第二話 異界 その①
「うおおおおお……!!」
吸い込まれるような、落ちていくような感覚に襲われるオレ。
そうして気がつくと、教室にいた。
でも、オレの知っている教室じゃない。ファンタジーとかで見る、木と金属で作られた机だ。
「おおっ! すっげぇ!」
「法魔くん、うるさい……」
「あっ! 天堂!」
「もう一度言おうか?」
天堂がいつになくはっきりと話すので、オレは少し驚いてしまう。
「ほら、帰るよ」
「あっ、待てよ!」
初の異界でひとりっきりは、流石に困るぞ。
「それにしても、こっちだとよく喋るな」
「こっちは故郷だから、落ち着く」
「ま、オレはどっちの天堂も好きだけどな」
「……そう」
「あ! 好きっつってもそういう恋愛的な好きじゃなくてだな……」
「うるさい」
「すみません……」
なんだよその反応! まるでオレだけが意識してるみてぇじゃねぇか。
それよりも、なんか天堂の尻に敷かれてるような……?
「まあいいや。それで、どこにいくんだ?」
「わたしの家。帰る」
「親はいるのか?」
「いない。わたしひとり」
「そうか。なら――オレと同じだな!」
オレは珍しく満面の笑みを浮かべて言う。
「でも、魔導世界だと……」
「こっちだと同じようなもんだろ」
「……法魔くんは優しいね」
「そうか? てか、金はあるのか?」
「ある。1億円分の資金があっちの世界に呼び出されたときにこっちの口座に入れられてた」
「へー。大金だな」
「……よくわかってないでしょ?」
「……まぁな」
「はぁ……まあいいや。行こう」
「おう」
なんだかふたりきりだから、いつもより会話できてる気がする。
「それより、いま何時だ?」
「3時」
「時計は1時半だけど、異界ってもしかして……」
「そう。1日は24時間。1日48時間は向こうだけ」
「マジかよ」
「半分とか倍にしてみるとわかりやすい」
「なるほど……」
「そんなこと言ってる間に、着いたよ」
「おおっ! これ、もしかして……」
「金属で作られてる……と、思う」
「おおっ! すっげぇ!」
「うるさい」
「入っていいか?」
「鍵がかけられてるから無理だよ」
「へぇー! 鍵ってアレか! なんかガチャってやるやつだろ?」
「はぁ……」
天堂はため息をつきながら鍵を開けた。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
それにしても広いなぁ……! なんとかLDKとかなんだろうなぁ!
あまりにも新鮮なものばかりで、年甲斐もなくはしゃぐオレ。
すると、天堂がいなくなる。
「天堂ー?」
天堂を探し回ると、電気が点いている部屋を見つける。
念のために2回ノックする。
「天堂?」
「トイレだから、あんまり話しかけないで」
「あ、悪い。それで、オレは何すればいい?」
「シャワーでも浴びたら?」
「わかった」
洗面所に服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
「うおっ! 冷たい!」
びっくりして下のよくわからないハンドル?を見ると、左のハンドルが青いところまで下がっていたので、40という数字にまで目盛りを持ってくる。
すると、さっきとは打って変わって温かい水が出てきた。
「はぁ……」
温かい……。
すると、洗面所の方から声が聞こえたので耳を傾けた。
「法魔くん」
「な、なんだ?」
「着替え置いとくから。バスタオルも」
「ああ、すまないな」
「ようやくいつもどおりだね」
「すまん。テンションが上がっちまって、ついな」
「……まあいいけど、はやく上がってね」
「おう。じゃあ出るから、出ていってくれ」
「あ、うん」
こうして、男物の服に着替える。
「さてと、天堂! 上がったぞ!」
「うん」
こうして、天堂と入れ替わる形で洗面所を後にする。
そしてオレは、天堂がシャワーを浴びている間、2階を探索していた。
「まほのへや」、「まなのへや」、そして親御さんの寝てたであろう部屋を見つける。
「まなって誰だ……?」
「妹だよ」
「天堂! びっくりするじゃねぇか。つーか、浴びるの早いな!」
「両親は魔導世界で戦死した」
「妹さんは……?」
「わからない。とりあえず、今日はもう寝よう」
「あ、ああ」
「じゃあ、一緒に寝てもいい?」
「……好きにしろ」
ひとりぼっちか。
オレが如何に恵まれてきたのかを実感する。
「じゃあ、あのデカいベッドのある部屋で寝るから、準備出来たら来いよ」
準備ってなんだ……?
