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第四話 お人好しとの約束

「ふぅ!」


 オレは異界から魔導世界へと帰ってきた。

 やり方は簡単だ。それは、あのときのように鞄の中に触れるだけ。

 それにしても、あっちだと天堂がエリートだとはな。

 

「ま、オレのライバルとしてはまだまだだがな」

「誰が……?」

「うおっ!?」


 突然天堂が鞄の中から現れる。まったく、驚かすなっつーの。

 そんなオレの心を見透かしたかのように天堂は言った。


「法魔くんが勝手に驚いただけ……」

「それはそうだが……」


 なんだこいつ!? エスパーか? 

 それとも、心を読む魔法も備わっているのか? 

 コイツといると、そんなふうに深読みしてしまう。

 もちろん、この世にエスパーなんてヤツはいない。それは魔導士のことを指すからだ。

 つーか、口調もいつの間にか戻ってるし……。

 そんなオレをよそに、天堂は眠そうにして呟く。


「眠いから帰るね……」

「どこにだ?」

「家に……」

「家あったのか!?」


 異界人で家があるのは稀だ。

 だが天堂は、オレの期待を大きく裏切ることになる。

 なんと天堂が指差したのは、持っている鞄だった。


「結局異界(むこう)かよ!?」

「悪い……?」

「いや……」


 コイツは困っているのだろうか。

 あーもう! 面倒くさい!! そういうのはあとだ!!

 オレは天堂に提案してみる。


「どうせ家がないなら、オレんちに住めよ」

「え……」


 まずい。なんだか下心があるヤツみたいになってないか?

 惚れられてるからといって、それは駄目だろ渋堂法魔!

 ここは誤魔化しておくか。


「べ、別にイヤならいいけどな! オレはもう、お前のことは……その、嫌いじゃないから」

「ふふっ……そっか」


 なんだその笑みは?

 というか、いまオレおかしいこと言ったか!?

 困ってるヤツがいたら、助けるのが人間だろ?


「なら、お言葉に甘えさせてもらうね……」


 えっ……? マジかコイツ。

 ……いや、ここはそんな言葉を言うべきじゃないか。

 ここは余裕を見せておこう。


「おう! よろしくな!」

「こちらこそ……」


 こうして、天堂がオレの家に住むことになった。

 一応、家族のみんなにも言っておくか。

 でも、おじいちゃんも父さんも堅い人だからな……。許してくれるか心配だ。

 とりあえず母さんからだ。


「あの、母さん!」

「んー?」

「天堂だけどさ、オレの家で飼うことにしたから」


 これでどうだ!? 飼うというのなら、微妙にニュアンスが変わるんじゃないか?

 だが、オレのこの思考はなんの意味もなくなる。

 何故かって? それは母さんがふた返事で許可してくれたからだ。

 いいのか? 本当にいいのか? 思春期の男女が一緒に住むんだぞ!?

 オレは念のため、母さんに聞き返す。


「本当にいいの?」

「ええ。昨日、あなたたちの会話が聞こえてきて、その子、異界人なんでしょう? だから、受け入れる準備は出来ていたわ」

「そっか! じゃあ、オレの部屋で飼うから!」

「うん」


 母さんが言ってくれたなら大丈夫だろう。

 何より異界人だからな。こっちの異界人はろくでもない扱いを受ける。

 それを理解したうえでの返答だろう。

 そしてそれは、父さんやおじいちゃんも同じだと思う。


「兄貴! 頑張ってね!」

「ほどほどにな」

「…………うむ」


 ん? なんの話だ?

