第六話 異界 その③
七話も明日投稿します。
少し設定が重いかも
「うおおおおおお!!」
以前と同様、吸い込まれるような、落ちていく感覚に襲われる。
そうして着いた場所は天堂の部屋だった。
だがオレは、そんなことより学校をサボったことを嘆いていた。
「……まだ気にしてるんだ」
気がつくと、天堂もこっちに来ていた。
「あっ、天堂!」
「1日くらいサボっても大丈夫だから」
なんだか余裕がある感じだな。
もしかして、学校を天堂もサボったことがあるのだろうか。
いや、真面目な天堂がそんなわけ……聞いてみるか。
「そうは言うけど、天堂は学校サボったことあるのか?」
「あるけど」
「それって?」
「初めてむこうに呼ばれたときとか」
「あっ、なんかすまん……」
「いいよ。過ぎたことだし」
「おう……」
魔導学校の授業で習うが、異界人は魔導世界に呼び出されると、奴隷扱いになる。
ストレスを与えて魔法を使える個体が出てきたら、そいつは別室行き。
もっと強いストレスを与えられる。即ち、魔法のコントロール訓練だ。
それが出来ないと、無能なヤツのストレス発散として鞭や魔法で攻撃される。
そして魔法に目覚めたヤツは戦場に向かわされる。
いわば、戦争のための道具になるわけだ。
そいつらを主軸に、魔導世界出身のヤツらは戦争をする。
もちろん、主軸というのは囮役だ。
使える駒を温存するのは基本だろ? それを人間でやらされる。
あとは戦時中に敵に殺されるか、活躍したあとに報酬を与えられ、その後捨てられるかだ。
オレの知る限りでは、捨てられた異界人は魔導学校の教師に保護されない限りそのまま乞食となるか、飢え死にするだけだ。
天堂の能力なら報酬をたんまりと貰ったのだろう。
だから1億円が振り込まれていて、1人でいるわけだし。
……だが天堂が捨てられたあとは謎だ。
つまり、天堂はなんらかの方法で自立したという仮説が立つ。
あの鞄なんか特に怪しいしな。
…………まあいいか。過去を詮索しても、それが必ず良いことになるわけじゃない。
「あっ、性的なことはされてないからね。あっちだとそういうことより、道具として使えるかだったから」
「そんなこと聞いてねぇしわかってるよ。むこうだと性欲だなんて陳腐なもんより、他人を利用して金や力を得ようとすることを優先するクズばかりだ。そんな腐った世界をなんとかしたくて、オレは魔導士を目指してるからな」
「……こっちも似たようなもんだけどね」
なんだ? この胸糞悪くなるような会話は。
クソ共の話を嬉々として話すような天堂を見て怒りと虚しさが湧いてくるのはオレだけか?
いかんいかん、この話はここで切り上げるか。
「もういいだろ、暗い話は。それより、教科書とかジャージ?ってのを買いに行こうぜ」
「そうだね」
そうだ。暗い話はこれで終わり!
気持ちをリセットしないとな! せっかくファンタジーのような世界にいるんだから!
「それで、教科書とかって買えるのか?」
「ジャージは通販じゃないと駄目だったけど、教科書なら指定された本屋で買えたはずだよ」
「じゃあ行こう」
「うん」
なんかまだ空気が重い気がする。
ここはファンタジーなんだ。少し馬鹿っぽくいってみるか。
それから数分後、本屋へ行くと、異界の学問のための書物がたくさん売られていた。
「うおおおおおおお!!」
「うるさい」
「すごい量だな! で、なにを買うのかはちゃんとわかってるのか?」
「うん。ちゃんとメモしてきたから」
「そっか」
こうしてオレは教科書を手に入れる。
「これがこっちの教科書か! 全部暗記しておくかな」
「ふふっ……それができたらかっこいいけどね」
「だな。あと、やっと笑ったな!」
「そうだね。法魔くんのおかげかな」
「そりゃあよかった」
「……ありがとね」
「べつに……」
天堂が元気ないのがらしくなかったから。
とか、天堂が元気ないと、なんかイヤだから。
とか思い浮かんだけど、言うのが恥ずかしいので無愛想に返す。
そうして歩いていると、ふと時計が視界に入る。
時刻を見ると10時半前だった。
つまり……
「いまは45時前か……」
「いまはいいでしょ、そういうの」
「でもなぁ……」
「いや、わたしにも罪悪感はあるけれど」
「……機械が見たい」
「わかった。……いや、やっぱ駄目。スマホで見て」
「ケチだなぁ」
「だって、うるさくするでしょ?」
「否定はしない」
「しないんだ……」
それにしても、学校をサボった罪悪感で元気が出ない。
テレビはあっちにもあるし、どうすっかな……。
「なら、コロッケでも食べる?」
「おう」
「あ! その前に上靴とか歯ブラシも買っておこう?」
「ああ、ファンタジーでよく見るヤツか!」
「むこうだと土足だし、概念魔法で口臭も虫歯も気にならないもんね」
「ああ! 歯磨きとやらも楽しみだ」
こうして上靴と歯ブラシを購入したあと、じゃがいもという芋とパン粉を購入した。
それにしても、マジでファンタジーの世界にいるみたいで、テンションが上がる。
あ! そういえば、コロッケを作る約束してくれたんだし、天堂はよく作るのかな?