そう自分に問いかけながらも、オレはベッドに入る。
「あんなに嫌いだったのにな……」
人間というのは不思議だ。
導魔を助けてくれてからは、むしろ天堂に興味が湧いてきているオレがいる。
たったひとつのきっかけで、ここまで変われるんだからな――
「お、お待たせ」
「おう。じゃあ寝よう」
「……うん」
なんだ? いきなりしおらしくなりやがって。
ま、いいや。オレは天堂を包み込むように抱きしめる。
「ほ、法魔くん!?」
「あ、悪い。たまに導魔と寝るときはいつもこうしてるんだ。相手の顔をオレの胸にうずめさせて……嫌だったら言ってくれ」
「い、イヤじゃない」
「じゃあ寝ようぜ!」
「うん」
◇◇◇
7時間後……いや、こっちだと3時間半か。
3時間半経過して、オレは起床した。
「ふわぁ~……あ! そうだ、学校! 学校はあんのか!?」
「朝からうるさい」
「すみません……」
寝起きの天堂から怒られる。
「で、学校は?」
「……一応入学できる」
「そうなのか?」
「手続き等を諸々カットできるけど、これは大人にしか効かないから頑張って」
「な、何を頑張るんだ?」
「学校生活」
「なるほど……」
俄然楽しみになってきた。
「ところで、いま何時だ?」
「6時半。あっちだと13時だね」
「ふーん。あと、さっきの手続き諸々カットって何なんだ?」
「魔導書……というか、魔導届かな?」
「魔導届?」
「洗脳効果がある魔法のペンで書かれた転入届だから、魔導届。あとは、法魔くんがフルネームを書いたあと、魔力を流してくれれば完了」
「わかった! あ、ペンケース向こうだ……」
「わたしのペン貸すね」
「おう」
羽根ペンで名前を書いて、魔力を流す!
「うん。お疲れ。これを出せば転校生として扱われる」
「ふーん」
「法魔くんのこっちの名前は『渋堂鳳真』だから、よろしくね」
「鳳真か……」
「わたしの本名は『天堂真帆』だよ」
「なるほど。こっち出身だもんな」
「うん。まあ音だけだと変わらないから、好きに呼んでね」
「おう! ところで、スマホは?」
「あるけど、マジホンとか言ったら駄目からね?」
「わかった。それより、腹減らね?」
「よし。わたしが作るね」
「本当に大丈夫か?」
「……どういう意味?」
「なんでもないです……」
睨まれたので、ついたじろいでしまう。
鈍臭い天堂が、本当に料理なんて作れるのだろうか。
「なんかリクエストある?」
「オルトロスの兜焼き! あれ美味いんだよなぁ!」
「ない。あとこっちだと、犬食べてるってだけで怖がられるから注意して」
「お、おう。じゃあオムライ……いや、ラーメン!」
「オムライスじゃないんだ」
「あれは朝から食べるには手間がかかりそうだからさ」
「ラーメンの方が手間かかるんだけど」
「じゃあもう適当でいいぞ」
「はいはい」
30……じゃなくて15分後、ラーメンとオムライスが出てきた。
「はい。どっち食べる?」
「ラーメンで!」
「……法魔くんって、変わってるね」
「そうか?」
ずるずると麺を啜る。残ったオムライスは、天堂が食べている。
「おおっ! これがラーメンか!」
「インスタントなんだけど、美味しい?」
「ああ。せっかく天堂が作ってくれたんだしな。美味いぞ」
「……そういうの、他の人には言わないでね」
「え? 何が?」
「なんでもない!」
「なんで怒るんだよ?」
「なんでもない……」
うーむ……乙女心はよくわからん。
◇◇◇
「本当に鞄もらっていいのか?」
「うん。真奈がメンズのリュック使ってたけど、もういないから……」
妹さんだし、女の子なんだよな……? かなり変わった子だったんだな。
そんなことを考えていると、大型トラックが目の前を走った。
こんなファンタジーのような事態に、オレは目を煌びやかに輝かせる。
「おおっ! すっげぇ!!」
「いまのトラックがどうかしたの?」
「だってよ! 車だぞ! 車!!」
「はいはい」
「あんな鉄の塊が走ってるんだぞ!? すげぇだろ! マジファンタジーだ!!」
「驚くところそこなんだ……あと騒ぎすぎ。うるさい」
「お、おう。悪い悪い……」
「まったく……」
「そういや、制服とかは大丈夫なのか?」
「いつもの無駄に派手なローブを脱げば大丈夫だと思う」
「……そうか」
無駄に派手、か。結構気に入ってるんだけどな。
そう落ち込んでいると、天堂がこんなことを呟く。
「あ、カラコン外さないと」
「カラコン?」
そう言うと、天堂の目から鱗のようなものが出てきた。
「うわっ!? 目から鱗って、マジだったんだな」
「いや、違うから」
「あっ! オッドアイになった!」
「さっきからうるさい」
「すみません……」
「よし!」
「おっ、両方ブラウンになった!」
「そうだ。法魔くんもカラコンつける?」
「いや、いい。よく知らねぇし」
「ふーん。ビビってる?」
「まぁな」
「へぇ……」
なんだよその不敵な笑みは。誰だって初めてはビビるだろ。
てか、その白い髪の毛は地毛なのか!?