 つーか、おじいちゃんと父さんシンクロしすぎだろ。

 こうして、天堂をうちで飼う許可が取れた。

 ちょっと表現がアバウトだがな。だが、異界人なので、ある意味ふさわしい表現かもしれない。


「あ、でも風呂とかは大丈夫。ちゃんと異界(むこう)で入るらしいから」

「そうなの。それなら安心ね」

「ほどほどにな」

「…………うむ」

「いや、何をだよ」


 うちの家族は、なんというかこう、堅い感じだからか、下品な話はあまりしない。

 だからこそ、今日のみんなはちょっと変だ。

 もしかして、オレと天堂が恋愛関係に発展するだとか思っているのだろうか。

 否定はしない。……が、いまはそんなことになるわけがないと断言できる。

 だれかが困っていたら助けるのが、このオレだからな。


「じゃあ、部屋に行こうぜ」

「お世話になります……」

「真帆ちゃん、よろしくね」

「よろしくお願いします、天堂さん! 頑張ってくださいね!」

「息子は任せた」

「…………うむ」


 何なんだこの空気は……。

 オレは逃げるように自分の部屋に入った。

 うーん、女の子を部屋に呼んでしまった。

 しかもふたりっきりだ。……今更だけど。

 そうだ。ルールでも作るか。


「天堂」

「なに……?」

「天堂は基本、寝るときとごはんのとき以外は異界(むこう)で生活してくれ」

「うん……」


 天堂は小さく頷く。オレは続けた。


「理由を言うぞ。簡単に言うと、部屋のスペースが足りないからだ。ベッドはいつも一緒に寝る。でも、着替えとかは異界(むこう)から持ってきてくれ。それとその魔道具って、もしかして、移動したらその場に放置か?」

「……うん。鞄の中を触ると異界に行く。鞄を裏返しにしてから引っ張って伸ばして、鞄の形にしてから中を触ると逆の異界に戻ってくる。ただし、人が異界から呼び出されたとき、周りの質量が限界だと、破けて行き来できなくなる」

「たとえば、ゴミ箱に入ってるときとかか?」

「……そう」


 なるほどな。なかなかに便利な鞄じゃないか。

 異界の人間がこっちに行き来するために作ったのだろうか。

 それよりも鞄サイズにまで圧縮してるのはすごいな。

 魔導世界(こっち)だと、魔法使用者の認識によって理論が異なるから、異界(むこう)のヤツらには解明するのは不可能だろう。

 簡単に言えば、タイムマシンの時間を空間に当てはめたのがこれだろう。

 空間を行き来させるということは、寸分の狂いもなく時間軸と位置座標を完全一致させたうえで転移させてることになる。

 尤も、これはオレの憶測であり、実際は魔導具に空間魔法を外付けしたものしれないが。

 だが、それでも画期的な鞄だ。

 天堂はどこでこれを見つけたのだろう。

 ……おっと! 目の前に天堂がいるのに、癖で熟慮してしまった。


「なら、これを使うときは必ずオレのベッドの上に置いてから使うようにしよう」

「うん……」

 

 これでよし。あとでみんなにも言っておかないとな。

 『この鞄に触らないで』って。


「じゃあ、仮眠を取るか」

「い、一緒に寝るの……!?」

「当たり前だ。背中合わせで寝るか? それとも昨日と同じ感じで……」

「絶対に昨日と同じがいい!!」


 おいおい、大丈夫か? 喋り方が素に戻ってんぞ。

 というか、下に聞こえていないだろうな?

 やましいことをしてるわけではないが、恥ずかしいではないか。


「お、おう。あと、下に響くと面倒だから静かにな」

「……うん」

「じゃあ寝るか!」

「うん!」


 こうして、オレは天堂を包み込むように抱きしめる。


「勢いあまって圧死とか窒息死とかすんなよ?」

「むしろウェルカム……」

「ははっ、そうか。じゃあ、先に起きたら起こすわ」

「ん……」



   ◇◇◇



「ふわぁ~あ……いま何時だ?」


 ふと時計を見ると、3周目の3時を指していた。39時かよ!?

 まさかこのオレが遅刻……!? いや、それはないか。

 その前に天堂を起こさなくては。


「天堂!」

「……どうかした?」


 なんだ、先に起きてたのか。よかった。

 …………ん?


「……って、先に起きたんなら起こせよな!」

「寝顔がかわいかったから、つい……」

「そうか……」


 まさか、ずっと眺めていたのだろうか。

 そんなことを言われたら、いや、その前に起こせよ! なんて言えなくなってしまうではないか。


「ずっと眺めてたのか?」

「……うん。普段と違って目つき悪くないしね……」

「一言余計なんだよお前は……!」


 なんだか、ときめいて損した気分だ。


「それより、着替えてくるね……」

「いってらっしゃい」

「……え?」

「……って、ファンタジーだと言うよな。いまは消えた文化だけど」


 つい言ってしまった。

 普通の言葉なのに言葉濁しちゃったし……。

 何故だろう。コイツとふたりきりだと、妙に緊張してしまう。

 ……まさかな。


「うん。いってきます……」

  

 こうして、天堂は異界(むこう)に転送される。

 オレも着替えなくてはな!

 13着ある黒のローブの中のどれにするか迷うなぁ!

