ホラー落語『怪談あるある噺』
えー……。毎度ばかばかしいスプラッターを一席──
お初にお目にかかります。私、女流落語家の、冬風亭椎猫と申します。
え? 女の落語家なんて珍しいって? あのね、今ではいくらでもいらっしゃいます。1981年に初めての女流落語家さんが誕生してからというもの、特に最近では増えてらっしゃるんですよ? いえ、今、ネットで検索して初めて知ったんですけどね。
正直言いますと私、こう見えて落語には詳しくありません。落語に詳しい歌池さんに見られたら恥ずかしいのでこっそりとやらせてもらってるんですけどね。
さて、今回は『怪談あるある噺』というのをやってみたいと思います。
ありますよね? 怪談噺に限らず、ホラー映画なんかでも、お決まりのパターンと申しますか──あぁ、落語なのに横文字使っちゃってごめんなさい。言い直しますと、南蛮渡来の怪奇系活動写真なんかでも、お決まりの様式のようなもの、ありますでしょ?
たとえばいきなり大きな音で驚かせる。ありますよねぇ、平和な家族の朝食風景を見せといて、いきなり台所のほうで、爆発音が「ボーーン!」──
電子レンジでたまごをあっためていたんですね。あー……、びっくりした。
ご存知でしたか? 電子レンジで殻つきのたまごをあたためると爆発するそうなんですよ。絶対にやっちゃいけませんよ? ホラーになっちゃいますから。
あとね、『緊張と弛緩』というのがあります。なんかオバケが出そう、出そう──と思わせといて、出ない。
ホッとしたところへ台所から爆発音が「ボーーーン!」
──あ、いえ、またたまごでしたか。いけませんよって言ったそばからこれだ。
雰囲気作りも大切ですよね。怖〜い雰囲気を作ってあげると彼女さんもギュッと腕に抱きついてきますから。
あるあるなものでいいますと、たとえば墓場。怖い雰囲気ありますでしょ? 夜も怖いですけど、昼間も誰もいなかったらあそこは怖いです。お墓の前に供えてあるものが、あかるいからよく見えます。お墓の前にたまごなんかあったら、「な……、なんでこんなところにたまごが……?」って、不思議な雰囲気が出ます。そしてそれが「ボーーーン!」──電子レンジもないのに爆発するたまご、これぞ怪奇現象。
あとね、観るひとの不安を誘うという常套手段があります。
ああいう怪談、怪奇噺というのは、夏のものだと思いがちですよね?
でも、意外や意外、この『観る者を不安にさせる』ということでは、むしろ冬のほうがいいんです。閉塞的状況というのを作りやすいですからね。夏だとどこまででも逃げられるけど、冬ではそうはいきません。
たとえば冬山で遭難して、山小屋に閉じ込められる。
山小屋の中には、毛布が一枚だけある。こたつでもあればよかったんですけどねー……、ない。
食糧は、何もない。──たまごだけでもあればよかったんですけどねー……、ない。
そこに迷い込んだのが毛深いおじさん二人だったりしたら怖いですよね。だって一枚だけの毛布にくるまって、二人ぴったり体をくっつけ合って、お互いの体温で暖め合うんですよ? 毛深いおじさん同士が──。あ、でも、これはあるあるではないですね。
あるある噺をするなら、二人が一枚の毛布を奪い合って、争う。
まるで私を奪い合って争うみたいな──けんかはやめてーー! ……いや、これも『ないない』ですね。
雪女が登場します! 寒さに耐えきれず、うっかり眠ってしまったおじさんに、白い息を吹きかけて、氷漬けにしてしまうんですね。
そしてもう一人のおじさんが……これがイケオジだったら、恋が産まれます。
どうもいけないですね。ちっとも不安にさせてあげられない……。
いえね、じつは、不安にさせたまんまというのが『あるある』な常套手段なんですよ。冬山で遭難して、山小屋に閉じ込められて、何か出そうだー、出そうだーと思わせといて、なんにも出ないの。
その閉塞的状況の中で、二人のおじさんが狂っていくんです。そのおかしくなった精神状態で、幻想を見るんです。
それを一緒になって見せられる観客の胸に、もやもやと不安が広がっていきます。
まるで電子レンジの中でくるくる回る、殻つきの生たまごのように、不安が広がって……
「ボーーーン!」
あーあ……。不安にさせるだけで、なんにも出ない予定だったのに──
たまごのしろみも、黄身も、飛び出しちゃいましたね。
これぞ本当の『黄身が悪い』──
おあとがよろしいようで──。