一番大事な事を訊こうと思った瞬間、学校が見えてくる。
「あっ、そろそろ学校だ」
「おお、あそこか。結構小さいな」
「法魔くん、キミはあまり喋らないで。どうせすぐにボロが出るから。だから、先生に教室に誘導されるまでは黙ってて」
「ああ、わかった」
このあと、1時間……いや、30分ほど待たされた。
退屈だったので、校舎裏で天堂に「メッセ」を送る。
『ヒマ』
『鳳真くん、いまどこにいるの?』
『校舎裏』
『先生にはアレ届けたから、校舎に入って』
『わかった』
なんだ、もう入ってもよかったのか。だったら言ってくれよな。
そんなことを思いつつ、教室に入ったらなんて自己紹介しようか考える。
『自己紹介どうしよう?』
『真帆の遠い親戚ですって言えばいい』
『了解』
『あと職員室は2階だから頑張って入って』
『わかった』
そうか、名前で呼ばないと不自然か。
よし! だんだんわかってきたぞ。
オレはスリッパを履いて2階に上り、職員室へと向かう。
「すみません! 転校生なんですが……」
「ああ、キミが天堂君の親戚の……」
「は、はい。そうです」
「では、ついてきたまえ。私が案内しよう」
「はい」
◇◇◇
なんだよ、普通に大丈夫じゃねぇか。
天堂のやつめ。
「そうだ、キミは天堂君と同じクラスだ。嬉しいかい?」
「ええ。親しい人と一緒のクラスだと、ちょっと心強いです」
「そうか。では、入りたまえ」
「はい!」
オレは先生に連れてこられた、1年3組の教室に入る。
「結構イケメンだな」
「背は普通じゃん」
「いいヤツそうだな」
オレが教室に入った途端、クラス中がざわつく。
それにしても、注目されるのはいつになっても慣れないな。
「先生」
「何かね?」
「緊張して、自己紹介の内容全部飛びました」
「は?」
オレがそう言うと、今度はクラス中が笑いの渦に包まれる。
「面白いな! お前!」
「あっはっは!」
「……そういうタイプね」
「先生、どうしたら……」
「とりあえず、深呼吸しなさい」
「はい!」
頭脳を【加速】させ、深呼吸する。
「ふぅ、落ち着きました! オレは渋堂鳳真! 天堂真帆の遠い親戚で、好きなものはファンタジーです!」
「そうか。では天堂君、彼を紹介してやってくれ」
「えっ!? は、はい……。彼は、わたしの従兄妹の兄の親の兄弟の子どもの友だちの「渋堂鳳真」くん。最近まで……えーと、海外のとある地域にいたので、機械の文明に疎いです。仲良くしてあげてください」
「はい、拍手」
教室が拍手に包まれる。
てか、最後に友だち付けたらそれ親戚じゃなくね? ……と思ったが、みんな納得してくれたようだ。
「席は――」
「俺の方来いよ!」
「あたし! あたしの後ろ空いてるよ!」
「うーん……」
みんないい人なんだろうけど、どこにしようかな。
オレとしては、どこでもいいんだけど。
天堂に聞いてみるか。
「真帆はどこにすればいいと思う?」
「えっ? わたし?」
クラス中の注目が天堂に集まる。
「えーと、親しい人の近くとか……?」
「決まりだな。天堂君、キミの隣に彼を配置する」
「ありがとうございます、先生」
こうして、オレは天堂の隣の席になった。位置で言うと、窓際の一番後ろだ。
ちょうど空席だったようで助かった。
「よろしくな、真帆」
「う、うん……」
やれやれ、話し方が魔導世界にいるときに戻ってるぞ。そんなんで本当に大丈夫なんだろうか。
そう思いつつ、これから1時間目の授業が始まろうとしていた。