聞いてみよう!
「天堂はコロッケをよく作るのか?」
「それが、あんまり作らなくて……」
「そっか。どちらにせよ楽しみだな」
「…………?」
ご機嫌なオレに疑問を持ったのか、天堂は質問してくる。
「どうしてそんなにうれしそうなの?」
「天堂が成長するところが見れるからだ。天堂が普段ドジなのは知ってるし、こっちだと一応エリートなんだろ?」
「うん」
「オレは天堂が最初からドジなところとか、エリート扱いされてることは知ってたけど、肝心の成長する過程は見せてもらったことがないからな」
「あ、そっか。法魔くんがわたしに興味持ったの、最近だもんね」
「そういうこと。だから、失敗しても気にすんな。そのときはオレが全部食ってやるから」
「いや、胃もたれするかもしれないから、ご家族の皆さんにも食べてもらう」
「いいなそれ! そんで、いつかみんなをこっちに呼んでみたい」
「みんなって?」
「家族のみんなとか、魔導学校のみんなさ」
「……そうだね」
そんな話をしていると、いつの間にか天堂の家の前に着いていた。
よし。どうせなら、思いっきりふざけてみるか。
「天堂、やれ」
「なにそれ?」
「なんかフィクションの偉い人の真似」
「そう……」
天堂はガチャリと鍵を開ける。
「それじゃあ法魔くんは、黙って待ってて」
「わかった。テレビでも観るかな」
「ごめんね。ところで……」
「どうかしたのか?」
「むこうのテレビってどうして見れるの? 電波とか出てるの?」
「電波? 魔法の効果に決まってるだろ」
「あ、そう……」
あとは物質を作り出す魔法が画面以外のベースになったと言われている。
……とかどうでもいい知識を言おうとしたが、天堂は集中してるし、あとでいいか。
◇◇◇
おかしいな?
惣菜屋で聞いた揚げる音が聞こえない。
もう帰ってきてこっちだと30分は経っているというのに。
そう思いキッチンの方へ向かうと、天堂がうずくまっていた。
「天堂!? なにがあった!?」
「包丁で指切れちゃって……」
「なにしてんだよ馬鹿……」
「好きな人の前で良いところ見せたくて……」
「はぁ……」
本当に馬鹿だなコイツは。
オレが手料理ごときで靡くわけがないだろうが。
「とりあえず、絆創膏貼らないと」
「待って。わたし、あるところ知ってるから」
「ああ。じゃあ、オレが貼ってやる」
「うん」
こうして、オレは天堂に絆創膏を貼った。
とりあえず血は止まったようだし、天堂ひとりで料理させるわけにはいかないよな……。
「すげぇな、包丁ってのは。そんで危ねぇ! まるで魔法だな」
「うん……」
ものすごく凹んでるな……。
それにしてもコイツ、本当に料理できるのか?
オムライスを作った実績はあるが……とりあえず励まそう。
「天堂、先に言っておくぞ。オレはお前に手料理を振る舞われた程度で、お前には靡かない」
「うん……」
「だって友だちとしてなら、お前のことはもう結構好きだからな」
「……そっか」
「だから、今度はふたりで作らないか? コロッケ!」
「うん!」
こうして、(具材は芋だけだが)オレたちのコロッケ作りは始まった。
まずは芋を洗ってから皮を器用に剥き、そんで一口サイズに切る!
