った瞬間、彼の体は質量を持った「雷」そのものと化した。

それは魔術師が喉を枯らして唱える、空気を焦がすような暴力的な稲妻ではない。周囲の小精霊たちがアーサーの意志という旋律に合わせて一斉に踊り、光の粒子となって爆発的な速度と浄化の力を生み出したのだ。

巨岩鳥が反応する間もなく、白銀の閃光が、巨鳥の懐を音もなくすり抜ける。アーサーは魔獣の硬質な鱗に触れる直前、ほんの爪先だけに、「浄化の雷」を込めて弾いた。

ズドン、と空を打つような衝撃音が一度だけ森に響き渡る。

だが、その音はアーサーが計算した通り、同時に彼が蹴り倒した朽ち果てた大木の倒れる轟音にかき消された。

(よし、命中。……おっと、とどめは刺さないよ。君も迷宮の詰まりに当てられた、被害者なんだからね)

巨岩鳥の瞳から、どろりとした不浄な濁りが消えていく。澱みの魔力を焼き切られた巨鳥は、糸が切れたようにその場に崩れ落ち、安らかな深い眠りについた。数時間もすれば、今度はただの「岩を背負った大きな鳥の幻獣」として、穏やかに目を覚ますだろう。

「ふぅ。……おっと、いけない。急いで戻らなきゃ。『可愛いワンコ』に戻る時間だ」

アーサーは手早く自分の毛並みを整え、わざと枯れ葉や泥を体にくっつけて、「恐ろしい怪獣から必死に逃げてきた転んじゃったワンコ」を完璧に演出した。

「アーサー! ああ、よかった、無事だったのね!」

丘の方から駆け寄ってきたリナが、泥だらけになったアーサーをひっしと抱き上げた。アーサーは精一杯、情けない声を出しながら彼女の胸に顔を埋め、尻尾を弱々しく振ってみせる。

「急に大きな木が倒れて、あの魔獣、驚いて森の奥へ逃げていったみたいなの。……アーサー、あなたが囮になってくれたのね。ありがとう、本当にありがとう」

リナはアーサーの無傷な体を何度も確かめ、安堵の涙をポロポロとこぼした。

レオとメイも青い顔をして駆け寄り、アーサーの頭を代わる代わる撫でまわす。

「アーサー、お前すげえよ! かっこよかったぞ! お前が吠えたから、山の神様が木を倒してくれたんだな!」

(あはは、そういうことにしておいてよ、レオ。……さあ、リナ。戦い(?)の後は、ひどくお腹が空くんだ。お待ちかねのお弁当にしようよ!)

アーサーはリナの涙を舐めて拭うと、今度は全力で尻尾を振り、広げられたシートの上で「お預け」の姿勢をとった。

おむすびの包みが開かれると、炊きたてのお米の甘い香りと、リナが今朝早くから仕込んだ具材の匂いが鼻をくすぐる。

(最高だ。やっぱり、この平和こそが僕の守るべきことわりだよ。超越者の設計図がどうであれ、僕はこのスープとおむすびの味を信じることにするよ)

アーサーはおむすびの端っこをもらい、幸せそうに目を細めて咀嚼した。

しかし、その至福の瞬間。

彼にははっきりと見えていた。遥か北の空、雲の切れ間から、この地を冷徹に探るような「高位の魔力の波動」が、一筋の流星のように走るのを。

(……今の浄化、気づかれたかな。いや、精霊たちが隠してくれたはずだ。大丈夫、大丈夫……)

アーサーは自分に言い聞かせるように、次の一口を頬張った。

だが、彼が知る由もなかった。王都ではすでに、この村の迷宮を「資源」として喰い荒らそうとする、強欲な男たちの計画が、音を立てて動き出していることを。

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