 どれにしようか。

 

「フード付きか!? それとも、このロングの方に……」

「どれも同じにしか見えないんだけど……」

「あっ、天堂!」


 そこには、瞳が赤い白いローブを着た天堂がいた。

 というか失礼だな。これはオレが毎年小遣いをはたいて買ったものなんだぞ!

 この(うさぎ)(おんな)が……!

 

「カラコン?を入れたようだな」

「うん……」


 よし、ここはあえて餌で釣るか。

 美味しい話で釣ってから、不意に酷いことを言って心を砕いてやる。


「天堂! オルトロスの兜焼き食うか?」

「え、遠慮しておく……」

「いまならオレが食べさせてやるよ」

「え……」


 どうだ天堂。

 正直オレも、家族の前でそれをやるのは恥ずかしいが、心を砕くためだ。

 オレの心が先に砕けそうだが、やるしかない!

 オレは天堂の手を取り、階段を下りる。


「母さん!」

「あ、いいところに来た。魔帆ちゃんの分もあるわよ」

「よかったな、天堂!」


 くくく、これでもはや準備は整ったようなものだ。

 あとはオルトロスの美味さに感激しているところに、白いローブにシミをつけてやる。

 ショボいと思われそうだが、絶対に目立つぞ!


「いえ、食べてきたので……」

「じゃあオルトロスだけでも食っていけよ。その反応だと、食べたことないんだろ?」

「うん。でも、絶対に食べたくない……」


 はぁ……もう! オレもお人好しだな、くそっ!


「じゃあ目を瞑れ」

「わ、わかった……」


 オレは肉の部分を、とある魔導士が創造した「金属のナイフ」で切ってやる。

 このナイフはなんと「金属」で出来ている。超高級のナイフだ。

 それをそこそこ高価な食べ物を切るのに使う。

 なんという貧乏臭さ漂う行為だろうか。だが、食器は値段の問題(はなし)じゃない。

 どう使うかは購入した側の自由だからな。

 そうして、切った肉の部分をフォークでぶっ刺し、天堂の口元へと運ぶ。


「口開けて」

「あ……」


 こうして、オレは肉を天堂に食わせた。

 『どうだ? 美味いか?』と言いたくなるが、オレはぐっと堪える。

 

「ん……美味しい」

「目を開けていいぞ」

「ん……? これ、ハーブウインナーじゃん」


 オレは大爆笑する。

 まったく、笑いを堪えるのがこんなに大変だとはな。

 そもそも、オルトロスだなんて高級食材、学校前に食べられるわけがない。

 

「はっはっは! 天堂! あんな高級なもん、そう簡単に食えると思うなよ!」

「よ、よかった……」


 それより、客人を立たせたまま飯を食うのはどうなのだろうか。

 オレは反省する。

 導魔はまだひとりじゃ立てないだろうし、ほかの家族に気を遣わせるのもな……。

 仕方ない。


「天堂、座れ。半分こだ」

「え……?」

「オレの席を半分こしよう。ほら、他に席もないし……」

「……わかった」


 こうして、オレの隣に天堂が座る。

 だが天堂の尻がデカいのか、それとも押されてるのかはわからないが、オレが椅子からはみ出てしまう。


「なんか緊張するな……って、押すなよ」

「押してない……」

「いいや、押してる。それかケ……いや、なんでもない」


 危ない危ない……! セクハラになるところだった。

 オレはそういうところは紳士だからな。

 それにしてもコイツ、本当にハーブウインナーしか食べないつもりか?

 倒れても知らないからな。


「ところで、異界でさっき食った……その、アレって、なんて名前だったっけ?」

「コロッケのこと……?」

「そう! それそれ! あれまた食べたいよな! ……って、あれ揚げるんだったか」

「あげる?」

「なら、今度わたしが作ってあげる」

「おう! 約束な!」


 マジか! よっしゃあ!!

 コロッケはマジで美味かったからな!!

 夜からテンション上がるぜ!


「それより兄貴! あと30分で40時だよ」

「そうか。急いで食べなくちゃな」


 こうしてオレはばくばくと、急いで食べた。

 一方、天堂は結局ハーブウインナーしか食べなかった。

 まあいいか。何を食べるのかは本人次第だし。

 万が一ぶっ倒れても、介抱はしないがな。


「じゃあ導魔たち、また明日な! 行くぞ天堂!」

「うん!」


 こうしてオレたちは学校へと向かう。ただ、この距離感で行って大丈夫だろうか。

 と、オレは密かに心配するのであった。

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