第九話 フィルター
少し短めなので明日も投稿します。
オレと真帆は魔導世界に戻ってきた。
そろそろ戻ってくる感覚にも慣れてきた。
だが、いつもと違って真帆の元気がない。
やはりこっちの世界に原因がありそうだ。
いつもダウナー気味だし、異界とは態度が違うからな。
……ん? 異界と態度が違う……?
そうか、わかったぞ! 真帆の元気がない理由が。
だがまずはオレの予想があっているのか確認しよう。
「お前もしかして、大河内くんたちにこっちの性格がバレるのがイヤなのか?」
「うん……」
なんて些細な悩みなんだ……。
だが、本人からしてみれば真剣に悩んでいるのだろう。
よし! ここは恋人(仮)のオレが元気づけさせてやるか。
「心配するな、真帆! お前はお前だ。もしだれかがなんか言ってきたら、オレが神速の鉄拳を喰らわしてやる。それがもし大河内くんでもな!」
「うん。ありがとう、法魔くん……」
「ああ」
これでよし。
あ、そうだ。導魔が帰っていたら大河内くんたちにも見せてやるか。
オレの天使……じゃなかった。
オレの弟にして、最強のライバルをな。
いまのライバルは真帆だけど、昔は導魔だったんだ。
まあでも、ライバルは何人いてもいいだろ。
オレは導魔の部屋を開ける。
すると、導魔が木の松葉杖を使って頑張っていた。
所謂リハビリってヤツだな。
「よう、導魔!」
「あ、兄貴!」
「もし迷惑でなければ、お前を異界の友だちに紹介していいか?」
「うん、いいよ!」
「わかった。ありがとな」
それにしても、やっと歩けるようになったんだな。
来年は高等部に上がるんだし、それまでに間に合えばいいけど。
そんなことを思いつつ、オレは導魔の写真を撮った。
「よーし! 紹介しちゃお!」
というわけで、「グループメッセ」で写真を送るか。
うーむ、文章はそうだな……
『オレのかわいい弟を紹介するぜ!』にしよう。
さっそく文章のあとに写真を添付する。
すると、投稿時間が36時28分になっている。
むこうで言うと18時14分なので表記は合っているが、むこうだと正しく反映されるのだろうか。
時間はさておき、導魔の写真はなんて返ってくるだろうか。
『かわいいな!』とか『惚れました!』とかかな?
ま、オレより強いヤツしか恋人には認めんがな。
そんなことを考えていると、大河内が妙な文章を送ってくる。
『真っ赤だけど、勉強用の赤シート越しに撮影した?』
『ワタシも同じく真っ赤な画像です。時間も36時ですが、これは……?』
真っ赤ってなんだよ? オレのスマホだとしっかりと写っているぞ。
まさか、「概念フィルター」か!?
くそっ! 「概念フィルター」がかかるなら言ってくれよな。
オレは落ち着いて返信する。
『すまん、概念フィルター忘れてたわ』……っと。
すると真帆が忠告しにやってきた。
「法魔くん。もしかして、こっちの写真を載せようとした……?」
「真帆! そうだけど、まさかお前のスマホも真っ赤なのか?」
「うん……」
「やっぱり『概念フィルター』かよ!」
「なんだ。わかってたんだ……」
「兄貴、概念フィルターってなに?」
「ああ、高校から学ぶんだっけか。『概念フィルター』ってのは、簡単に言えば禁忌対策だ。禁忌は知っているな?」
「うん。異界に行き来したり、異界の人たちと繋がったら駄目とかそんな感じだっけ?」
「そうだ」
つまり、オレのやっていることはバレたらヤバいってことだ。
それと真帆の存在もまずい。異界人が行き来しているわけだからな。
だけど、オレはそれをわかっててやっている。
「導魔はどう思う?」
「……兄貴にはなんか考えがあるんでしょ?」
「おう。オレの理想は『異界と魔導世界を行き来できる世界』だからな」
「そうなんだ……」
オレが立派な魔導士になった暁には、奴隷ではなく、しっかりと人間扱いされる異界人を増やしてやる。
それが理想だ。絶対に叶えてやる。
「たとえ死んだとしても、オレは諦めない」
「でも……」
「ああ。『地獄』は魔導世界の一部だ。こっちだと『魔界』と呼ばれている。だから、死ぬことはないんだよな。実際は」
「へー!」
なにより「概念フィルター」が存在するのは異界人の魔導士がいないからだ。
だから、オレは真帆の手伝いをたまにしている。
言い方は悪いけど、戦争で生き残ったんだ。
将来有望な魔導士になるに違いない。