「よし!」
「す、すごい……! ちゃんと猫の手ができてる!」
「水は沸騰させたか?」
「うん」
「じゃあ投入してくれ」
「うん」
多少お湯が跳ねるが、芋をお湯に投下し終える。
あとは塩を入れる。
これは念のためにオレが入れた。
あとはタイマーをかけて、しばらく茹でる。
「しっかし、天堂ってやっぱりドジだったのな」
「うん。あ、ちょっとだけね」
「こっちだと友だちはいるのか?」
「いないけど」
「ならオレが友だち第一号だ! 覚えとけ!」
「うん……!」
「そんで、困ってたらいつでもオレが【加速】で駆けつける。護身術として魔法を使ったことはあるのか?」
「ない」
「お前はかわいいんだし注意しておけ。オレが助けられないときは遠慮なく使っていい。天堂はもう、オレの家族だからな」
「ありがとう。むこうでもこっちでも、お世話になってごめんなさい」
「いやいや、オレの方が世話になってるだろ。特にこっちだと」
「そうだね。それにしても……」
「なんだ?」
「法魔くんに初めてかわいいって言われた……」
「おう。ま、導魔に比べたらまだまだだけどな」
「……ブラコン」
そんなふうに会話していると、タイマーが鳴り響く。
それに反応して、天堂は焦って走り出した。
「タイマー鳴ってる!」
「あっ! 待て、天堂! 【減速】!!」
すかさず天堂の動きを100分の1にし、天堂を引き止める。
熱湯をかぶったらヤバいからな。
「天堂、いきなり走るな。ドジなヤツが走るとろくなことにならん」
「わかった……」
「ゆっくりでいい。べつに急かしてるわけじゃないし、急いでるわけでもないから」
「うん」
天堂は歩いて、ゆっくりとタイマーを止める。
なんでも落ち着いてやれば、ドジなヤツでも流石にヘマしないよな?
「あとはオレがやる! ざるはあるか?」
「うん」
「よし。まずは芋をざるに上げるぞ」
「わかった!」
「よし。あとは、えーと……鍋の水気を切って芋をしばらく放置だとさ」
「法魔くん、スマホ見てる?」
「あるもんは使わないと。文明の利器だからな」
「はいはい。それで?」
「しばらくしたら芋を鍋にあけて芋を潰す。大きめのスプーンでも余裕だと。でも、スプーンなんて幻の器具、あるわけ……」
「あるけど?」
「おおっ、すげぇ! まさかこんなところでお目にかかれるだなんて!」
「馬鹿にしてる?」
「……ちょっとな」
「大きさはどれくらい?」
「1センチ角だとよ」
「わかった! 料理って意外と簡単だね」
なんだその言い方は。
ならどうやってオムライス作ったんだよ。
オムライスにレトルトはない……はずだ!
「あのー、オムライスは……?」
「ああ、あれは妹によく作ってあげてたから」
「ふーん」
スマホで作り方を見ていると、芋を小判型にするらしいが、小判ってなんだ?
「なあ天堂」
「なに?」
「小判型にするらしいんだが、小判ってなんだ?」
「昔のお金」
「えっ!? 金って紙幣だけじゃないのか!?」
「あーもういいから、わたしやるね」
「ああ、頼む」
こうして小判型にしたものを揚げたものがこれだ。
少し黒ずんでいるが、本人曰く、少し焦がしたらしい。
まぁ、見た目よりも味だよな! オルトロスはゲテモノだけど美味いし。
オレはぱくりと一口かぶりつく。
「おおっ! おおっ……」
「美味しい?」
「いや、少し味が薄い」
「なら、ソースかけたら?」
そう言って天堂は謎のタレをコロッケにかける。
このタレはいったいなんなのだろうか。
「食べてみて」
「あ、ああ」
わずかな疑問を残しつつ、ふた口目を食べてみると結構美味しかった。
だが、何かが足りない。
「美味いには美味いが、何か足りない」
「ごはんとか?」
「いや、初めてコロッケを食べたときは、そんなものなかった」
「うーん、なんだろう……? わたしもいただきます」
一口食べた天堂は、ものすごく微妙な顔をする。
「うーん、本当に美味しい? これ」
「……少し待っててくれ」
悩みつつも三口目を食べると、昨日の夕方食べたあの味そっくりだった。
いや、味は劣るが、美味さというかなんというか、何かが決定的に違うのだ。
「美味い!」
「……そう」
「なるほど、そういうことか!」
どうやらオレは好きになってしまったようだ。
食べ物をだれかと分け合い、共に食べるということを。
そしてそれは、天堂と食べるときが一番美味しく感じるようだ。
「つまり、どういうこと……?」
「天堂」
「なに?」
「オレと付き合ってくれ」
「えっ? うん、わかった」
「毎日オレの食事に付き合ってくれよ! 絶対だからな!」
「えっ、そっち……?」
「どっちの意味で捉えてもいいぞ。どのみちオレと仲良くしてくれる異性はいなかったからな」
「そう」
「それで、もしオレが本気で好きになったときには、改めて告白するだろうから、そのときはよろしくな」
「うん」
よし、言いたいことは全部言ったな。
オレが天堂をどう思っているかは、あえて言わないでおこう。
「それじゃあ寝るか」
「うん。……あ、寝る前に歯磨きしないと」
「そうだった! 力加減はどれくらいがいいんだ?」
「血が出ないくらい」
「歯から血が!?」
「それより、はやく歯を磨いて寝よう?」
「ああ」
このあと、残ったコロッケは冷蔵庫に入れた。
そしてオレに、歯磨きという新しい習慣が出来たのだった。