まだまだ荒削りだがな。
そんな異界人の真帆が魔導士になれば、魔導世界に新しいルールが生まれ、まともになるはずだ。
「『概念フィルター』は異界人の魔導士が生まれれば薄まるはずだ。だから、真帆には必ず魔導士になってもらう」
「うん……!」
「頑張ってね、天堂さん! 兄貴も!」
だけど、「概念フィルター」にも穴はある。
まず文章やこっちの時間は反映されるということだ。
尤も、それだけだがな。
行き来できなければ、ただの文字列でしかない。
だが言い換えれば、文章だけで交信できるわけだ。
そして管理は「概念」がやっていて、人力ではない。
つまり、特定されることはないのだ。
それと、ファンタジーのように警官等は魔導世界には存在しないので、案外「概念フィルター」を無視してる魔導世界の住人は多い。
「頑張ろうな、真帆!」
「うん……」
「じゃあ、下でごはんでも食べにいくか。導魔も行くぞ」
「ちょっと待って」
「自分のペースでいいぞ。先に食ってるからな! いくぞ、真帆!」
「うん……」
こうしてオレたちは晩ごはんを食べる。
が、一緒に座っているせいか、オレの右肘が真帆の左腕に当たる。
もし胸に当たったら、気まずいってレベルじゃねーぞ。
そうだ。あのことも頼んでおくか。
「母さん」
「なに?」
「真帆が料理習いたいらしいから、ヒマなときに教えてあげて」
「はーい。わかったわ」
「ほどほどにな」
「…………うむ」
「だから、真帆とはなにもないってば」
「食事に付き合えって言われてるので、毎食付き合ってます……」
「そうそう。それにちゃんと好きになったら、告白するつもりだから」
「ならば良し」
「うん。ありがとう、父さん」
「そろそろ準備してくるね」
「おう」
こうして、真帆が出ていく。
オレとしては早く行きたいからな。
あとあのことも話しておくか。
「そういや真帆の鞄だけど、あれには触らないでね。異界に行くから」
「わかっている」
「知ってるけど?」
「えっ!? なんで?」
「私の知り合いが異界人好きなのだ。異界人差別をまともにしようと躍起になっていてな。彼があれを作った。いくつ作ったのかは知らんがな」
「そうなのよ。それで、その人がアタシとお父さんの同級生ってわけ」
「へぇ……! ちなみに、アレってどういう原理?」
久しぶりに未知の存在を知り、オレはテンションが上がってしまう。
「詳しくは知らん。だが、法魔。お前がそういう道に行きたいのなら、止めはしない」
「いや、オレは魔導士になる。オレひとりが偉くなったって、なにも変わらないかもしれない。でも、少しでも可能性があるのなら、オレはやりたい」
「好きにしろ。お前の人生だからな」
「うん! ……ん?」
なんだ? スマホに通知が来ている。
それも真帆からだ。もしかしたら、なにかあったのかもしれない。
「ちょっとオレも準備してくる!」
「ああ」
「気をつけて上ってね」
「わかってる!」
部屋に戻ってからスマホの「メッセ」を開くと、真帆からこう来ていた。
『ちょっとこっちに来て』
やっぱり何かあったんだろうか。
ゴキブリが出たとか……? なんにせよ、むこうに行くしかないな!
オレは躊躇なく鞄の中に触る。
「うおおおおおお!!」
いつもと同じく、吸い込まれるような、落ちていく感覚に襲われる。
そうして着いた場所は、真帆の部屋だった。
「それで、どうかしたのか!?」
「うん。こっちの服とこっちの服、どっちが似合う?」
「……って、そんなことかよ!!」
「悪い?」
「いや悪くはないけど、そんなしょうもないことで呼ぶなよな……」
「やっぱり悪いんじゃん」
「ところで、いま何時だ?」
真帆の部屋の時計を見ると、19時半に差しかかっていた。
「もうこんな時間!? 急がないと!」
「それよりも、下に着る服はどっちが……」
「どっちでもいい!」
「……ふぅん」
見るからに不機嫌になる真帆。
『お前はかわいいんだから、どっちでも似合うだろ!』って言いたいけど、時間がない。
オレは真帆を急かす。
「早くしてくれ! オレはむこうで待ってるからな!」
「はいはい」
こうして、魔導世界に戻るオレ。
そのあとしばらくして真帆がやってきたので、急いで学校へ走るオレたちだった。
だけど、真帆が不機嫌な理由を、このときのオレはまだ理解していなかった。




